葬式

 葬式が開かれたのは、四日後だった。

 棺に入れられた颯太が火葬場の炉に入れられていく。颯太の顔を見ることはできなかった。颯太の両親から話を聞いたという、颯太の親戚の会話から漏れ聞こえてきた限りでは、遺体の損傷が激しく、参列者に見せることができる状態ではなかったという。

 颯太の身体が燃やされている間、ぼくは外に出て、火葬場の煙突を眺めていた。父が死んだときのロイと同じように。そこにあるはずの煙は見えなかった。

 いつの間にか、目から涙が溢れていた。

 血のつながった父親のときには涙を流さなかったくせに、昔馴染みとはいえ赤の他人の颯太の死に対しては、ぼくの心は揺れていた。

 颯太が死の間際に何を思っていたのか。その無念やつらさや痛みを想像すると、涙が流れた。

 なぜ父親のときはそんなことを想像すらできなかったのだろう? 答えは簡単だった。痛みやつらさを知らなかったからだ。

 誰かが近づいてくる音がした。ぼくは涙を拭いてから音の方向を見て言う。

「アリスか。修理は間に合ったんだね」

「修理といっても大したことではありません。コードをつないで、あとはソフトウェアが処理してくれる。私は座っているだけでした」

「アリスだけでも助かって良かった」

「何を見ているんですか?」

「煙を見ているんだ」

「煙? 私には見えませんが」

「見えないけど、そこにあるんだよ」

 前もこんな話をしたなと思い出す。あのときは反対の立場だったけど。

「どうだい? 時間が経って気持ちは落ち着いた?」

 ぼくの問いかけにアリスは首をひねる。

「気持ち? 私に気持ちはありません」

 当たり前だ。アリスはアンドロイドなのだから。

 アリスの持つ違和感に気づく。声には抑揚がなく、眼には光がなかった。

 アリスから感情を感じない。

 アンドロイドなのだから感情がないのが当たり前。けれど、今までぼくはアリスから人間の感情のようなものを感じていた。

 颯太が死んだあの病院でアリスから感じた、大切な人を失った悲しみはいったいどこに消えてしまったのだろう。

「いつからだい? いつから君には悲しみがないんだい?」

 アリスの答えはなかった。

 原因はリコールで削除された穢れたプログラム以外に考えられなかった。

 ロイの言っていることがどこまで本当かはわからない。けれど、目の前には感情を失ったアリスがいた。それだけで十分だった。

 ぼくは心を決めた。

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