第11話 家族1

 上を見上げれば雲一つ無い青い空。太陽が自己主張激しく紫外線を大地に降り注がせている。普通のダンピュールなら、こんな所に居たら体が焼けて焼失するらしいが『日光耐性』を持つ俺は平気だ。


「山は暫くおあずけか!」


 ニュースで見た例の山へ行くのは諦めた。土倉さんの話では、陰陽師の方では経立ふったちと言う妖魔の仕業だと当たりをつけて、既に陰陽師が調査に乗り出しているそうだ。

 因みに妖魔とは俺達みたいなのの事だ。昔は妖怪や妖と言っていたらしいが、西洋の魔物と一緒くたに考えるように成り、最近は妖魔と呼ぶらしい。


 俺も妖魔なので陰陽師から見れば敵、下手に突くとややこしい事になる。


 因みに、土倉さんは昨日の戦闘の後、俺を討伐対象から外すのは無理だけど、優先度を下げるように働きかけることは出来るから、やってみると約束してくれた。


「何気に良い人だったよな」


 敵なのに命を助けて貰った礼と言うことで現金もくれた。高校生一人でブラブラ移動することの大変さが解ったのだろう。その額何と諭吉さん百枚!!陰陽師って儲かるらしい。


「さてと!問題は、これからどうするかだな」


 正直に言って行く当てがない。諭吉さん百枚は有り難いが、それも何時まで保つか解らない。


 コレがまだ、流行りの異世界転生なら、冒険者になって魔物を狩ってとか、手立ても有ったが、現代日本ではそれも不可能。


 あれ?正直コレ詰んでない?まあ、あまりやりたくないが、社会に溶け込める方法はあるらしいけどさ。それでもな〜


 そんな事を考えながら歩き続け、やって来たのは生まれ育った我が故郷!


 いやさ、確かに来たら拙いんだろうけどさ。それでもやっぱ気になるじゃない。家族に会うとかは無理だろうが、とりあえず、こっそり家を覗いておこうと思ってさ。


「うわぁ〜」


 そう思って街に入ったのだが、十六年慣れ親しんだ故郷はすっかり様変わりしていた。


 いや、別に変わってないよ。見え方が変わっただけ、でもさぁ〜


「自分の故郷も怨霊の巣窟ってなんか嫌だな」


 まあ、確かにね。人の負の感情の塊なんだから街にはいっぱい有るのは仕方ないよ。でもさぁ〜それだけ負の感情持ってる人がこの街に居るって証明に成るわけでさ〜。なんかなぁ〜


「まあ良いや。とりあえず目障りだし全部喰うか!」


 とは言っても、今は日中、何処に人目が有るかも分からず、あまり怪しいことはできない。でもね、有るんですよ!怪しまれるずに怨霊を集める方法!


「おお!コレは便利だな!」


 能力を発動した俺の口に続々と怨霊が飛び込んでくる。


 コレならポッケに手を突っ込んで、歩いてるだけで口に怨霊が自動的に入ってくるから怪しまれない。


「何をしたんです?」


 怨霊が吸い寄せられるように喰われに来る状況に疑問を持ったのか、スマフォが小さな声で訊いてくる。

 一般人に聞かれると困るので、俺も小さくボソボソと答える。


「 電磁支配が有るだろ。アレって電撃出したりも出来るけど、磁力も使えるからな。俺の舌を磁気化させた後、眼に着いた怨霊も磁気化させて引き寄せてるんだ」


 このやり方中々良いな。今度からもこうしよ。


「おっ!これは!」


 そうして街中を怨霊を食いながら歩いていると、胸の内に若干の痛みが走り、すぐに治まる。大分規模は小さいが、進化の時に感じたアレだ。


「どれどれ?」


 スマフォの例のアプリで自撮りする。


名前  :藤堂 忍


種族  :ダンピュール(デイライトウォーカー)


種族特性:邪気放出・日光耐性・夜目・吸血・吸血衝動・動物操作(蝙蝠と鼠限定)


固有特性:反神威体質


状態  :正常


能力  :再生   

     電磁支配

     斥力制御

     引力制御(New)


