第8話 ダンピュール
「な、何だこれ!!」
此処は俺が生前、昨日まで住んでいた町の隣町。良く遊びに来ることも有ったし、よく知ってる。だが、以前とはその風景は一変していた。
いや、町が変わったわけじゃない。恐らく、俺の見え方が変わったんだ。
そこらじゅうに黒い靄の塊が浮かんでおり、流れるように漂っている。確か病院で目覚めた後、部屋から出た時もこんな風に見えて驚いたな。あの時は解らなかったが、今ならそれが何なのかすぐに解る。怨霊だ。
「そう言えば、人の負の感情の結晶だから、人が集まる所に出来るんだっけ?」
そう考えれば市街地など、うってつけの発生ポイントだ。
「まあ、見た目アレなんで驚いたが、食えば良いんだよな!」
強くなったりエネルギーを補充できたりするはずだ。正直最初はげんなりしたが、悪いものではない。少なくとも俺にとっては。
俺はその場で怨霊を手に取り口に運ぶ。うん。最初はキモかったが、今では普通に食える。見た目は黒い棒なしのわたあめと言った感じだが、食感はウォーターゼリーに近い。ちょっと啜る感じで食べるのだ。
眼に映る怨霊を次々と手にとって捕食していく。昼間にやれば通報されてもおかしくない奇行だが、夜は人通りが少なく、見咎める人もいない。
「当機にも分けて下さい」
独り占めは良くないだろう。スマフォに言われるままに妖気を流してやる。
「すごい量ですね。新しい機能に目覚めました!」
「え!?マジで!どんな?」
能力増えたのか!?便利になってるとありがたいな。
「画面を見て下さい」
「どれどれ!え?」
言われた通りに画面を見ると、見たこと無いアイコンが有る。アプリが勝手に増えた!!こわっ!
「この増えたアプリが新しい能力?」
「そうです。起動して下さい」
アイコンをタップするとカメラモードになる。写真を取れば良いのか?
「そうですね。手始めに自分を撮影して下さい」
自撮りか?あんまり好きじゃ無いんだけど?まあ、しゃぁ無い。
指示に従わない事には何も始まらないのでとりあえず、言われた通りに自分を撮影。ポチッとな!
「これで良いのか?」
スマフォ独特のシャッター音がして俺の写真が取れる。写真を見ると、自分の顔の横に箇条書きの文字が書かれている。
「なるほど。こういう能力か!」
書かれていた内容はこれだ。
名前 :藤堂 忍
種族 :グール・リジェネ
種族特性:邪気放出
固有特性:反神威体質
能力 :超回復
発電
磁力発生
電気制御
うん。要はアレだよね。ゲームとかでよく有るステータスだよね!
「でも解るのは種族名と能力、後特性だけ?」
「他に何か?」
「いや、有るだろ?力とか、防御力とか」
そういうスペック的なのも出るのがお約束だよね。
「何を基準にするのですか?基準を決めないと数値化は出来ませんよ」
スマフォに言われて気づく。確かにごもっともだ。
「じゃあ特性や能力が見えるだけか」
それでも結構良いけどな。これ自分以外にも使えるんだろうか?
「これって敵対してくる奴にも有効?」
「いけますよ!ただ、情報を隠す異能が有れば知りませんが」
まあ、よくある話だよね。相手に自分のスペック見せないとか。
それとは別に次の疑問が有る。特性って何だ?『種族特性』と『固有特性』まあ、意味は大体解るんだけど、『邪気』や『神威』って何だ?
「邪気や神威については当機もよく解りません」
それじゃあしょうがないか。『邪気』は語感的に拙そうなのは解るけどな。
一応文字をタップしたら、詳細が出てくるのだが、『邪気放出』と『反神威体質』をタップした時に出た説明はこんな感じだった。
『邪気放出』:常に体から一定量の邪気を放出する。
『反神威体質』:外部から自身に影響を及ぼす神威による現象を全て無効化させる。
うん。だから!『邪気』とか『神威』その物が解かんねぇんだよ!!
まあ、解らないことは考えても一緒だ。暫く置いておこう。
スマフォの新能力が判明した所で、また怨霊を喰う作業に戻る。
思ったけど、町中にこんだけ怨霊有ったら、そこら辺にゾンビとか居るんじゃないのか?流石に人の死体はその辺に落ちてないけど、動物の死体は結構転がっている。怨霊がそんなのに入ると、動物のゾンビが出来るんじゃ〜
「ふにゃ〜」
「猫?って!うわぁ〜」
そんな事を考えていると案の定出ましたよ動物ゾンビ。路地裏から顔を出したのは頭部の一部が剥がれて骨が見えている猫。よく見ると腹部も裂けて肋が見えている。口に捕まえた鼠を咥えているがそれ食えるの?腹が思いっきり裂けてるのに!
「こんなの街に居たんだ。今まで知らなかったな〜」
「まあ、暗い中で遠目には唯の猫に見えますからね。光が嫌いなのか、暗がりから出てきませんし」
「フシャー!!」
威嚇してくる猫ゾンビ。え?敵ってことで良いの?
「良く判らんが、倒した方が良いのかな?ゾンビだし」
「グールはゾンビの上位種ですから貴方もゾンビですよ。あながち敵とも言いきれないのでは?危険かどうか当機の能力で確認しては?」
ああ。あの新アプリな。
「使ってみるかな」
アプリを起動して素早く猫ゾンビを撮影。詳細はこちら。
名前 :無し
種族 :アニマル・ゾンビ
種族特性:邪気放出
能力 :無し
うん!これは大丈夫だわ!死んでるだけでただの猫って事じゃん!
