第6話 初戦闘
「え!何?」
いきなりだった。俺の周りに変な模様が書かれた長方形の紙切れがいくつも浮かぶ。俺を中心に円を描くようにぐるぐる回り、徐々にその直径を狭めていく。
「呪縛!!」
「え!」
突如響いた大きな声と共に一気に円の直径が狭まり、俺の体を締めるように札がぶつかって…。
唯の紙のようにひらひらと落ちる。
「え?」
うん。何だろうこれ?突然の敵襲!!みたいな緊迫した感じになるのかと思ったけど、全然そうじゃなかったよね?て言うか、これ何がしたかったの?手品?
事態を理解できずに俺は困惑するが、どうやら困惑しているのは俺だけでは無い様だ。
「どういうことだ!?」
「何故呪符が?」
「引き千切った!!それほどの力か?」
うん。何か不穏な単語聞こえるけど俺なんにもしてないよ?ただ棒立ちになってただけだからね。
「くっ!ならば!!」
「うわっ!何!?」
今度は頭上から大量の紙、謎の襲撃者(?)が言うところの呪符が降って来る。更にさっきと同じように俺の周りにも無数の呪符が回りだす。
「呪害!!」
「呪縛!!」
今度は二人が何やら気合を入れて叫んだが、結果は同じ。全ての呪符は唯の紙切れであるかのようにバサッと地面に落ちる。
「馬鹿な!!」
「これでも駄目だと!!」
木陰から姿を表したのは三名の黒いスーツを着た男性。それは良いけど、あんたたち、この暗い中でサングラスは見難くない?
三人とも手にはさっきからチョクチョク飛んでくる変な模様が書いた紙切れ(彼ら命名呪符)を持っている。
何だろう?最初はちょっとビックリしたけど、何も起きないし、実は唯の痛い人の集団かな?格好もアレだし。
「何らかの能力で拘束を受けない可能性がある。一気に此処で退治する!!」
また俺に紙切れを何枚かぶつけて来た男はそのまま右手の人差し指と中指を顔の前で立てると力強く技名(?)を叫ぶ。
「呪炎!!」
一瞬紙切れから火が出るが、すぐに消えてしまい、やはり紙切れは唯の紙切れのように地面に落ちる。
「馬鹿な!!」
「捕縛系だけ効かないわけでは無いのか!!」
呆然とする痛い三人衆。うん。無視するに限るよね。これに懲りたら、いい年してごっこ遊びなんてしてないで真面目に仕事しなよ。
俺は呆然とする三人を無視し、そのまま歩いて通り過ぎようとする。
「なっ!待て!行かせん!!呪界!!」
無数の紙切れがそこらじゅうにバラ撒かれる。かなり広範囲だな。掃除が大変そうだ。地区清掃とかで此処らの掃除はしてくれるのだろうか?何にしても自然を汚して迷惑な話である。
よく見ると紙切れは空中や何もない所で静止している。なるほど!これなら回収はちょっと楽だね。
「結界の構築は成功!!とりあえず土倉殿が到着するまで時間稼ぎを…」
何の事を言っているのか解らないが、とりあえず俺はまっすぐ進む。数メートル進むと、何やらガラスが割れる様な音がして、空中で静止していた紙切れが地面に落ちる。
音が出る手品だったのだろうか?
「ば、馬鹿な!!結界が!!」
「こ、こんな奴!!どうやって止めれば!!」
二人が驚愕して顔を青くする中、残る一人は決意を固めたような顔をして自身の体に紙切れを貼っていく。
「呪刻!!」
紙切れの文字が怪しく輝き、その男からのプレッシャーが増す。
「げっ!!」
更にそいつは腰から刃渡り三十センチ程のサバイバルナイフを取り出して、構える。
うん。シャレにならなくなってきた。て言うか、さっきから実害ないから現実逃避してたけど、多分コイツラが陰陽師だよね?
「はぁ!!」
裂帛の気合と共にそいつは切りかかってくる。
「え!速い!!ぎゃぁぁ!!」
左肩から右の脇腹まで袈裟懸けに切られ、俺はあまりの痛さに悲鳴を上げる。
「ふんっ!」
「ごほっ!」
そのスキを見逃すまいとそいつは俺の腹を、本当に人間か疑いたくなる凄まじい力で蹴りつけ、俺が倒れたところで馬乗りになってきてナイフを逆手に持ち、振り上げる。
あ!やばっ!!
