第9話 激突・陰陽師
「最悪だ!」
土倉さんは苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てるように言った。
「街に入られちゃいましたもんね」
これは僕でも拙いって解る。下手すれば戦闘に一般人を巻き込むもんね。
「何人死者が出るか解ったもんじゃねぇ!」
「え?そんなに巻き込みます?もし僕の能力のこと気にしてるなら大丈夫ですよ!町中であんな物使いません」
流石に僕もそこは弁えている。周囲への被害はなるべく控えるつもりだ。
「そういうことじゃねえよ!グールは新鮮な人肉を求めるぞ!食い殺される人間が何人出るか」
「ええ!!?人間喰うんですか!!」
「住民の避難をしなくちゃな。もう中に入られてるから、手遅れと言えば手遅れだが、だからってやらない訳には行かない」
土倉さんは磯部さんに視線を移す。
「磯辺!本部に緊急住民避難専門の連中と、事後処理専門の連中を寄こすように連絡してくれ!」
「よろしいのですか?土倉様の失点になりますが?」
「気にしていられる状況か?それで住民が死んだら何の為の陰陽師だ?後、敵が強力だった時のために高位の戦闘系陰陽師も」
「了解しました!」
磯部さんはすぐに本部に連絡を入れる。
「よし!前川!俺達は先に行くぞ!!」
「ええ!!応援待たないんですか!?」
てっきり応援と合流してから行動かと思ってたのに。
「そんなもん待ってられるか!事後処理の連中が目撃者の記憶を消すから一般人に見られるかは無視して良い。巻き込まないようにだけ気をつけろ!!」
「それならやっぱり応援来て、避難が終わってから仕掛けたほうが〜」
て言うか、見た人の記憶消せるんだ!?なにそれ便利!
「応援待ってる間に何人喰われるか判らん!俺達で時間稼ぎ、可能なら殲滅する。最悪の場合、時間稼ぎに徹し、住民の避難終了後、お前の能力で街ごと消し飛ばせ!!」
「そこまでですか!?」
「それぐらいヤバイ状況だ!!」
僕は土倉さんと共に街へ入る。でもすぐに土倉さんは立ち止まって驚愕の声を上げる。
「何だこりゃ!!」
「どうしたんですか?」
土倉さんが立ち止まった理由が分からず、僕は困惑する。
僕の目から見る限り普通の街だよ?変な所なんて無い!
「どうしたもこうしたも有るか!!明らかな異常事態だろう!!」
「異常事態??」
僕が理解できずに首を傾げると、最初は殺気立っていた土倉さんも本気だと理解したのか、何やら頷き、次いで「ああ!!」と声を上げる。
「そう言えば、お前に訊いてなかったな。見鬼は出来るのか?」
「けんき?」
「そこからかよ!!」
僕が理解していないことをすぐに察してくれたらしい。有り難いことだ。
「はぁ〜本部の連中何でこんなに何も教えずに送り出したんだよ!少しは講義しとけ!!」
頭を抱える土倉さん。すいませんねどうも。
「仕方ない」
頭を抱えた土倉さんが教えてくれたことを纏めるとこういう事らしい。
まず、妖魔には物理的な肉体を持っている奴と、霊的な存在である奴が居る。前者はゾンビやグール、妖獣等で、後者は悪霊が肉体を持たずに進化した幽鬼等。
前者は一般人でも見えるが、後者は妖魔や見鬼の能力を持っている者しか見えない。見鬼の力は生まれるき持ってる他に、術式で付与できる。実は陰陽師でも生まれるき見鬼を持っている人は少ないらしい。先天性異能者の場合は異能によって変わってくる。どうやら俺の異能には見鬼は組み込まれていないらしい。因みに、土倉さんも生まれつき見鬼を持っていたわけではなく、陰陽師の家系だった為、赤ん坊の頃から見鬼の力を体に馴染ませて、出来るようになったらしい。
「でだ。見鬼ができれば見えるが、街って言うのは人が集まってるから人の負の感情である怨霊が大量に飛んでるもんなんだよ。だが、此処には怨霊がない」
「良いことじゃないですか?」
怨霊が死体に宿ったらゾンビが出来るし、魂魄と同化すれば悪霊になる。無ければ有り難いはずだ。
「怨霊が無いのは確かに良い事だろう。だが、何で無いんだ?陰陽師が祓った以外で怨霊が無い理由?