備考  :ダンピュール族の弱点【日光(耐性あり)・銀】


「能力が一個増えたのか!」


 その程度だったからアレくらいの痛みだったのだろう。


「あれ?結構喰ったつもりだったんだけどな」


 正直もっと良い能力が出たり、進化したりを期待していたんだが、そうは上手く行かないらしい。


「仕方ない!家に行くか」


 その後も歩きながら怨霊を捕食し続ける。解った事だが、新しい能力は引力の制御なので、磁力とは中々相性が良い。


 どんどん怨霊を捕食し、ついに家に到着する。


「車がない?仕事か?」


 両親は共働き。この時間なら二人共仕事だろう。でも、普通息子が事故死なんて事が有ったら休まない?会社だってそんな状態で出てこいって言うほどブラックじゃないだろ?


「何処行ったんだろう?」


 予定が狂ってしまった。これからどうするか?


 考えていると、後ろから声が掛けられる。


「あれ?昨日のグール!?」


「へ!?ああ!前川くん!?」


 後ろを振り返ると、お漏らし陰陽師。前川くんが立っていた。


「なんでお漏らし陰陽師が一人でこんな所に?」


「お漏らし陰陽師では無いです!」


「え?心読めるの?」


「声に出てますけど」


「ああ。わりぃわりぃ!」


 前川くんはちょっと青い顔で俺を見ている。


「何?まさか俺が怖いの?」


「はっきり言うっすね。まあ、怖いっすよ。土倉さんが生きて帰ってきたし、貴方が土倉さんを殺そうとしなかった事は本人から聴きましたけど、でも怖いっす。貴方には僕を殺せる力が有って、いつ気が変わるか解らない。それに…」


「それに?」


「吸血衝動の事もあります。今いきなり、衝動が起こって襲ってくるかも知れない」


 ああ。それか〜。でもそれな〜


「吸血衝動は確かに有るけど、人間である必要ないんだ。鳥でも平気だった」


 本当に血液なら何でも良かった。お手軽な吸血衝動である。


「そう言えば、こんな所で何やってんの?」


「何って、家に帰るところです。僕の家はこの街なんで。昨日はあのまま必死に走って応援部隊の人に助けられた後、陰陽寮の支部に泊まりましたから」


 ふ〜んなるほどねぇ〜


「えっと、ダンピュールの…」


「藤堂忍」


「そうでした!藤堂さんこそどうして此処に?人里に入られると迷惑なんっすけど?」


「両親の様子だけ見ておこうと思って家に来たんだよ。でも両親も兄貴も妹も居ないから」


「え!?ああ!知らないですか!?」


「え?知らないって何を?」


 俺の家族に何か有ったのか?


 思わず首を傾げると、前川くんは実は〜と言いづらそうに切り出す。


「藤堂さんのご家族が病院と揉めてるんです」


「病院と揉めてる?」


 何だそれ?どういうことだ?


「えっと、今藤堂さんはダンピュールに成って此処に居るじゃないですか」


「そうだけど?」


「病院に遺体が無いからご家族に遺体を返せないんですよ!顔を見せてあげることもできない。

 一応病院は、あまりにも遺体の状態が酷いので縫合等が終わるまでお見せ出来ないと言い訳してるんですが、正直苦しい言い訳ですよね。

 それに、藤堂さんのお父さんですかね。その人に具体的には何時になったら縫合は終わるんだと聞かれて病院側は具体的な日時を明言できなかったらしいんですよ。当然ですけど、それで病院側とご家族は揉めるし、病院側も評判を気にして陰陽寮に速く死体を持って来てくれってせっつくしで、大変なんですよ」


 うん。何て言うか、言われてびっくりだよ。全く予想していなかった所で大問題が起こっている。


「あれ?じゃあ土倉さんが言ってた俺の討伐の優先順位下げるとか言うやつは?」


「解りませんけど難しいですよ?病院やご家族が大人しくなればどうか解りませんけど」


 そうか。そう考えると、会った方が良いのか?でも邪気がなぁ〜。会うと多分家族皆体調崩すだろうし!


