第7話 街に向かって
歩く僕達の後ろからついてきていた黒服の磯辺さんが急に立ち止まる。
「どうしたんですか?」
「変です。対象と同僚が接触してから既に三十分以上経っていますが、一向に連絡がありません」
「え!それって!!」
磯辺さんの言わんとしていることを察して僕が青ざめると同時に背後から土倉さんの声がかかる。
「磯辺!式神を飛ばせ!!付近を探索」
「了解しました。呪式!」
磯部さんが飛ばした十枚の呪符が鳥の形をして飛んでいく。どうでも良いけど、灰色とは如何なものか?陰陽師陣営は白のイメージなんだけど?
「一度に十体か!お前凄いな!何で黒服をやってんだ?」
「自分に術の才能はありませんでした。出来るのは呪符術だけ。であれば、呪符術を極めようと思いまして」
磯部さんの言葉に土倉さんは感心したように頷く。
「良い心がけだな。すげぇじゃねえか。オイ!祐介!お前も見習え!!」
「ええぇぇ」
こういうタイプのお説教嫌いなんだよね。そもそもバイト代が凄いからやるだけで、自由な時間使ってまで訓練とかしたくないし。
「発見しました!しかしこれは…」
磯部さんが緊張した声を上げる。
「どうした?」
「補足した対象が同僚たちを担いで歩いています」
「何処に連れた行くつもりだ?巣穴か?」
「対象はグールになったばかり、巣穴が在るとはとても、ただ…」
「何だ?」
「担いでいるなら、彼らがまだ生きている可能性も有るかと思いまして」
「どうしてです?」
死体を担いでるだけじゃないの?
「死体なら引きずれば良いが、生きてるなら、引きずる時に抵抗される場合が多い。だから、ゾンビ共が生きてる相手を巣穴に運ぶ時は自然と担ぐ格好になるんだ」
律儀に説明してくれた土倉さんが表情を厳しくする。
「末端の黒服でも仲間は仲間だ。見捨てられねえ!急ぐぞ!!」
「はっ!」
土倉さんが走り出し、磯部さんもそれに続く。
「ちょっと待って!!速すぎ!!」
「緊急事態だ。ついてこれないんなら置いてく!」
「そんな!!」
僕は慌てて土倉さんの後を追った。
ー○●○ー
病院に着いて柊女史に三人を見せると、驚いた顔をされた。
「しかし、君もお人好しだな。普通自分を刺してボコボコにした相手を病院に連れて行きはしないよ」
「治ります?」
「一命は取り留めた。だが、後遺症が酷い。三人の内、後遺症が無いのは一人だ。左手が砕けた男は、左手が無いのは勿論、下半身が不随だ。まあ、高電圧の電流を受けたのなら仕方ないがな。むしろ直ぐに飛ばされたからだろう。このくらいで済んで幸運だ。
腹を貫かれた男も神経にも影響が出ているから、今まで通りには動けないだろうし、内臓の損傷が酷くてな。手術である程度はなんとかするが、一生投薬が必要になるかもな」
かなり酷い状態だった。自業自得だと言えないこともないが、結構罪悪感が有るな。
「さてと、分かっていると思うが、彼らに君についての情報を教えたのは私だ」
そうでしょうね。明らかに襲撃のタイミングが良すぎたし、そもそも最初からこの人は俺の味方じゃない。
「おや?驚いていないね」
「最初っから貴方は俺を陰陽師に殺させるつもりだったでしょ?まあ、俺は殺人犯にはなりたくないんで、そいつらの治療だけお願いします。代金はそいつらの大本から徴収で」
伝えることだけ伝えて俺は病院を出ようと柊女史に背を向ける。
「一つだけ言っておこう。彼らは陰陽師ではない。陰陽師の雑用をする三下だ。本物はこんな雑魚じゃないぞ」
なるほど。だから格好が陰陽師っぽく無かったのか。
柊女史の言葉を胸に刻んで、俺は病院を後にする。
暫く山道を歩いていくが、どうにも今の状況は拙い。
「敵に狙われてる状況で移動って難しいよな」
どう移動すればいいか?普通はあんまり人が移動できないような道が良いな。
さっきの痛い三人衆との戦闘で気づいたが、俺の身体能力は生前よりもだいぶ高まっている。そして妖気によって体を硬化させられるなんて技にも気づいた。極めつけが、ナイフで潰された眼もすぐに治る再生能力。これらを加味すると…
「崖を一気に滑り降りるって有りかな?」
整備された山道を外れると崖になっている。険しい崖だが、降りれば市街地まで僅かだ。
相手が陰陽師。正義の味方的な立ち位置の自覚が有るなら、一般人を巻き込む市街地での戦闘は避けるだろうし。
「………」
崖の前に行き、暫し硬直。うん!根源的な恐怖が有るよね!よくよく考えれば落ちても大丈夫な保証もないし!
「やっぱり素直に山道を降りるか?でもなぁ〜」
深夜の山道。人通りは皆無。そんな道をトコトコ歩くなんて今陰陽師が近くに居れば襲ってくれと言っているようなものだ。
「ん〜!でもな〜」
中々踏ん切りが付かない。
「大丈夫だと思いますよ。当機の見立てではおそらく、この山肌を滑り降りるより、トラックに轢かれた方がダメージは大きいです」
ああ!なるほど!不思議とそう言われると気が楽になる。スマフォの言う通りだ!トラックに轢かれたことも有る俺だ!今更崖を落ちる程度で恐怖などするものか!
自分に言い聞かせ、もう一度崖を見る。
「よし!行くか!」
俺は安全の為に付けられた策を乗り越え、そのまま飛び降りる。
大丈夫だ!行ける!!
……………
………
…
「うぎゃぁぁぁぁ!!!」
重力と言う地球上の全ての存在が抗えない絶対の力によって、俺は山肌の上を滑るようにして下へと落下していく。
山肌と俺の体の間に摩擦が起こるため、落下の勢いは僅かに弱まるが、別の問題が生じる。
「ごふぅ!えぐぅ!げふぅ!」
木の枝に引っかかり、岩にぶつかり、予想以上に大変な事になる。しかし、数分で山を降りることに成功する。
「いでぇぇ!!」
落下が終わり、地面に激突して止まる。マジでヤバイ!死にそうだ。ああ!もう死んでるか!
「はぁ!はぁ!」
ひどい状態になった体が徐々に元に戻る。陥没していた頭蓋骨は盛り上がり、突き出た肋骨や肋骨は体内に入って元通りになる。
木の枝に突き刺さって潰れた眼球も見事に復元され、変な方向に折れ曲がった手足も元の向きに戻る。
「治ったかな?」
自身の体を見下ろして確認すると違和感に気づく。
「あれ?指が足りない!!」
辺りを見て回ると、千切れた指が数本転がっていたので、切断面をくっつけると、すぐに繋がった。
これで解った事だが、千切れた部分はくっつけないと新しく生えてくることは無いらしい。
「もう大丈夫だよな?」
念の為に足の指なども確認!問題ない!ちゃんと十本有る!
「当機の修復も終わりました」
懐からスマフォの声が聞こえる。そう言えばコイツも一緒に落ちたもんな。結構壊れたんだろうが無事に直ったらしい。
「よし行くか!!」
市街地に向かって走る。着いた後はコンビニにでも入ればいいだろう。
俺は勢い良く市街地に入るが、入ってすぐに絶句する事になる。
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