思い当たるのは一つ、喰われたからだ!多分件のグールに!」
「確か、妖魔って怨霊を喰うほど強くなるんでしたっけ?」
「弱い妖魔はな。強くなれば怨霊食った程度では強さは変わらない。まあ、唯のグールと思わねえ方が良いだろうな」
言いながら土倉さんはある方向を見つめる。
「すげぇ邪気だな。多分こっちだ」
「え!?待ってくださいよ!!」
ずんずん進んでいく土倉さんに僕は慌ててついて行く。
「邪気って何ですか?」
妖気とはまた別だろうか?
「一部の妖魔。悪性系や死霊系の妖魔が常に体から出してるもんだ。一般人が浴びたら理性が弱る。空気中の邪気の濃度が多いほど犯罪発生率が上がるんだ。後、強力な邪気を浴びると、体質によって被害は変わるが、体調を崩したり、意識を失ったりもする。
噂だが、悪性の大妖怪の邪気は浴びただけで一般人は死ぬらしい」
何か、ヤバそうなんですけど!!
「邪気の量がそのまま強さに直結するわけじゃねえが、これは心してかからないとな」
土倉さんは表情を引き締めると、ずんずん進んでいく。僕もそれに続くけど、なんだか不安だ。初仕事から厄介なことを任された気がしないでもない。
ただ、土倉さんは怒ったけど倒した黒服を病院に運んでるんだよな。ただの怪物って訳でも無さそうだけど?
ー○●○ー
無事にコンビニに着き、中に入って時間を潰す。朝になって人目が多くなれば移動しよう。そんな事を考えながら店内をぶらぶらしていると、顔色を悪くした店員がフラフラと奥に入っていく。体調でも悪いのだろうか?見た所大学生のようだったが、深夜バイトも大変だ。
「雑誌の立ち読みをずっとやるのも拙いしな。あ!」
コーヒーと菓子パンを買い、イートインコーナーに陣取る。スマフォを開けてネットに繋ぐ。
おお!本当に繋がった!色々なニュースサイトを見るが、特に面白そうな物はない。ネット小説でも読もうかと思い始めた時、気になる記事を見つける。
「これ、この辺だよな。山中で行方不明者が三十人以上?」
どうにも妙だ。冬の雪山ならともかくこの時期に行方不明者なんて。しかもこの山、比較的低い上に登山道もきちんと整備されている。小学校の遠足でも行った記憶が有るが、多少登山道を外れても問題なかった。経験済みだ。よっぽど変な所まで行かないと事故が起こるとは思えない。それが三十人?明らかに異常だ。
「どうせやる事も無いし、見に行って見るか」
自分がこんな体になったからだろうか?今までと違いこういう記事を見れば変な想像をする。何かヤバイ化物の仕業ではないか?
