閑話1 新城 胡々乃
「高山先輩と愛川さんって付き合ってるらしいよ〜」
「え!!アレって本当だったの!!デマだと思ってた!!」
「告白は高山先輩からだって!」
「ええ!!あの奥手な高山先輩から!!」
私の目の前で友達2人が同級生の恋愛話で盛り上がっている。
でもあれ、私はあんまり喜べないんだよね。高山先輩ってかなりのイケメンで、サッカー部のエース。成績も優秀だけど、今三股かけているのだ。恐ろしく女癖が悪い。さっき2人が言った奥手という評価は彼が演じているキャラだ。本気で恋している愛川さんが不憫でならない。
「ねえねえ!胡々乃はどう思う?」
「え?」
いきなり話を振られて思わず変な声が出てしまう。
「だから、高山先輩と愛川さんの話し!」
「え〜と」
どう答えて良いのか解らない。咄嗟に能力を使って友達の思考を読む。あんまり使いすぎると人間不信になるから普段は控えてるけど、こういう時は便利だ。
ああ。これは。興味が有るふりだけしておけば答える内容はどうでも良いな。
「そうだね〜。高山先輩も奥手だし、愛川さんも自分から行くタイプじゃないからちょっと意外かな?でも上手くいってよかったよね」
本当は全然上手くいってない。愛川さんが辛い目に遭わないか心配だ。でも、皆はクズ男高山の本性を知らない。こう答えておくのが吉だ。
「そうだよね!上手くいって良かった!」
そこからも話は盛り上がり、2人は次々に話題を出す。私は能力を駆使してそれに合わせていくが、頭では別のことを考えていた。
「でね〜。そうだよね〜」
「うん!良いと思う」
そうこうしている内に休み時間が終わり、授業を受けて放課後になる。いつもと同じ日常だ。
「じゃあ。さようなら」
部活の有る友達と別れて帰路につく。
「そう言えば。藤堂さん来なかったな。それもそうか」
確か身内に不幸が有ったはずだ。1個上の学年に居たお兄さんが交通事故に遭って亡くなったとか。
「暫くは来れないだろうけど、来たらなんて励まそうかな?」
心が読めるとは言え、身内を失った人の励まし方など経験がない。
「まあ、今から悩んでても仕方ないか」
結局は実際に本人の思考を読んで、最適解を見つけるしか無い。
「どうなるかな?」
そんな事を考えながら歩いていると後ろから足音が近づいてきて声が掛けられる。
「お!新城じゃん!」
「へ?高山先輩?」
何の用だろう?と言うか今部活中じゃない?サッカーは?
「俺もこっちなんだ!」
「高山先輩部活じゃないんですか?」
「今日は顧問の大平先生が午前で帰ってさ。今日は無し!」
ああ!そう言えばそんな話も聴いた。確かお子さんの体調が悪くて早く帰ってきてほしいって奥さんから連絡が有ったとか。
仕事中に連絡するぐらいだし、よっぽどなんだろう。お子さんは大丈夫かな?
「新城も1人みたいだしさ。一緒に帰らないか?1人で帰るのもつまらないし」
またか!今までも何度か高山先輩が絡んでくる事は有った。思考を読むと何を考えてるのかすぐに解る。
「(新城って普段目立たないけど、結構可愛いんだよな。へへ。1回ヤッてみてえ!!)」
うわっ!!解ってたけどクズだ!まあ、私にそういう感情を持つ理由は私の特性にも原因は有るんだけど、それにしたってクズだ。普通の人はもっと苦悩するし、あんな安直な思考はしない。
私の特性に関係なく、女をとっかえひっかえしてる人の思考だ。
「そう言えば、愛川さんとお付き合いしだしたんですね。おめでとうございます」
「え!?ああ。ありがとう。(やべぇ!愛川とのこと、1年で噂になってんのか!!これは難易度高いな!まあ、新城の方からコクらせるように仕向ければイケるよな!!)」
こういう時、思考が読めると便利だ。まあ、読めなくても表情の変化で大体は察せられるけど。
折角だからちょっと揺さぶってみるか。
「3年の谷口先輩とは別れたんですね。知りませんでしたから驚きました」
「え!?ああ。まぁ〜」
動揺してる。そこまで知ってるのかよって心の中で叫んでるのが聞こえてくる。まあ、実際にはそっちとも別れてないし動揺するよね。後は確か塾で知り合った他校の西川さんだっけ?
「ところで何時も新城は1人で帰ってるのか?」
話題を変えてきたか。まあ、続けてたらボロが出るだろうし妥当かな。
「友達は皆部活が有るので、帰宅部は私だけです」
「新城も部活に入ってみたらどうだ?ほら!普段本を読んでるし文芸部とか!」
確かに普段本を開いているが、読書よりも体を動かすほうが好きだ。本を開いているのは集中して心を読む時に、本に集中してると誤解させるため。ただ、いくら弱い方とは言え、私が一般人の中に入ってスポーツするのは反則っぽいしね。手加減すると逆にストレス溜まるし。
「読書は良くしますけど、文芸部に入ろうと思うほどじゃ無いんですよね。読んでればそれでいいので」
「へ〜そうなのか!じゃあ好きなことって何なんだ?」
好きなことねぇ?体を動かすことって言えば、何で運動部に入らないんだって訊かれそうだし。そうだな。
「スポーツ観戦ですかね」
「へ〜意外な感じだな」
「そうですか?」
本当は自分で動きたいんだけどね。母さんの血が結構強く出てるから、野山を駆け回って兎とか野ネズミとか捕まえたい。
「しかしそうか。スポーツ観戦が好きか」
高山先輩から嬉しそうな感情が伝わってくる。
「だったらさ。運動部のマネージャーとかどうだ?丁度サッカー部でマネージャー募集してるし」
なるほど。この話に持って行きたかったのか。でも…
「マネージャーとなると大変そうですからね。申し訳ありませんけど」
「あっ。そうか。まあ、考えといてくれよ」
アテが外れちゃったね先輩。まあ、そう簡単に思い通りにいかないよ。
そのまま暫く歩いていたが、私は嫌な気配を感じて立ち止まる。
「どうした?新城?」
高山先輩がどうしたのかと尋ねてくるが、返事を返す余裕がない。今までも特性の関係上劣情の篭った視線を向けられることは有った。だが、これはそんな程度の物じゃ無い。
これは!!殺意!?
