第7話 学校2

「姫野真理です。みんなこれからまたよろしく。」


「……」


 クラスは一瞬、しんと静まりかえりそして……


「うおおおおおお!!!」

「帰ってきたんだ。俺達の姫野さんが帰ってきたんだ!!!」

「お帰り!!姫ちゃん!!」


 クラスのボルテージは最高潮に達する。姫野は、アイドルになる前から学校の人気者だった。そして、姫野はアイドルになりもう二度と帰ってくることはないと皆が思っていた中こうやってこのさびれた街に戻ってきたんだ。こう盛り上がってしまうのも無理はない。


「静かに!!まあ、久々の再会で盛り上がるのも無理はないと思うが、もう一人、転入生を紹介する。入ってきなさい。」


 そう言われて入ってきたのは……


「東京から来ました。神宮朝日です。二年間よろしくお願いします。」


 またもやクラスはしん……と静まり返ってそして。


「うおおおおおおお!!」

「かわいさも姫野さんに引けをとらねえ!!」

「シティガールって感じ……かっこいいなあ、憧れちゃうなあ……」


 こちらもまたすごい盛り上がり。確かには姫野に負けてないし、何より都会からの転入生なんてこの街じゃ滅多にないことだしな。盛り上がるのも当然だろう。


「いやあ、やべえってほんと。姫野が帰ってくるだけでもまつりごとなのに、都会から転入生までくるなんて……しかも結構かわいいし!!」

「うん、まあ……そうだな。」

「なんだよ、あんまり興味なさげじゃねえかよ。まあ、それもそうか、お前、姫野一筋だもんな。」

「ああ……ってちげーよそういうわけじゃねえよ!!」

「おいおい、まさかばれてねえとでも思ってたのかよ!!お前の態度見てたら普通分かるっての!!」


 そうなのか、そんなわかりやすいのか俺……。


「はーい、静かに!!じゃあ二人はそこの空いてる席に座ってくれ……」


 そう言われると二人は空いてる席へと座る。位置的に言えば俺の席とそこまで離れていない。消しゴムやノートを気軽に借りることが出来るぐらいの位置って感じだ。


「じゃあ、早速、今後の予定について話していくぞ……まずプリントの一枚目を……」






 俺達は今後の予定を大体聞かされた後。いつもより早い時間に授業は終わり昼前の下校となった。


「いやあ、やっぱり午前中に帰れるっていうのは気分がいいね。」

「まあ、明日からいつも通りの時間割に戻るけどな。」

「はあ、そうなんだよなあ。毎日この時間割だったら最高なのによ……。」


 俺達は特に用事も無いためそのまま帰ろうとした。だが、そんな俺達に背後から声をかける人が一人。


「……ねえ、切間ちょっとお願いがあるんだけど。」

「な、なんだよ朝日。急に改まって。ちょっと怖いんだけど」

「……私この学校来たばかりでどこに何があるかよく知らないからさ、この学校の案内をしてほしいんだけど。」

「ああ、そういうこと……まあ、別にいいよどうせ俺ら今日暇だし。」

「え、俺も?」

「いいだろ別に、佐原もどうせ今日暇だろ。」

「まあ、そうだけど……それもそうだな!なんか面白そうだし!」

「……ねえ、何の話してるの?」

「あっ、姫野。いやあこいつがさあこの学校のことよく分かってないから案内してくれって……そうだ姫野も一緒にどう?姫野も同じ転校生だからこの学校のこと分かってないだろ?案内するよ。」

