第8話 No14

「ほ、本当なんですか?俺の学校に『黒』のメンバーがいるって。一体誰です?」

「『No14』まだ確証があるわけじゃないがこいつが君と同じ寂蘭高校の生徒の可能性が高い」

「……なんで、高校にそのNo14ってやつがいるって分かったんですか?」

「君たちが学校にいっている間にやつを尋問していてね。」

「やつ?」

「……入らせろ。」


 夜叉がそう言うとパラディンの一員であろう人が誰かを拘束したまま部屋に入ってきた。


「こいつは一昨日、切間の家を襲ってきた三人組の男の一人だ。」

「……こいつが……」

「……」


 男は一瞬目を合わせたが俺の姿を見るやいなや目をそらす。


「こいつは一昨日君の家を襲ってきた『黒』のメンバ-の一人No3402だ。どうやらこいつと他の二人はNo14についていたらしく君の家への襲撃もNo14に指示されてやったことらしい。」

「そうだったのか……だったらこいつからNo14の正体を聞き出せるんじゃないですか?」

「連絡はほとんど通信で声も機械を使って変えてたから顔どころか男か女かすらも分からなかったらしい。」

「そっか……まあそう簡単には分からないよな……」

「だが、こいつの話の中にNo14が寂蘭高校の生徒ではないかと思える点がいくつかあってね……話してくれ。」


 夜叉がそういうとさっきまで黙っていた『黒』の男は口を開く。


「あの写真が出てきてすぐ、俺達はNo14に指示されてこの街の空き倉庫に集められて、そこでお前の家を襲撃をするように言われて……」









「……以上が今回の作戦の全てだ。わかったな。」

「なあ、一ついいか?」

「……なんだ?」

「武器は改造モデルガン一丁だけなのか?パラディンの連中もあの街に例の奴がいることは分かってるんだろ。もし、やつらが俺達の動きに気づかれたらこれだけじゃ太刀打ちできないだろ。」

「そ、そうだ。やつら噂によるとかなりやばい武器を持ってるみたいじゃねえか。こんな偽物の銃なんかじゃ勝てねえだろうが!!」

「あんた発明家のNo9と仲がいいんだろ。だったら彼に頼んでパラディンと対応できる武器をもらえたりしないかなあ?なんて……」


 彼らがぐだぐだと文句を言い続ける。そんな彼らに対してNo14はふうと一つため息をついた後口を開く。


「あのさ、あんた達なんでそんな手厚くサポートをしてもらえると思ってるの?自分達の立場をわきまえろよ。」

「だ、だけどよ……」

「グチグチうるさいんだよてめえらは、会員番号四桁のくせに調子のってんじゃねえよ。もし不安だったらやめてもいいんだよ……他にもあてはあるからさ。でもそれで本当にいいのかな。そんなんじゃいつまでたっても会員番号四桁のままだけど。」

「……」

「……なんだよ?黙ってないでなんか言えよ。」

「……わ、悪かった。文句言って悪かった。だから俺達にやらせてくれ頼む!!」

「……はあ、本当に情けない。こんな大人にはなりたくないなあ……」

「……くっ」







「なるほど『こんな大人にはなりたくない』か。」

「そう、こういう台詞を言うってことはNo14は未成年である可能性がが高いというわけだ。」

「でも、未成年ってだけで古鳥高校の生徒と決めつけるのは……」

「もちろん根拠はそれだけじゃない。」

「と……言いますと?」

「No14はなぜかあの写真が出てきてすぐに君の家を特定した。おかしいと思わないか?」


 確かにいくらなんでも一日もかからずに俺の家を特定するなんてさすがに無理があるよな……


「ん、じゃあなんでパラディンは一週間前からうちの隣の地下を拠点にしてたんだ?その時点じゃ俺のことなんて知るよしも無いのに……」

「ああ……そのことなんだけど……実は基地が切間君の家が隣だったのたまたまだったんだよね。」

「え、そうだったんすか?」

「この街に噂の主がいることは分かっていたからとりあえず空き家に秘密基地を作ったが、まさかそのお隣さんが噂の主だって写真見て知ったときはおどろいたよほんと。」

「はあ……そんなことってあるんですね。」

「まあ、それはそれとして、要するにNo14は未成年でなおかつ君の家がどこにあるかも知っているってことだ。」


 確かにその条件を満たす人は古鳥高校にたくさんいる。家に遊びに来たことのある友人達はもちろん、家が中学と目と鼻の先だったこともあって中学のときからの同級生は俺の家を知っていてもおかしくない。

 俺の学校に『黒』がいる……あり得ない話ではないと思っていたが、実際にそう言われるとなんともいえないような恐怖がこみあげてくる。学校すらも安全な場所では無いってことだからな。


「なあ、そろそろ戻ってもいいか?早くしないと……」


 黒の男は懇願する。


「待ってくれ……最後にあんたに聞きたいことがある。」


 俺はそれを引き留める。


「な、なんだよ。」

「お前らは本気で俺のこと殺す気だったのか?」

「……」

「だっておかしいだろあんな嘘くさい噂一つで俺を……人を殺そうだなんて……」


 俺のこの質問に対して『黒』の男の回答は……俺の想像の斜め上をいくものだった。


「噂の真偽なんてどうでもいい……」

「え?」

「この作戦を成功させれば……俺達はランクをあげてもらえたんだ。」

「ラ、ランクって?」

「そういえばそこら辺のことちゃんと説明してなかったね。」


 そう言うと夜叉は『黒』のランク、つまり会員番号について説明し始める。


「ファンクラブの会員番号って普通はファンクラブに入った順に設定されるけど『黒』は少し特殊でね。『黒』への貢献度によって会員番号が変動するんだ。」

「それが、そんなに大事なのか?」


 そう俺が聞くと黒の男は語る。


「……会員番号がゼロに近ければ近いほど姫野真理に近づくことが出来るんだ。今回の作戦を成功させれば俺の会員番号も三桁まであげてもらえたんだ。なのに、それなのに……!!」


 ……い、意味分かんねえ。そんな何の根拠もないもののために俺を殺そうとするのか?なにが、なにがやつらをここまでさせるんだ?


「なあ、それよりもよテレビ見せてくれよ。このこと話したら見せてくれるって約束してくれたじゃないか?」

「そういえば、そうだったな。」

「火曜日の10時はマリリンがMCの『果ての果てまでイッテGO』が始まっちまうじゃねえか!!俺はあの番組でMCやってるマリリンが一番好きなんだ。あれを週一で見ないと俺は……」

「もう変わってるよMC。」

「え、な、なんで!?」

「ああ、そういえばお前ら知らないのかマリリンは休業、いや引退したんだ。だからイッテGOのMCも降板。」


 そのことを聞いた『黒』の男はその場に崩れ落ち目には涙を浮かべる。


「そんな、嘘だろ……」

「嘘じゃない、本当の話さ。」

「そんな……嘘だあああああ!!」



 彼の表情はこの世の地獄を全て体験したような……そんな顔をしている。彼らにとって姫野真理がどういう存在なのか分かった気がする。だが、それを理解した上で俺は思う。何かが……何かがおかしいと。

 


 

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