「おい!一体どうしたんだよ新城?」
高山先輩がなおも私の問いかけるが、すぐにそれどころではなくなる。私達の前にそれが姿を現したからだ。
「え!?なに?これ?何かの撮影?」
「撮影なわけが無い。こんなリアルな化物CGならともかく特殊メイクや作り物で作るの無理よ!」
そいつはとんでもなかった。上半身は裸の女性の姿だが、下半身は蛇のようになっている。しかもその蛇の部分は蜘蛛の胴体に繋がり、蜘蛛の背中からは大きな蛾の羽が生え、更に尻の部分からは無数の百足の尾が飛び出して触手のように蠢いている。
上半身の女性の部分も普通ではない。ベースは人間の女性だが、右半身にはびっしりと虱が湧いており、両肩から蟷螂の鎌が生え、背中には肩甲骨の辺りから二つの蛇の頭が伸びており、腰辺りには蟷螂の羽が生えている。
「見るだけで気持ち悪い。何コイツ?」
いくら妖怪と言っても此処まで醜い奴が生まれるのだろうか?
「高山君!!見つけた!!」
「ひっ!!何で俺!!」
コイツ高山先輩を狙ってるのか?なら私は逃げて大丈夫かな?
「貴方で最後!貴方は私の中に入れてあげる。一つになりましょう」
「ひぃぃぃ!!!」
巨大な百足の尾が高山先輩に迫り、先輩は悲鳴を上げて失禁し、そのまま気を失う。
高山先輩が気を失った理由は、恐怖も有るだろうけど、それ以上にこの気持ち悪い空気のせいだ。コイツ何か出してるのか?
「どうするか?」
逃げるのが吉だが、流石に高山先輩を置いていくのは寝覚めが悪すぎる。いくら女をとっかえひっかえする脳みそ下半身直結のクズ男でも、化物の餌になるのが解ってて見殺しは拙い。
「とは言っても」
私じゃ勝てそうにないし、高山先輩を抱えて逃げに全力を尽くすか。
「久しぶりの能力全開!!」
私の中の力が高まり、狐の耳と尻尾が生え、手足の爪が多少長くなって鋭くなる。
「こおぉぉぉぉん!!」
鳴き声を上げて、化物の注意を引く。自分が逃げることだけ考えたら逆効果だけど、高山先輩助けるなら多少注意を分散させないといけない。
「なに?あんた?」
こわっ!!上手いこと注意を引けたけど怖すぎるよ!
いや、恐れるな。とりあえずスキを探すために思考を読まないと!
「(イタい!ツラい!ニクい!イタい!ツラい!ニクい!イタい!ツラい!ニクい!イタい!ツラい!ニクい!イタい!ツラい!ニクい!イタい!ツラい!ニクい!イタい!ツラい!ニクい!イタい!ツラい!ニクい!イタい!ツラい!ニクい!
イタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいイタいツラいニクいニクい!ニクい!ニクい!ニクい!ニクい!ニクい!ニクい!ニクい!ニクい!ニクい!ニクい
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「うわぁぁぁ!!」
なにこれ!?ヤバイ!!頭が割れるかと思った。コレがアイツの思考?嘘でしょ?
「がぁぁ!!」
「うわぁぁ!!」
巨大な百足の尾が一本私目掛けて襲いかかる。咄嗟に避けるが、その尾は私が立っていた場所のアスファルトを砕き、地面に突き刺さる。
「何よ!あの威力!?」
当たったら一発で死ぬ。
「こうなったら。こぉぉぉん!!」
晴れた空から私に鳴き声に反応して雨が降り始める。
「狐の嫁入り」
私の力の混じった雨粒が日光を乱反射し、辺りに幻想的な風景を作っていく。
「何!?高山君とあの女は何処?」
良し!私達が見えなくなった。五感がありえないくらい鋭い奴や、特殊な感覚持ってる奴には効かない場合も有るって母さんに言われてたから、賭けだったけど、どうやら私の幻術はちゃんと効いたらしい。今、あの化物には私と高山先輩は認識できない。
「よっこいしょ!」
荷物を担ぐように高山先輩を担ぐと、そのまま走り去る。追ってくる気配は無い。どうやら撒けたようだ。
「死ぬかと思った〜」
逃げた後。最寄りの公園で一息つく。
「さてと!これからどうしよう?」
このまま公園に寝かせとけばアイツが此処を見つける可能性が有る。私の幻術はそう長くは効かないし、アイツは高山先輩を狙ってるんだから。
「あんなのに狙われるなんて何やらかしたんだか」
ともかく公園に置いておくわけにもいかない。とりあえず警察に連絡して来てもらう。公園で高校の先輩が倒れてた。うん。警察呼ぶのに十分な理由だよね。
駆けつけてきた警官が高山先輩が気絶しているだけなのを確認し、車に乗せて保護していってくれた。
「とりあえず。やれることはやったし帰るか!」
まったくクズ男に絡まれて、そのクズ男を狙ってる化物に襲われて。今日は厄日だね。
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