「そうね、どこにどの教室があるか分かってないと色々不便だし、お願いしちゃおうかな。」







 そういうわけで俺と佐原は朝日と姫野のために学校内を案内することになった。


「……で、ここが体育館な。」

「ふうん、やっぱり、高校の体育館ってなると結構広いんだね。」

「まあ、そうだな。そういえば姫野は中学生のときバスケ部だったよな。」

「うん、まあ懐かしいなあこの匂いにこの雰囲気。またバスケ部で青春するのもありかもしれないかな……」

「確か、今日ってバスケ部は活動日だったよなだったらあいつが……」


 そう俺が言いかけたとき背後から誰かが姫野の背中に勢いよく抱きつく。


「ひーめちゃん♪」

「ひゃっ!!ビックリしたあ……ってなんだ。かなちゃんじゃん驚かさないでよ……」


 突然、姫野に背後から抱きついて来たのは「花井かな」同じクラスの女子で姫野にとって俺の次に付き合いが長い友人だ。


「で、姫ちゃんたちはどうしてここに?もしかして入部志望?」

「いや、そういうわけじゃなくて……。私達転校してきたばっかじゃん。だからこうやって切間に学校を案内してもらってるんだよ。」

「ふうん、そうか……まあ、気が向いたらいつでも来てね。歓迎するからさ。で、それはそれとして……切間ちょっとこっち来い。」

「ん、なんだ?」


 花井は俺を呼ぶと三人には聞こえないようにひそひそ声で俺に問いかける。


「切間てめえ、これはなんかの当てつけか?」

「は、お前何言って……。」

「とぼけてんじゃねえよ……なんだ?こっちは春大会前で部活が忙しいってのに姫ちゃんと一緒にデートだなんて……ああ、うらやましい!!」

「おいおい落ち着けって……」

「大体ね。あんた私よりちょっと姫ちゃんと付き合い長いってだけで調子乗りすぎなのよ。あんたなんかより私の方があの子のこと……」


……こんな感じで花井は昔から姫野のことで何かと俺に突っかかってくる。はっきり言ってこいつのことは苦手だ。


「ねえ、まなちゃんたち一体何話してるの?」

「え、ううん何でもないよ。ははは……じゃあ私練習しないといけないから。じゃあ!!」


 


* 




 その後もいろいろな場所を案内する。そして、美術室のそばを通ろうとしたときいきなり後ろからボンと思い切り背中をたたかれた。


「うお!!」

「ちょっと、切間、大丈夫?」

「うっ、いてて一体誰だよ?」

「やあ切間君に佐原君、かわいい女の子二人も連れて歩くなんてうらやましいねえ」

「んだよ。剛島かよ。相変わらずの馬鹿力だなお前……」


 剛島久万吉ごうじまくまきちいかにも体育会系な厳つい見た目にそぐわず美術部に所属している。一年のときは同じクラスで休み時間とかは大抵こいつと安田で一緒に過ごしていた。


「ははは!!まあ、それほどでもあるかなあ!!」

「褒めてねえよ……」

「まあ、まあそう言わず……っていうか切間っちの隣にいる美少女はもしかしてマリリン!?」

「え、まあそうだけど……」

「す、すげえや、休業してこの街に来てたって本当だったのか……お、俺そのマリリンのファンなんす!!ファ、ファンクラブにも入ってて……」

「!?」

「!?」


 『ファンクラブ』という単語を聞いて、俺と朝日は思わず身構えてしまう。


「ええと、確か財布に……あった!!ほらこれです。俺の会員証。」


 剛島が見せた会員書は『黒』のものではなく公式のファンクラブの会員証だった。


「俺、マリリンがMINEに戻ってくるのずっと待ってます。だから、今は頑張って休んでください!!」

「頑張って休むって何だよ……」

「あ、ありがとうね。うん……。」


 姫野は少し複雑そうな表情を浮かべている。剛島はMINEに戻ってほしいと言ってはいるが、姫野はMINEに戻る気はない。きっとそのことを知ったら


「あ、部活の時間何でそれじゃあ!!」


 そう言うと剛島は美術室に入っていった。


「え、美術部だったんだあの人。」

「ああ、そうか剛島は小学校、中学校と違う学校だから姫野は知らないのか、あのなりでコンクールで何個も証とるぐらい絵がうまいんだぜあいつ。」

「へっ、へえ……人は見かけによらないのね。」

「あいつは極端すぎるけどな。」




 


