第13話 川姫
心地よい風が流れる河川敷を歩く。とりあえず昨日はあの後、学校の裏山で夜を明かした。結構自然豊かな山で、鹿や猪も沢山居て、食料には困らなかった。
あそこ、時々行くけど、あんなに自然豊かだったんだ。途中で洞窟も見つけ、蝙蝠を大量に発見できたのは地味に収穫だった。蝙蝠や鼠に鹿や猪を補足させて、コッソリ近づいて狩れば、成功率は百%だ!
ともかく母さんはスマフォの電子マネーに毎月三千円のお小遣いを振り込んでくれると言ってくれたので、暫くは問題ないだろう。月三千円と言っても、殆ど山とかで夜を明かすし、動物狩れば食料にもお金かからないし、服くらいか?
後はやっぱり兄貴のあの彼女についてだよな。話したほうが良いのだろうか?でもなぁ〜
白い髪だけならまだ解る。アルビノとか色素が薄いとか有るだろう。だが、そういう場合、瞳は赤くなると聴いた事が有る。まかり間違っても銀には成らない。まして、兄貴や家族には黒目黒髪に見えているなら。
「人間じゃない可能性が高いよな」
いっその事兄貴には伝えずに、父さんと母さんにだけそれとなく伝えておこうか?
「ん?」
そんな風に考えながら河川敷を歩いていると、川辺に一人の女の子が立っている。瞳が合うと、ニッコリと微笑んで近づいてくる。
うん!正直ね。めっちゃドキッとしました。本当にめちゃくちゃかわいい女の子だ。歳は俺と同じくらいかな?正直人間とは思えない可愛さだよ!
その少女はテクテクと軽やかな足取りで俺に近づいて来ると…
「……/////」
い、いきなり抱きついてきた!!!!!
え?何?なんで俺、いきなり美少女に抱きつかれてんの?正直この状況は童貞にはキツイです。
そんな風に思っていると、少女が顔を俺の顔に近づけてくる。どんどん迫ってくる美少女の顔!メッチャ至近距離なのに毛穴など見当たらない。透き通る様に白い肌と幻のように愛らしい
「………」
えぇぇぇぇぇ!!!!
なんで!なんで俺いきなり見ず知らずの美少女とキスしてんの??もう何がなんだか解らない。人生初めてのキスに呆然とする俺。しかし、少女の反応は違った。
「……んん!!」
一瞬驚いたように目を見開いた少女は驚いた様に俺を見る。
な、何!?別に変なことしてないよ?舌入れたりしなかったよ!!
少女の突然の反応に動揺する俺だが、少女はすぐに笑顔に戻ると、また俺の首に手を回し、今度は耳元に口を近づけてくる。
「貴方、素敵、私のお家に来て」
「うえぇぇぇ!!!」
耳元で囁かれた言葉に俺は思わず驚きの声を上げてしまう。
いやもう本当に!彼女居ない歴享年の男にはたまらないよ。甘い声で囁かれた言葉の内容もさることながら、耳に掛かる美少女の吐息に俺の理性が崩れそうだ。
……………
………
…
でもね。これ、引っかかる馬鹿、居るのかな?そうまさしく、人間ではありえないほど愛らしい美少女だよね。だって人間じゃないもの。
「いくら何でもわざとらし過ぎるだろ!!」
「なっ!あぐぅ!」
俺は全身から電流を放出する。当然俺に全身を密着させていた美少女は電流を浴びて吹っ飛ばされる。
「ぐぅ!おのれ〜」
「正体を表した。のか?」
険しい目で此方を睨んでくるん少女。先ほどと違い、肌が青白いを通り越して青っぽくなり、全身が水気で覆われている。ただの水ではなく粘性がある液体のようで、テカテカと光っている。両生類の皮膚と言う表現が一番しっくり来るかも知れない。
だが、肌の色が変わった事と体表が粘液に覆われた以外はさしたる変化は見られない。ぶっちゃけ今でも十分美少女だ。
「もっとカエルっぽくなったりするのかと」
「死ね!」
彼女が右手を振るうと同時に粘液が鞭のようにしなって俺に叩きつけられる。
しかし…
「なにぃ!」
俺に当たった粘液は力を失ったように普通に飛び散る。ぶつけられた俺はと言うと、服にネバネバの粘液が着いて気持ち悪いけど、それだけ。ダメージは零である。
「次はこっちの番だな!」
右手にためた電撃を美少女に投げつけるが、彼女は粘液の壁を作って電撃を防ぐ。