「でやぁ!」
「うあぁぁぁぁ!!!」
サバイバルナイフが俺の左目にえぐり込まれ、あまりの痛みに俺は狂った様に叫ぶ。
「まだまだ!!」
「あがぁぁ!!」
更にそいつは俺に馬乗りになって逃げられないように押さえつけ、俺の顔をタコ殴りにする。
あまりの事態に俺はなんとかしようと藻掻き、俺の藻掻いた手が、偶々そいつが体に貼った紙切れの一枚。左腕に貼ったやつに触れて紙切れを剥がす。
「え!?」
そいつは間の抜けた声を上げる。そいつの左腕の力が弱まり、俺の右手はそいつの左拳を捕まえる。
「うがぁぁぁぁ!!!」
「うぎゃぁぁぁぁ!!!」
今度の悲鳴はそいつの口から出た。俺がなんとか抵抗しようと必死の思い出握りしめた右手は、掴んでいたそいつの左手を果物の様に握りつぶす。
「ふ、ふざけんな!!テメェ!!」
いくら何でも此処まで痛い目に合わされたらブチ切れる。俺は咄嗟に思い出した発電の能力を全力で使う。使い方はなんとなく感覚で解った。
「あがぁぁぁぁ!!!」
バチッバチッと凄まじい音が鳴り、俺を押さえつけていた奴は変な声を出しながら吹き飛ぶ。
「いってぇぇぇ!!」
なんとか立ち上がり、右目に深々と突き刺さったナイフを力ずくで引き抜く。
「ふざけやがって!!」
痛いことは痛いが、痛みよりも怒りが勝る。
「人が大人しくしてるからって良い気になってんじゃねえぞ!!」
右目の痛みはすぐに引き、何度か瞬きすると視力も戻る。
「ぶっ殺してやる!!」
発生させた電気を体に流し、運動能力と神経の伝達速度を無理やり速める。更に両手に高電圧を纏わせ、殴った時の威力を上げる。
「こんな時に何ですが」
「どうした?」
スマフォ付喪神が声を掛けてくる。
「妖気を体の表面に纏わせれば、体が固くなります。実際当機はさっきそのナイフで切られても平気でした」
そう言えば、スマフォは胸ポケットに入れていたので、もろにサバイバルナイフで切られたはずだ。にもかかわらず壊れていないのはそれが理由か。
意識することで体に妖気を纏わせる。結構簡単に出来た。
「どれどれ?」
先程右目から引き抜いたナイフの刃に恐る恐る指を当てて徐々に強く押してみるが切れない。
「ふんっ!!」
お次は力を入れて刃の部分を力いっぱい握るが手は切れず、逆にナイフが潰れた。
よし!防御力的には完璧だ。
「くっ!おのれ!」
「よくも!!」
残りの二人はナイフを構えるが、どうということはない。駆け出して相手の懐に入る。
「なっ!はや!ぐえぇ!!」
右側の奴の腹目掛けて思いっきり右ストレートをおみまいする。高電圧を纏った拳はそいつの腹部を貫き、内臓まで達する。
「あ、あがぁ!!」
「えっ!」
俺は、何をやってんだ?予想外の威力を見せた自分の拳と手に伝わる内臓の感触、そして肉の焼ける匂いで我に返る。
「やばっ!!」
腹を抑えてぶっ倒れ、痙攣する男。傷口が焼けたせいで出血が少ないのがせめてもの救いだが、放っておけば死にそうだ。普通に殴っとけば良かった。高電圧を纏った拳の威力が此処までとは予想していなかった。
チラリと脇を見れば最初に俺を痛めつけた男もぶっ倒れている。焦げ臭い匂いが漂ってくる上にピクリとも動かない。危険な状態かもしれない。
「まさか俺、殺っちゃった!!?」
「ぶっ殺してやると言っていませんでしたか?」
「いや、言ったけども…」
頭に血が登ったから言っただけで本気では無かったし、今まで危険を排除しようと必死に藻掻いただけで、相手がどういう状況か認識していなかった。頭に登っていた血が居りて冷静になれば、事の重大さに気づく。
「くっそ!!」
最後の一人が空気を読まずに震えながら切りかかってくるが、素手でナイフを掴んで受け止める。先程も自分で確認したが、実践でやって確信が持てた。どうやら妖気で体を包むと切れないのは本当らしい。
「ひっ!!」
ムカついてはいるが、殺すと拙いので右手の電圧を下げ、そいつの顔面に殴り掛かる。
「うわぁ!呪壁!!」
例の紙切れが集まり、長方形の壁を作るが、俺の拳はその壁を何の抵抗もなく突き抜け、そいつの顔面に一発ぶち込む。
「ぶぎゃぁぁ!!」
砕けた前歯と鼻血を撒き散らしながら吹っ飛ぶそいつに追い打ちで電気を集めた指先を突き刺す。殺すほどの威力はない。せいぜいスタンガンだ。
「ぎゃぁ!」
狙いは成功し、そいつは気を失ってぶっ倒れる。
「とりあえず病院だな」
意識のない陰陽師(たぶん)を三人担いで俺はもと来た道を引き返す。
「あっ!そうだ!」
途中でそいつらを下ろして、ポケットを探り、財布とあの変な紙切れを奪う。
「このくらいは迷惑料だぞ」
三人を担ぎ直し、俺は病院に向かって走った。
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