 その後も俺達は学校内を色々と案内し気がつけば時刻は正午過ぎとなっていた。


「はあ、なんかおなかすいてきたな……」

「そうか、もうそんな時間か……じゃあさいつも俺と切間が行ってるラーメン屋にでも行かね?」

「ラ、ラーメン!?行こう行こう!!」


 姫野の目の色が変わった。そういえば姫野はラーメンが好きだったな。


「朝日ちゃんはどお?ラーメン好き?」

「は、はひ、わ、私もラーメン大好きです!!朝昼晩ラーメンでもいけます!!」


 いやいや、さすがに朝昼晩ラーメンはねえだろ……


「よし、決まりだな。じゃあ早速ラーメン屋へレッツゴー!!」



* 




 そして、俺達は俺がいつも通っているラーメン屋『キクラゲ』へと向かった。


「醤油豚骨お待ち!!」

「お、美味しそう……」


 姫野は今にもよだれがあふれ出しそうな表情を浮かべている。


「い、いただきます。」


姫野はラーメンを一口すする。


「お、おいしい……これすごくおいしい!!」


相当このラーメンの味が気に入ったのか姫野のはしは止まらない。


「だろ、だろ!」

「ずるいよふたりとも、こんなおいしいラーメン毎日食べてたなんて」

「いや毎日は食ってないけどさ。まあ、気に入ってもらってよかったよ。」

「これからはさ……たまにでいいから一緒にここによるのもいいかな……なんて。」

「あ、ああそうだな。」

「……」

「……」

「あのさあ、なにいちゃついてんのあんたら。」

「い、いや別にいちゃついている訳では……」

「あ、お、俺、ちょっとトイレ行ってくる!!」


 俺はダッシュでトイレへと向かった。


「……ああ、あんなんじゃ一生進歩しないわね。」







 はあ……なんか気まずくなって思わずトイレに駆け込んだが全然出ない。


「はああ……なんでこうなっちゃうのかな。」


 そんな独り言を漏らしていると、誰かがトイレに入ってくる。


「……あっ。」

「……あっ。」


 入ってきたのは俺の知っている人物。名前は鬼山悪宇我きやまおうが。名前からわかる通り不良だ。昔はよく遊んでいたりしたが、悪い奴とつるむようになってから遊ぶどころか話すことも無くなった。


 そんな奴と同じ空間で過ごすのは控えめに言ってきつい。俺はその場から逃げるように(ちゃんと手も洗って)トイレから出た。


「あっ、戻ってきた。」

「ほら早く食べなよ。麺のびちゃうよ」

「お、そうだな。」






 昼飯も食べ終わり、ついでに朝日のためにと街中を色々と案内して周る。本当に何もない街ではあるが朝日はそれなりに楽しんでいるようだった。まあ、楽しそうだったのは姫野がいたからだろうが……気がつけば日はすっかり傾いている。今日は……久々に楽しかった。


「じゃあ、私道こっちだから。」

「ああ、そうだったな。じゃあまた明日」

「うん、また明日」


 姫野はそう言うと自分の家がある方へと帰って行った。


「大丈夫、顔緩んでるけど?」

「ゆ、緩んでねえよ……」

「ふーん、まあ、それはそれとして今日の夜アジトに来て話があるから」

「ああ、わかった。」

「それとね実はね……」


 




「……そろそろ行くか。ええと確かこのボタンを押せば良いって言ってたな」


リビングの机にあったボタンを押すと床が抜けて階段が現れた。


「……もうこんなんじゃ驚かなくなってきたな……」


 どうやら俺が留守中に作られたらしい。俺はその階段で指示されたようにアジトへ向かう。


「やあ、来たね。」


 下まで降りるとそこには夜叉がいた。


「何で家に勝手に地下階段なんて作っちゃうかな……」

「ほら、色々と便利じゃん、わざわざ家から出てここにくるのも面倒でしょ」

「ううん、まあそうだけど……」

「ここで立ち話をするのもなんだし俺の部屋に来てくれ」


そう言われて俺は夜叉の部屋に移動した。


「話って言うのは一体何なんだ?」

「ああ、まあ率直にいうとだな……」

「……」

「切間君が通っている学校に奴らの……『黒』仲間がいる。」

「……え?」



 
















 























 


 



 


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