病院

 病院に駆けつけたとき、颯太は手術中だった。近くにはセレンディップの社員がいて、颯太の具合を教えてくれた。気管支にやけどを負ったようで、助かる可能性は低いと医師から説明を受けた彼は教えてくれた。その社員も事件当時、セレンディップにいたようで全身が煤だらけだった。

 颯太を運び出したのはあのアンドロイドだ。社員が示す方向に、アリスが座っていた。颯太には家族がおらず、両親は地方にいて間に合いそうにない。それならばと、昔馴染みのぼくを呼んだのがアリスだった。

「大変だったね」

 何かに祈りをささげるようにしてうつむいていたアリスに声をかける。アリスはさきほどの社員以上に煤だらけで、髪の一部は燃えたのか縮れていた。

「陽……」

「颯太を助けてくれてありがとう」

 そうは言ったものの、この時にはすでに颯太が助からないことを知っていた。

「突然、会社の警報が鳴って、颯太が私をロッカーの中に隠してくれた。暴徒の狙いはアンドロイドだろうからって」

 アリスはうつむいて、途切れ途切れに言葉を紡いだ。

「でも、そうじゃなかった。あいつらは壊せるものがあればそれで良かった。それがアンドロイドでも人間でも。私がロッカーに隠れてから、あいつらはすぐにやってきた。颯太を殴った後、ラボのガラスを手当たり次第に割り、最後には火をつけていった」

「アリスは、その様子を見ていたの?」

「会社のネットワークにアクセスして、監視カメラの映像で。そこにはっきりと映っていた。はっきりとこの眼でみていたのに、何もできなかった。飛び出して行きたかったのに、恐怖で身体が動かなかった。

 結局、身体が動いたのはあいつらが去って、だいぶ時間が経ってから。その頃には火の手がかなり回ってしまっていた。颯太を何とか運び出すことはできたけど、既に煙を多く吸ってしまっていた」

 アリスは口を閉じた。ぼくにはかける言葉がなかった。

 そのまま座っていると数分後には手術室の扉が開き、医師が出てきた。医師はセレンディップの社員の元へ行くと、何やら説明をしているようだった。医師が去ると、社員はぼくのほうを見て、ゆっくりと首を振った。颯太は息を引き取ったのだ。

「颯太がいなくなって、アリスはどうするんだ?」

「私はもともとセレンディップの持ち物なので、セレンディップの修理を受けることになる」

「穢れを削除する修理」

「颯太は修理を嫌ってた。セレンディップでさえ役割のわかっていないものを行き当たりばったりで削除したら、アンドロイドのバランスが崩れるって」

「アリスは修理を受けたいの?」

 アリスは十秒ほど沈黙したあとで答えた。

「颯太が止めるなら受けたくない思っていたけど、その颯太はもういないんだよね」

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