あの粘液もしかして絶縁体か?だったら厄介だな。
「ふんっ!どの程度の力を持つか知らぬが、この妾をコケにしたこと、後悔させてやろう!!」
美少女の全身から粘液が溢れ出し、そこら中に広がる。
「うわぁ!キモい光景!」
そこら中見渡す限り粘液地獄だ。
「潰れろ!!」
美少女が俺に向かって右手を突き出して握りしめると、辺り一面に広がった粘液が四方八方から迫り、壁のように、いや、壁と言うより渦と表現する方が正しいかも知れない。ともかく粘液の塊が俺を押しつぶそうとする。そして…
「な、なにぃぃ!!!」
粘液は、俺に触れた瞬間その力を失って崩れる。俺は普通に前に向かって歩くことで粘液の渦から脱出する。
「ば、馬鹿な!!妾の全力を!!!」
「よっと!」
俺は素早く動いて美少女に接近し、電流を込めた右手でその腕を掴む。
「なっ!あぐぅぅぅぅ!!!」
全身に電流が流れて暫く悶絶した後、少女は地面に崩れ落ちるように倒れ込む。
「がぁ!あがぁ!」
何とか動いて、起き上がろうとしている様だが、電流のダメージと感電による麻痺で動くことすらままならない。
「結局コイツは何なんだ?」
スマフォを取り出してアプリを起動、美少女妖魔の写真を撮る。
出てきた情報は此方。
名前 :無し
種族 :川姫
種族特性:精気吸収・魂魄吸収・邪気放出・魅了・精吸衝動・水中呼吸・高速遊泳・水上歩行
固有特性:動物操作(魚類と両生類限定)・植物操作(水草限定)
状態 :感電 重傷
能力 :液体操作
粘液発生
変化
幻術
発情
催眠
妖毒生成
判断力阻害
理性阻害
認識阻害
備考 :川に現れる妖魔。男性を魅了して川に引き込んだり、魂や精気を吸い取ったりする。
初歩的な水の妖術を習得している。
うん。俺、よく勝てたね!何この強さ!!自分のスペックと並べてみるとよく解るよ!
名前 :藤堂 忍 名前 :無し
種族 :ダンピュール(デイライトウォーカー)種族 :川姫
種族特性:邪気放出 種族特性:精気吸収
日光耐性 魂魄吸収
夜目 邪気放出
吸血 魅了
吸血衝動 精吸衝動
動物操作(蝙蝠と鼠限定) 水中呼吸
高速遊泳
水上歩行
固有特性:反神威体質 固有特性:動物操作(魚類と両生類限定)
植物操作(水草限定)
状態 :正常 状態 :感電 重傷
能力 :再生 能力 :液体操作
電磁支配 粘液発生
斥力制御 変化
引力制御 幻術
発情
催眠
妖毒生成
判断力阻害
理性阻害
認識阻害
備考 :ダンピュール族の弱点 備考 :川に現れる妖魔。男性を魅了し
【日光(耐性あり)・銀】 て川に引き込んだり、
魂や精気を吸い取ったりする。
初歩的な水の妖術を
習得している。
正直、相性が良かっただけで、俺より格上の相手だと思う。『反神威体質』が無ければやられていた。
因みに、土倉さんに聴いたのだが、神威とは、妖魔の妖力や人間の霊力、導力など、あらゆる超常の力の総称らしい。そして、反神威体質とは、そう言った超常の力による外部からの干渉を一切受けない体質のようだ。千人に一人の特異体質と言っていた。
この説明だけなら無敵に感じるが、通常『反神威体質』の人間は自分自身も一切神威を持てないので、術や異能が使えない。しかも、物理攻撃は普通に効くので身体強化で殴られたり、妖魔の爪や牙で殺られるとアウトだ。
俺は能力を使えるが、それは一回死んで妖魔化した事による特例だ。
後、もう一つの弱点として、あくまで体の外部からの神威を打ち消すんで、体内に入ったものは効くそうだ。
まあだが、今回は相性が良かった。川姫の異能や特性はかなり沢山有るが、全て異能による攻撃を行うものか、バッドステータスを与えるもので、反神威体質の守備範囲内だ。
「ぐぅ!妾に此処まで!貴様!何者だ!!」
「藤堂忍。唯のダンピュールだよ」
「ダンピュールだと!ふざけるな!血吸人が日中に歩けるものか!!」
血吸人?え?ダンピュールの和名ってそれなの?て言うか、この川姫実は結構年配の方?
