第12話 家族2
確かにこういう所の有る人だったさ。でも、でもさぁ。死んだと思ってた息子との感動の対面、その第一声が、「アンタプチ整形でもしたの?」は流石にないだろう!!
「何、変な顔してんのよ。せっかくちょっとはましに成った顔が台無しよ」
「ちょっと母さん!今の状況で普通そういうこと言う!?」
「この状況自体異常なんだから、普通を求めるのが間違いよ」
何だろう?この正論だと誤解しかける暴論は?
「まあ、事情は父さんから聴いた。無事ではないし、生きてたわけでも無いけど、まあ、また会えて良かったわ」
「あ!うん」
「隣の子は?」
「ああ。偶然家の前で会った陰陽師」
「はぁ!?陰陽師?アンタ何、敵と一緒に居るのよ!!電話してる場合じゃないでしょ!いてこませ!!」
「ちょ!煽らないで下さい!!藤堂さんに襲いかかられたら僕普通に死にますから!!」
いや、母さん!血の気多すぎない?いきなり「いてこませ」は無いでしょ?
「あの、落ち着いて下さい。僕、正式な陰陽師じゃ無くてバイトですし、戦う気無いですから…」
「甘ったれたこと言ってんじゃ無いわよ!敵なら正々堂々戦ってぶっ飛ばしなさい!!」
血の気が多い我が母に前川くんが引いている。まあね、慣れてない人は戸惑うよね。
「母さん。可愛そうだから止めてあげなよ」
「まあそうね。でも陰陽師って連中に腹が立ってるのは本当よ。理由はどう有れウチの息子を殺そうとしてるんだから」
「巻き込まれたら拙いから変な事は止めてくれ」
母さんと話していると、画面の脇からヒョコッと妹の桜が顔を出す。
「おにぃ!ちょっとはマシに成ったけど、ダンピュールって言うにはまだまだ名前負けだね」
「第一声がそれかよ!!」
血の繋がりを感じるな。この
「だってダンピュールって言ったらもっとこう…」
「お前が読んでる少女マンガと一緒にするな!!現実は厳しいんだよ!!」
「でも、今のおにぃの顔面偏差値じゃまだ、女の子と恋に落ちて、愛を囁きながら血を貰ってとか無理じゃない?喜劇になるよね?」
「どういう漫画読んでるんだよ!!何その限定的なシュチュエーション!!」
お前の趣味がドップリ出た妄想の世界じゃねえか!!
「と言うか、俺の顔が酷いみたいな言い方止めて!!生前より格好良くなったつもりだから!!」
「まあ、確かに生きてた頃よりは顔面偏差値上がってると思うけどさ〜素が素だからな〜」
「俺の生前の顔をディスらないで!!平均値はあったつもりだから!!」
「ええ!!アレで平均値!?」
「普通に傷つく!!何この妹!!」
何か何だろう?心が痛い。また能力に目覚めそう。
「まぁまぁ忍」
「父さん?」
「桜は少女マンガとアイドルにドップリ嵌ってるからな。この子基準の男の顔の平均値は、某アイドル事務所の選考に通るレベルだ。気にするな」
何だろう?それはそれで、妹の将来が心配に成ってくるよ。彼氏とか出来るんだろうか?
「それでさ。おにぃ?大丈夫?」
「え?何が?」
「ダンピュールだから、血を吸わなきゃ駄目でしょ?人を襲ったりしてるの?さっきも言ったけど、おにぃの顔じゃ愛を囁いて血を貰うって訳にはいかないだろうから心配だよ」
え!?ナニコレ?心配してくれてんの?それともディスってるだけ?多分後者だよね?
「別に人間の血じゃなくて良いから大丈夫だよ。こないだは鳥を捕まえて、血を抜いたし。血であれば何の動物のでも良いから」
「あ!そうなんだ!ちょっと安心したよ」
桜は本気でホッとした顔をする。一応心配してくれてたのかな?
「忍!」
「兄貴!!」
最後に声を掛けてきたのは兄の希だ。兄弟なんだが、兄貴は小学生の頃から勉強をやりまくってたせいで、勉強ができ、今は東北大学に通っている。何気にすごい人だ。「同じ兄弟なのに」とよく母さんには嘆かれたものだ。顔に関してはパーツは同じなのだが、知的な雰囲気が有る分若干兄貴の方がイケメンと言われていた。
しかし、しかしである。ダンピュールに成って顔が良くなった。今なら顔面偏差値だけは兄貴を超えられたぜ!!
