第4話 陰陽師
辺りが静まり返る深夜の郊外は何かが出そうで不気味である。僕はスマフォのライトで回りを照らしながら震えて進む。
「祐介!何やってる!ふざけてねぇでさっさと来い!」
「でも、土倉さん!夜中に街灯もない森の中って、怖いっすよ!何か出そうで!」
「アホか!俺達はその出る奴を倒すのが仕事なんだよ!陰陽師だぞ!」
「陰陽師でも怖いもんは怖いですって!」
僕がもう一度震えながら周囲を確認すると、土倉さんは深いため息を吐く。
「何でこんな奴が陰陽師なんだか」
「申し訳ありません土倉殿。彼はサラリーマンの父親とパート兼主婦の母親の家庭で育った根っからの一般人なので」
一緒に来てた黒服の人が庇ってくれる。ありがたい。
「ああ!俗に言う先天性異能者って奴か!だからって何でこんな奴を陰陽師に?」
「本人が志願致しましたので」
「はっ?志願?こいつが?」
信じられない物を見るような眼で僕を見る土倉さんに一応弁解する。
「志願って言っても、化物と戦いたいです!とは言って無いですよ!ただ、陰陽師は見習いのバイトでも時給二千円も貰える上に異能持ちは異能の格によって時給がアップすると聴いたので、その、」
「お前。それって…」
「お、お金に釣られました!!」
「アホかてめぇ!!」
意を決した告白と同時に僕の頭に拳骨が落とされる。
「いっだい!だって、だって!月ニ千円のお小遣いだけじゃスマフォゲームの課金には全然足りないし!!」
「陰陽師は命がけなんだよ!ゲームの為に命賭けんのかテメエは!」
もう一発、土倉さんの拳が僕の頭上に落とされる。
「いだっ!暴力反対!!」
「たくっ。ありえねえだろ!何だこいつは!陰陽師は妖魔と戦って死ぬことも有るんだぞ!こんな覚悟も何もねぇカネ目当ての奴が続けられるか!」
土倉さんは吐き捨てるように言った後、黒服の人に再び視線を向ける。
「何で上はこんな奴をよこしたんだよ!?」
「それが、
「小仁級?おいおい!マジか!?」
僕の異能が強力だと聴き、疑わしげな顔をする土倉さん。
「えっと、見せましょうか?」
「おう!どんな異能だ?」
見て貰った方が一番早いよね。
「こんなのです!!」
僕は気合を入れて能力を発動する。そして…
ーーーーー
ーーー
ー
「使えねぇーだろ!!これ!!」
地面にできたクレーターから這い出てきたボロボロの土倉さんが怒声を上げる。
「威力は申し分ないかと…」
「威力はな。ああ!威力はそうさ!でもこれ目立つなんてもんじゃねえぞ!一般人に知られちゃ拙いのに目立つ能力ってありえないだろ!!しかも無差別!!味方も巻き込むだろ!今の俺みたいに!!」
「きょ、強力な力なのですが…」
「テロくらいにしか使えねえよ!!」
「もう少し地味な使い方もできますよ?相手の動きを鈍くしたり!!」
「じゃあ最初っからそっちを使え!!」
「あだっ!!また殴った!暴力反対!!」
さっきから何回も頭を!!地味にジンジンする。
そうこうしている内に、黒服さんの持ってるスマフォに連絡が入る。
「もしもし?はい。了解しました」
黒服さんは電話を切ってこちらに向き直る。
「土倉殿、前川殿、対象が病院を出ました」
「漸くか」
「柊先生は上手く妖魔を誘導してくれたようです!」
「病院で戦うと入院患者を巻き込むからな」
土倉さんが低い声で呟く。いよいよ見習い陰陽師バイトとしての初任務が近づいているようだ。ヤバイ!本格的に緊張してきた!!お化け苦手なのに!!
「柊先生からの情報では、対象は
「グールなら黒服たちで対処可能か?」
「能力持ちでなければ」
「それだよな。とりあえず近場に配置した黒服達に対処させろ。黒服だけで成仏させられるんならそれで良い。手に余る場合は時間稼ぎに徹しろ」
「承知しました」
黒服さんが指示をスマフォで伝え始め、土倉さんはこちらを振り返る。
「行くぞ!祐介!」
「あっ!待って下さい!!」
走り出した土倉さんを追って僕も走るが、土倉さん走るの速いな。
暫くは走ってついて行くが、山道で結構な距離を走るのは現代っ子には厳しい。
「ちょ、待って、もう無理…」
息が切れてくる。足がガタガタだ。
「あ!お前情けなさすぎるだろ!!」
「もう無理です!きゅ、休憩!!」
「お前なあ」
流石に休憩はくれなかったが、土倉さんが歩き始めたので、僕も歩いてついて行く。
無言で歩くのも気まずいので何か話したいんだけどな?話題話題??何か話題が無いかと考え、そう言えばと思い出す。これは訊いておこう!
「そう言えば!」
「ん?」
「敵はグールなんですね!陰陽師なのに妙に敵が洋風と言うか」
「ああ。それか」
土倉さんは呆れたように呟く。
「元々は死人って呼んでたらしいぞ。でも明治になって西洋の文化が入ってきてな。西洋の考えの方が便利な部分は、あっちの真似をしたんだ」
「便利な部分?」
全部ってわけでは無いのね。
「例えば、それまで陰陽師はゾンビもグールもひと括りに死人と呼称してた。だが、ゾンビとグールじゃ強さが違う。分けたほうが良いから、死人に関しては向こうの呼称を取り入れたんだ」
「なるほど」
良いものは真似しようってスタイルなわけだ。
「っと!無駄話してる場合じゃねえな。そろそろだぞ!」
「マジっすか!!」
いよいよグールとの対面である。ヤバイ!!胃が痛くなってきた!!
痛む胃を抑えながらも、僕は土倉さんの後についていった。
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