「日光耐性が有るから。それよりなんで俺を襲った?」
「ふん!阿呆の様に邪気を撒き散らしながら歩いている馬鹿な妖が居たのでな。きっと右も左も解らぬ若造だろうと思い、食い殺して力を得ようと思ったのよ」
「妖が妖を喰うのか?」
てっきり人間に危害を加えるものだと思ってたけど?
「精気を吸い取って、食い殺す事だけが目的ならば人を狙う。その方が楽だからな。だが、人の精気を吸えば腹は満たされるが、力にはならぬ。我が領域を守るために、力が必要だったのだ」
「妖を食えば強くなるのか?て言うか、領域?」
何か色々と聞きなれない単語が出てきて話しについて行けない。とりあえず強くなるために俺を襲ったことは解ったけど。
「小僧。貴様幾つだ?強さの割に無知すぎんか?」
川姫は眉根を寄せて俺を見る。
まあ確かに、無知な自覚は有るけどさ。今まで妖魔とかとは関係ない世界で生きてきたんだから。
「十六歳だけど。いや、今まで人間だったから妖魔の常識は無いけどさ」
「ん?人間だった?どういうことじゃ?」
最近身の上話言うこと多いな。まあ別に良いので川姫にも事情を説明する。
「なるほど!得心がいった。どうりで無知なわけじゃ」
川姫はニヤリと笑うと、優しげな声音で語りかけてくる。
「それだけ唐突に妖の世界に放り出されては大変じゃろう?妾の領域に招いて色々教えてやろうかえ?」
何だろう?怪しいを通り越してるよ!明らかに地の利が有る場所に誘い込んで食い殺すつもりだよね?
「いや、ついさっきまで殺し合いしてたし、普通に遠慮しますけど?」
「そう冷たいことを言うでない。妾等は同じ妖同士。手を取り合って何の不自然があろう」
いつの間にか、最初の美少女状態に戻って、俺の手に自分の手を重ねてくる川姫。
うん。男心がよく解っていらっしゃる。今まで一体何人川に引き込んだんだろうね。
「ついさっきまで食い殺そうとか言ってた
「あの時は確かにそう思っていたが、お主は何やら妖力を無効化する力を持っておろう?」
さっきの戦闘で気づいたのか!やっぱり結構ベテランの方?
「………」
「隠さなくても解っておる。その力が有れば妾がお主を害することは不可能じゃ。そう警戒するな。お主は強いのじゃからな」
怪しいことこの上ないが、俺も聴きたいことは有る。川姫は人に近い見た目だ。人形の妖魔は普段どうやって生活しているのだろうか?しかも、さっきスマフォでググったが川姫は結構危険な部類の妖魔。陰陽師が放っておくはずがない。
「本当に敵意は無いんだな?」
「勿論!ただの親切心じゃ!」
怪しさ満点だが、乗ってみよう。最悪襲われても勝てば良いんだ。まだ、俺の全力電撃を川姫に見せてない。きっと何とか成るだろう。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。俺は川姫に手を引かれるままに、川へと足を踏み入れた。
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