「忍?どうした?黙り込んで?」
どうでも良いことを考えていてつい無言に成っていた。
「あ、ああ!ごめん兄貴。どうかしたの?」
言ってからこれはおかしいかと思った。おそらく俺の訃報を聴いて駆けつけてきてくれたのだ。「どうかしたの」は無いだろう。
「あー、えっと、心配かけてゴメンな!」
俺の言葉に兄貴は頷く。
「交通事故に遭って死んだと聴いた時は驚いたから、また会えて良かった」
「うん」
「後、…」
「どうしたの?」
兄貴は言いづらそうに目を泳がせる。
「いや、次会った時に自慢しようと思っていたんだが、こんな事に成ってな。いや、やっぱりまだ不謹慎だな。
何でもない。次に会った時にでも…」
「ちょっと兄貴!そこまで言ったなら教えて!余計気になるから!!」
流石に此処でストップ掛けられるのはちょっと。
「でも、父さんや母さんにも悪いし」
「気にするな」
「そうね。私も気になるわ!」
「それなら…」
父さんと母さんからも促され、兄貴は口を開く。
「彼女ができたんだ」
え?何だって?今兄貴はなんと言った?
「彼女は良いぞ。お前が大変な時に自分だけ幸せになって悪いな。忍」
「…………はぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
自慢したかったって!!そういう事か!!!!
え!?嘘!?あの四六時中机に齧りついてた兄貴に彼女!?なんかの冗談だろ!?
いや、待て!ウェイト!まだ慌てる時じゃない。兄貴のことだ。彼女なんて言ってもどうせ兄貴と一緒に机に齧りついてそうな根暗の地味子だろう。そうであってくれ!!
「ええ!?希!?お前彼女できたのか?」
「ちょっとどんな娘よ希!?」
父さんと母さんが兄さんのカミングアウトに食いつく。
「どんな娘って綺麗な人だけど」
「写真とか無いの?」
「あるけど」
「見せなさい!!」
「希兄さん!!桜にも見せて!!」
画面の向こうでは希兄さんが出したスマフォの画面を父さんと母さんと桜が食い入る様に見ている。
え!?何この状況?切っていい?
「うわぁ!!すっごい美人さん!!希兄さんやるぅ〜」
まず声を上げたのは桜。あの桜のお眼鏡に叶うのか。相当な美女だな。でも、え?希兄さんに?
「凄いな希!やるねぇ〜このぉ〜」
「まさかウチの子がこんな綺麗な人と付き合ってるなんてね。信じられないわ!!」
父さんと母さんもすごく驚いてる。
え!?マジで!?そんなに綺麗なの?気になる!!
「あの、兄貴?俺も気になるんだけど?」
「ん?ああ!悪い忍。この人だ!」
兄貴が自分のスマフォの画面を父さんのスマフォに近づけて写真を見せてくれる。どんな人なんだろう?気になるな。
大したことありませんように祈りを込めて、俺は写真を見る。
「え!?」
そして、思わず声を上げて固まってしまった。
「どうだ?忍!すごい美人だろう!?」
「……………」
「…? 忍?」
「あ、ああ!すごい綺麗な人だね」
「そうだろう!!思わず見とれていたか?」
「うん。まあ」
「そうか。そうか!分からなくはないが彼女は俺の…」
「何人なの?」
「ん?」
自慢げな声を出していた兄貴は不思議そうな声を出す。
「何人て!何処からどう見ても日本人だろう?日本系の顔立ちだぞ。それどころか鴉の塗れ羽色の綺麗な髪と引き込まれそうな黒曜石の瞳!性格もおしとやかで、まさに大和撫子とは彼女の為に有るような言葉だ」
「え!?あのごめん兄貴!?今の何語?鴉の塗れ羽?黒曜石?」
「綺麗な黒色の詩的な表現だよ!!」
「黒!?」
「ん?どうしたんだ?」
兄貴は不審そうな声を出すが、俺もそれどころじゃない。
「その人の目と髪の色って黒?」
「何言ってるんだ?今、写真見ただろう?黒いじゃないか」
「…………」
「忍?おーい!忍?」
兄貴は心配して声をかけてくるが、俺は答えることができない。
だって、俺が見たその写真の女性は白い髪と銀色の瞳をしていたから。
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