「でも威嚇してくるしな。そっとしておくのが良いか」
とりあえず威嚇してくる猫を無視してそのまま怨霊の捕食を続ける。そう言えば、あの猫も『邪気放出』が着いてたな!もしかしてゾンビ系には皆有るんだろうか?
まあ、それはともかく捕食を続行である。
ー○●○ー
「ふざけやがって!どういうつもりだ!」
怒りの声を上げるのは土倉さんだ。はっきり言って迷惑だ。此処は病院。しかも深夜である。入院患者の安眠を妨害するべきじゃ無い。
「土倉さん!落ち着いて下さい!入院してる方に迷惑です。何をそんなに怒ってるんですか?」
「お前は頭にこねえのか!!馬鹿にされてるとしか思えねぇ!!」
だから大声は駄目だって〜。
「馬鹿にされてるってどう言う事です?」
正直僕は土倉さんが何をそんなに怒ってるのかよく解らないんだけど?
「黒服共だよ!!アイツら例のグールと戦闘したはずだぞ?なのにその敵対したグール自身が病院に連れてきただと!!舐めてるとしか思えねぇ!!」
だから大声〜。まあ確かに、危険だと思えばその場で命を奪うだろうし、態々病院に連れてきた時点で余裕の現れと考えるのは別におかしくはない。でもさぁ〜
「黒服の人達が生きてて良かったじゃないですか!!」
まあ、二人は再起不能らしいが、それでも命が有った。それは喜ばしいことだろう。それよりも、僕の心配事は対象の強さである。
僕がこのバイトを受ける時に聴いた陰陽師の仕事は、怨霊や悪霊の浄化と、時々発生する弱小妖魔の討伐。僕レベルの異能が有れば危険なんて滅多に無いという話だった。
だが、今二人の人間が敵によって再起不能にされた。彼らと僕では持っている異能の強さが違う(と言うか、彼らは固有の異能を持っていない)と言われればそれまでだが、本当に思っていたほど簡単なバイトだろうか?
「グールのくせに倒した人間を食い殺さねえだと!!舐めやがって!!行くぞ!前川!!」
「ええぇぇ!!」
やっぱり行くの!気がつけば病院側と治療費や仲間の状態を話していた磯部さんも戻って来てる。
僕は土倉さんを追って嫌々病院を後にした。物凄く不安だ。
ー○●○ー
「もうあんまり見当たらないな」
街中を移動しながら怨霊を食いまくり、大分減ってきたかな?そう思った矢先、何やら胸が苦しくなってくる。位置的には心臓だろうか?
「な、何だこれ!?く、苦しい!!」
やばい!死ぬ!いや、もう死んでるか?とにかくヤバイ!!何だ?どっかからの攻撃か?
「グァァァ!!!!」
路地裏に転がり暫く悶え苦しんでいたが、徐々に痛みが引いてくる。
「治ってきた?何だったんだ?」
「私の能力を使って確認すればどうですか?さっきは最低限の情報しか載せませんでしたが、設定を変えれば、状態等も出せますよ」
「そうなのか!」
それは良い!早速やってみよう!
鑑定のアプリを立ち上げ、モードを変えて自信を撮影する。
自分の写真の横に映った文字がこれだ。
名前 :藤堂 忍
種族 :ダンピュール(デイライトウォーカー)
種族特性:邪気放出・日光耐性・夜目・吸血・吸血衝動・動物操作(蝙蝠と鼠限定)
固有特性:反神威体質
状態 :正常
能力 :再生 (New)
電磁支配(New)
斥力制御(New)
備考 :ダンピュール族の弱点【日光(耐性あり)・銀】
解った事は何か体の異常ではなく進化だったらしいと言うこと。写真に映る自分の顔も少し変わっている。外見が更に人間に近づいた。犬歯が結構発達しているが、それ以外はモロに人間だ。顔も生前と少し変わった。同一人物だとは解る程度だが、少し小顔になり、目鼻立ちも良くなった。中の中だった容姿が中の上か上の下くらいには成れた雰囲気だ。
問題は中身の方。正直大分強くなっていると思う。能力は多分元々持っていた物の上位互換だろう。そこは良い。問題は種族特性「夜目」とか結構有り難い。今も明かりのない路地裏で昼間のようによく見える。
因みに特性と能力がどう違うのか疑問だったけど、妖気を消費して使うのが能力、何の代償もなしで常に発動し続けてるのが特性らしい。問題はON・OFFが効かない事、常に発動し続けている状態なのだ。この厄介な「吸血衝動」とやらも。
後、弱点が出来たのも何気に厄介だ。とは言っても、日光は耐性が有るから実質銀だけだが。
「何か体も軽いな!身体能力も上がってるのか?」
「先ほど言った通り、身体能力は基準が無いので表示しませんが、大体グールの時の倍くらいの成ってますよ」
スマフォの言葉になるほどと納得してジャンプする。確かにそのくらいだろう。
「よし!行くか!」
強くなったが、だからといって陰陽師と積極的に戦おうとは思わない。とりあえず、当初の予定通り、コンビニへ避難だ。制服がボロボロで明らかに深夜徘徊の高校生だが、喧嘩してきた不良で納得してもらおう。警察呼ばれないかは運だけど、まあ、そんときゃそん時だ!
俺はコンビニへ向かって走った。
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