「(蝙蝠と鼠を偵察に出せばどうですか?)」
辺りに一般人が居ても良いように考えての配慮か、スマフォは画面に文字だけ写して提案してくれる。
そう言えばその手が有った。動物操作で蝙蝠や鼠を操れるのだが、視界を同調させたりも出来るのだ。
蝙蝠や鼠はその辺に居るだろう。これを食べ終わったら次のコンビニへ移動するからその時に探すか。
本当は移動中に人目につかない所で襲撃されるのを防ぐために一箇所のコンビニにずっと居た方が良いだろうが、流石に不審に思われる。ゆっくりと菓子パンを食べ、コーヒーを飲み終わったら出て行くべきだろう。
そんな事を考えながらその記事を詳しく読んでいく。
「最初の行方不明者が出たのは一月前なのか!」
平均して一日一人が消えている計算になる。勿論毎日行方不明者が出ている訳ではない。その代わり纏めて何人か出ている時も有る。
「もっと何か情報無いかな?」
どういう状況かは解らないだが、放ってもおけないと思う。
もう一口コーヒー飲み、スマフォを仕舞おうとした瞬間、地面が揺れた。
「地震?いや!違う!!」
店の床を突き破って岩と砂が隆起し、俺の足を包み込んで拘束する。しかし、すぐに力を失ったかのようにボロボロと崩れてしまう。
「どう言う事だ?こりゃぁ!」
店の自動ドワを潜って二人の男が現れる。一人は二十代前半の大柄の男性。もう一人は俺と同い年くらいだ。高校生と思しき少年。
「つ、土倉さん!?術で拘束するって言ってませんでした?」
「したつもりなんだがな」
苦虫を噛み潰したように言う男性。どうやら俺の状態が気に入らないらしい。
「しゃぁねぇ!接近戦で叩く!お前は援護しろ!」
「解りました!!」
大柄の男性は何やらブツブツと呟いた後、俺に向かって突進してくる。でもな。
「遅い!!」
体に電気を纏わせ、高速で大男の背後に回る。
「なっ!速っ!」
親指と人差し指の間に電流を流し、それをそいつの襟首に当てる。
「ぐぁぁ!!」
即席のスタンガン!威力はお察しの通りだ。これで気絶するだろう。
しかし、予想外の事が起きた。
「ちっくしょう!」
「ええ!!」
電撃喰らった大男は意識を失わず、悪態を吐きながら振り返る勢いを利用して殴り掛かってくる。
とっさに妖気を纏った左手で受け止めたが、俺は目を丸くしてしまう。戦闘中に惚けるのは駄目だろうが、これは仕方ない。だって考えても見て欲しい。襟首に電撃喰らったのに、普通に殴り掛かってくる奴って怖いだろ!
「おらぁぁ!!」
「うぇ!うそぉ!!」
左手で受け止めた拳だが、大男は雄叫びを上げながら振り抜き、俺はその勢いで宙に浮き、後方の壁に激突してしまう。
「いだぁ!!」
「逃がすか!!」
追撃をかけようと突進してくる大男。いや、逃がすかって!別に逃げたわけではない。あんたに吹っ飛ばされただけだ。
後、真正面から向かってくるのはどうだろう?
「単純すぎ!!」
俺はさっきより高電圧な電流を右手に発生させる。電流の量は同じだ。増やせば人体に影響を与える。
「なっ!」
俺は右手に発生させた電流を大男に投げつける。突進してきているの大変当てやすい!
「ぐぁぁぁ!!」
モロに頭に電流を喰らった大男は絶叫を上げて、立ち止まる。
「よっと!」
そのスキを見逃す手はない!今度は俺の方から大男に接近する。
電流を纏っての高速接近に大男は対応すらできない。
「とりゃ!」
大男の懐に入り込むと、妖気で硬化した拳をがら空きになっている腹部に叩き込む。
「ごふぅ!」
安全性を考えて電流を纏わせてはいないが、殴る時の力は全力だ!おそらくこの男の頑丈さから考えて手加減したら効果がない。しかし!
「嘘でしょ?」
多少はダメージが有ったみたいだが、大男は膝さえ付かない。本当にどうすればこんなに頑丈に成れるのか?
「前川!!」
「はっ!はい!!」
物凄い大声で大男は相棒の名前を呼ぶ。
「何してやがる!!お前の能力でコイツの動きを鈍くしろ!!すばしっこくて手に負えねぇ!」
大男に怒鳴られた高校生(前川くんかな?)は、困惑した顔で大男を見る。
「でも、土倉さん…」
「でももヘチマもねぇ!速くやれ!!」
「もうやってるんです!」
「はぁ?」
前川くんの言葉に驚いた大男(土倉さん?)は、思わず彼の方を見てしまう。あらやだ!スキを晒し過ぎじゃない?
「よそ見してるとは余裕だね!」
「しまっ!」
電流の量はそのまま電圧を更に上げる。うん!こういう場合は技名を言わないとね!せーの!
「千万ボルト!!!」
「ぐおぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
あ!ヤバイ!あまりにも頑丈な相手だったから少しやりすぎた?
「が、あがぁ!」
体から煙を発しながら、大男はドウッと倒れ込んだ。
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