第24話 蛇蠱の心臓

 勢い良く水母の領域を出たは良いが、これからどうすべきか?敵の位置が解らないし。


「とりあえず、捜索か」


 カラス型の式神を多量に作って放つ。妖気を節約したから強さや強度は普通のカラスと同じだが、索敵にはこれで十分だ。


「ん!?これは…」


 カラスが早速妙な物を見つけた。


「此処だな」


 ビルとビルの間。薄暗い隙間に、嫌な臭いが立ち込めている。


「シャァァァ!!」


「早速当たり!」


 そこに居たのは醜い大蛇の蛇蠱。蛇なのは上半分だけで、真ん中から下は無数に枝分かれして、百足の尾になっている。


「使う虫に悪意を感じるな」


 妖気と瘴気を混ぜる俺独自の戦い方、「瘴気闘法」。これを使っての初戦闘である。因みに名前をつけたのは水母だ。俺じゃない。


「よし!殺るか!」


「ギシャァァァ!!」


 無数の尾が俺に迫るが、正直言って遅すぎる。「瘴気闘法」で高まった身体能力の上から更に電流を纏い、速度を高める。


「うおっ!!すっげぇ!」


 ちょっと地面を蹴っただけで蛇蠱の眼の前に瞬時に移動できた。俺を狙った敵の尾は俺を捉えそこねたどころか、まだ、俺がさっきまで居た場所に向かう途中だ。

 狙いを変えることもしない。俺が速すぎて敵の思考が追いついていないのだ。


「よっと!」


 「瘴気闘法」の膜と電流を纏った手刀で蛇蠱の首を撫でると、豆腐のように抵抗なくその首が落ちる。


「シャ!!シャァ!?」


 間の抜けた声を出しながら蛇蠱はその場で息絶える。その断面は溶けており、未だに泡立っている。


「大したこと無かった?でも…」


 倒した蠱毒の死体を見る。一応蛇を使っているが、新城さんから聴いてた姿と全然違う。


「蠱毒違いか。というか、複数居るのかよ!!」


 嫌な事実である。しかし、コイツが聴いてた奴とは思えないし、間違いないだろう。


「とりあえず、心臓貰うか」


 こんなでも一応蛇だ。竜蛇の心臓である事に違いはないはず。


 手刀で心臓を切り出して手の取る。流石にそのまま喰うのは嫌だな。水母が居れば調理してくれるんだけど、此処は彼女の領域じゃない。


「仕方ない。電気で炙るか!!」


 そこら辺に転がってた金属の棒に電流を流し、熱くなってきたらその熱で蛇の心臓を炙る。


「おお!良い焼き色!!」


 そのままパクリ!うん。あんまり美味しくない。でも食べられない程じゃない。そのまま喰っていき、全て食べきる。


「ふう!全部喰った!ん!?これは!!」


 喰ってすぐ心臓に痛みが走る。今までに何度か経験した痛みだ。雑魚だったから期待してなかったが、流石竜蛇の心臓。結構効果が有ったらしい。


 痛みが徐々に治まっていき、そのまま体の熱も引いていく。


「早速見てみるか!!」


 スマフォで能力を確認する。


名前  :藤堂 忍


種族  :ダンピュール(デイライトウォーカー)


種族特性:邪気放出・日光耐性・夜目・吸血・吸血衝動・動物操作(蝙蝠と鼠限定)


固有特性:反神威体質 流水耐性 竜化(翼竜)


状態  :正常


能力  :再生   

     電磁支配

     三力支配(引力・斥力・重力の支配)(New)

     超回復付与(New)


備考  :ダンピュール族の弱点【日光(耐性あり)・銀】瘴気闘法習得


 強くなった点で言えば、引力、斥力、重力を操作から支配に変わったところか。後、「超回復付与」何気に仲間を治癒できるようになった。


「後は、竜化が種類変わってる?スマフォこれ解るか?」


「翼竜の能力などは実際に成ってみないと解りません」


「此処では拙いよな」


 こんなところで竜化なんてしたら、一気に新聞の一面に載るし、ニュースになる。


「とりあえず、強くなったのは事実だし、次の蠱毒を探すか。ん?」


 よく見ると、倒した蠱毒の近くに人の遺体が3体有るのが見える。毒で変色し所々食い千切られているが、1人はウチの高校の制服を着ている。


「あ…」


 遺体に向かって手を合わせる。俺に出来るのはそれだけだ。


「助けが間に合わなくてすいませんでした」


 一分ほど、黙祷し、俺は目を開ける。


「よし!行くか!!」


 次の敵を探そうとした俺に式神から妙な情報が入る。


「これは!?」


 式神が見つけたものに近づいていくと、その姿が徐々に肉眼でも見えてくる。全身に火傷を負った前川君とそれを運ぶ2人の黒服。2人も火傷をしており、満身創痍だ。


「大丈夫ですか?」


「へ!?」


「うわぁぁ!!いきなりなんだコイツ!?」


 驚く黒服達。そんなに驚くこと無いのに。


「一般人か!見られたな。厄介な」


「気絶させて後で記憶を消してもらおう。俺がやる」


 1人がフラフラしながら懐かしの御札を出す。うん。それ俺に効かないよ?


 まあ、それはともかく、一般人と思われてるのか?黒服は妖魔を見分けることが出来ないのかな?


「俺にはそれ、効かねえよ」


 瘴気を使って札だけ溶かす。


「ひっ!瘴気!!」


「コイツ!!妖魔か!!」


 俺は身構える2人の背後に移動し、2人の方に手を置く。


「なっ!消えっ!!」


「此処だよ」


「なっ!!」


「ひぃぃ!!」


 肩に置いた手から2人に電流ではなく、新たに手に入れた超回復付与を流す。


「なっ!?傷が!!」


「ええ!!」


「お!初めて使ったけど、結構効き目良いな!」


 傷が治っていく事に驚く2人が担いでいる前川くんを取って、地面に寝かせ、此方にも超回復付与を掛ける。


「う、うぅぅ」


「お!治ってる!」


 良かった。それにしても酷い火傷だ。来てよかった。あのままだったら死んでたかも知れない。


「う、うう。げほっ!ごほっ!」


「前川君?意識有る?平気?」


「あ、藤堂さん?」


「そう俺。何があったの?」


「何?…」


 暫くボウっとしていた前川君だが、徐々に意識が覚醒してきたのか、ハッと目を見開く。


「藤堂さん!!」


 ガシッとすごい勢いで肩を捕まる。


「お願いします!!土倉さんと磯辺さんを助けてください!!廃工場で蠱毒が…」


「解った!!」


 それだけ聞ければ十分だ。俺は瘴気闘法を全て体内に流す方に割り振り、更に電流を纏って速度を上げる。更に自分に掛かる重力を軽くする。今俺が出せる最高の速度で走る。


「「なっ!!」」


「消えた!!」


 俺が走った後で、3人が驚きの声を出したが、俺の耳には届かなかった。

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