「ああ!そっか!」


「どうしたんですか?」


「ちょっとな」


 俺はスマフォの普通の写真を機能を起動させると、家を背景に自撮りする。


「お!結構いい感じで撮れてるな!後は〜」


「ま、まさか!ヤバイですよそれ!一般人のご両親に、ダンピュールに成ってること知らせるつもりですか!!」


 だってコレしか手がないし。


 写真をLINEに添付、文面は…


『今、家に帰ってきたけど、鍵が無いんだけど?父さんか母さんどっちか帰ってこれる?』


「よし!完璧!」


「いや、完璧じゃ無いです!!」


 止めようとする前川くんを無視してLINEに上げる。さて、反応はどうかな?


「………」


「………」


「……おっ!既読付いた!」


「ええ!!」


 待つこと数分、既読が付き、その数秒後、スマフォがけたたましい音で鳴り出す。


「もしもし!」


「何のイタズラだ!!息子のケータイを何処で拾った!!!悪ふざけにも限度が有るぞ!!」


 電話越しに聞こえてくるのは父さんの怒声。まあ、死んだ息子本人からの連絡だとは思わないよな。と言うか昼間にやって良かった。夜だったら完全ホラーじゃん。


「父さん。ちょっと落ち着きなって!」


「誰が父さんか!!いい加減にせんと…」


「いい加減にせんと、俺の小学生時代の物保管してる箱の中に父さんのへそくりが入ってること母さんに伝えるよ」


「けいさ…え!?な、なんでそれを…」


 うん。本人だと教えるのにコレ以上無い言葉だよね。他には〜


「後は、そうだな〜母さんに隠れて高いゴルフクラブ買った事とか、こないだ休日出勤だって嘘吐いて会社の同僚の人達とゴルフに行ってた事とか。ああ!極めつけなのが有った!一週間前に繁華街で…」


「待て!忍!!それは口止め料を渡しただろうが!!」


「いや、冷静に考えると一万円ポッチじゃアレの口止め料としては安いかなと」


 話してる内に父さんの声から険がとれていく。


「で、どういう事なんだこれ。お前生きてるのか?」


「お!信じてくれるんだ?」


「逆にこれで偽物なら俺の人生終わるわ」


 親父は疲れた声で苦笑しながら言う。


「うん。一応一回人生終わってる息子の前で人生終わるとか言わないで」


「おお。悪い。と言うか、何だその言い回し。本当に、今お前何処に居て、どうなってる?」


「病院には居ないよ。実は〜」


 とりあえず今までの出来事を全て父さんに伝える。


 そして話し終えた後の父さんの第一声が、


「厨ニ病でも再発したのか?」


 これである!


「失礼な!そもそも患ってないし!」


 俺の切り返しに電話越しに親父がクツクツと笑う。


「とても現実の事だとは思えないな」


「俺だってまだ、受け止めきれてないよ」


「………帰って来れないか?」


「無理、多分俺のせいで色々変な事に巻き込むと思うし、そうじゃなくても俺の邪気で体調とか悪くなるだろうし」


「邪気って、厨ニ…」


「俺だって思ってるよ!!仕方ねえだろ!!名前決めた陰陽師に文句言え!!」


「まあ、そいつらには文句言いたけどな、人の息子を何だと思ってるってよ」


 いきなり声の調子が変わる父さん。いきなりシリアスに成るなよ。


「流石に止めときなよ。口封じで殺されるかも」


「解ってるよ」


「……………」


「……………」


 暫く無言が続いた後、再び父さんが口を開く。


「会えないんだもんな」


「うん。会えない」


「母さんに顔を見せるのも無理か?」


「む、」


 無理と言いかけて俺は考える。顔見せるだけなら無理じゃないよな。


「スマフォをフェイスタイムにすれば」


「ああ!その手が有ったな」


 うん。此処で「できない」って言ったほうがシリアス感有ったけど、今の御時世出来るんだよな。


「ちょっと車の中で母さんや希、桜に話すよ。ちょっと待っててくれ」


 言われた通り、暫く待っていると、フェイスタイムの通話が来る。


「もしもし!」


「もしもし忍!?って!アンタプチ整形でもしたの?」


 母さんや!息子との感動の対面の一言目がそれは如何なもんか?

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