第5話 付喪神
病院の外に出ると冷たい風が頬を撫でる。病院の近くに申し訳程度に街灯が有るだけで後は真っ暗だ。振り返って病院の名前を見て納得する。
ああ。此処隣町に有る山の上に建つ病院だ!
確か豊かな自然の中で療養できるとかなんとか?そんな謳い文句を聴いた気がする。
「さて。この後どうするかな〜」
俺の家が有る町までひと駅分の距離。正直歩けないこともない。だが、問題は別だ。
「死んだんだもんな。俺」
想像してみよう。大型トラックに引かれた骨や内臓が飛び出してグシャグシャになって息を引き取った息子が次の日に何喰わぬ顔で帰ってくるのだ。しかも日付が変わる頃に!
うん。ホラーだよ!驚きすぎて心臓止まるわ!
「家に帰るのは拙いよな〜。でも〜」
此処で俺の今の装備だが、事故に有った時に着ていた学校の制服のみ。財布はポケットに入っているが、所持金僅か五千円。
しかも制服も汚れたり穴が空いたりしてボロボロだ。スマフォも一応ポケットに入っているが、画面に大きなひび割れが出来ており、ウンともスンとも言わない。
「しかし、スマフォよくこの程度で済んだな?」
木っ端微塵になっていると思ったのだが、俺よりスマフォの方が運が良いのだろうか?
「付喪神ですからね。簡単には壊れません」
「ああ。そうか。付喪神だから。え?付喪神?」
改めてスマフォの画面を見ると、画面が鈍く輝いており、そこに顔文字がデカデカと映っている。
「はじめまして!当機は貴方のスマフォが意思を持った付喪神です!」
元気よく自己紹介してくるが、うん。
「こんな変なアプリ入れたっけ?」
「ガクッ!アプリじゃありません。付喪神です!!」
「ノリ良いな!」
付喪神は意外とマメな奴で、ネットに接続して俺に付喪神の情報を見せてくれる。
「画面ヒビ割れてて見難い」
「仕方ないことです!我慢して下さい!」
なるほど。大事にしていた物や思い入れのある物が妖怪化する現象ね!
「でも、これ合ってるのか?」
「どういう意味です?」
「いやさぁ。俺が持ってたスマフォが付喪神になるなら、世の中付喪神だらけだろう?」
別に俺はスマフォ依存でも何でも無かった。そりゃぁ高校生だし、スマフォは使うが、そこまで大切にしていたり、思い入れが有ったりした訳ではない。
俺程度の使用頻度と、扱いで付喪神になるなら、世の中高生が持ってるスマフォはほとんど付喪神だろう。
「ああ!そのことですか?当機は特例です」
「特例?」
「はい。貴方の体に電流が流れた時にその電流が当機にも流れました。その時貴方の体から電流に乗って妖気も流れ込んできたのです。その影響で当機は付喪神になりました!」
「電流?」
確かに死んだ俺にお医者さん達が電気ショックしてなんとか心臓を動かそうとしてたっけ?
「貴方が田中さんと呼称される人間に触れた時です」
そっちか!確かにあの時も電流が流れたな。
「その事で当機は一つ貴方に謝罪する必要があります」
「ん?」
謝罪?何故に?
「貴方が怨霊をせっせと食べた事で蓄えていた妖気の約半分を当機が普通のスマフォから付喪神になる為に消費してしまいました。申し訳ない」
あ!なるほど。妖気ってそれで得た妖気だったのな。
「ああ。気にするな」
気にする必要は無いけど、協力はして欲しいな。
「で、お前何が出来るの?」
「え?何とは?」
「いや、妖怪なんだから何か異能は無いのか?」
当然そこが気になるだろ?しかし、帰ってきたのは意外な言葉だった。
「無いですね」
「無いの!!」
「いえ、一応ありますけど、そんなすごい物じゃ無いです」
「一応ってどんな能力?」
喋るだけとか勘弁して欲しい。
「普通のスマフォで出来ることです。ただ、当機は携帯会社の契約に関係なく電話やネット回線に入れるので無料で電話し放題。ギガ使い放題だというだけです」
な、なるほど。今の状況では在る意味便利な能力か?
「ああ。後、充電が切れることは無いですが、定期的に妖気を補充してくれないと能力は使えなくなります。後、妖気を補充されれば、損傷も自動修復できます。実際、最初はもっとグチャグチャでしたが、電気と一緒に妖力が流れて、此処まで回復しました!」
何ていうか、要するに妖怪版スマフォ?まあ、全てを無料で出来るのはありがたいけどさ。
「あ!後、課金にはちゃんとお金が要ります。正確には私の能力なら無料で出来ないことも無いですが運営会社に気づかれると、騒ぎになります」
なるほど。そこはしゃぁねえんだ。
「妖気を補充ってどうすれば良いんだ?」
「体の中の妖気をこちらに流してくれれば」
それが解んないんだけど!とにかく瞑想。あっ!解った!体の中の変な力の流れ。これが妖気か!
とりあえずその流れをスマフォに向けて流す。
「おお!妖気が来ました!!」
徐々にスマフォの傷が無くなり、最後にはひび割れた画面もキレイになる。
「すげぇ!新品みたい!!」
「そうでしょう!これが当機の全力です!」
うん。全力にしてはしょぼいが、画面に顔文字と一緒に「ドヤ」って文字が浮かんでるし、胸を張っているんだろう。そっとしておいてあげよう。
そんなこんなでスマフォ付喪神と賑やかに話している俺は気づけなかった。近づいてきていた足音に!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます