第5話 武器

突然現れた10cmぐらいの大きさのくも型のロボ。くも特有のカサカサした見た目はそのままに小型ながら重厚感のあるボディをしている。こいつの背中に当たる部分をよく見てみると小型の銃のような物がとりついている。あれで俺を撃ってきたってわけか……


「おい、なんなんだあれは!!あれも『黒』の差し金か!?」

「現代であんな高性能なロボットを作れるのは……『黒』のNo9だけだ。」


 クモ型ロボはまるで本物のクモのように動き回っている。こんな生き物みたいな動きをするロボットを俺は見たことがない。


「とにかくこの部屋から出るぞ。ドアを開けるぞ!!」


 俺は慌ててドアを開けようとする。だが、ドアは開かない。なんども開けようと試みるが、全く開く気配がないのだ。


「開かねえぞこれ!!どうなってんだよ!!」

「なに!!まさか、ドアのオートロックシステムを……くそ、何てことだ!!」

「おいおいどうすんだよこの状況!!」


 クモ型ロボは銃口に何かエネルギーをため込んでいるように見える。恐らく次の光線を撃つための準備をしているのだろう。


「くそ!!」


 夜叉はポケットから小型の拳銃を取り出し、クモ型ロボに向けて発砲する。一発、また一発と……だが、クモ型ロボはまるで本物のクモのように素早い動きで銃弾をよけ続ける。当たる気配が全くない。夜叉が持っている小型の拳銃はリボルバータイプで装填できる弾の数は六発。だが、その六発を夜叉は全て打ち切ってしまった。


「くそ、こいつはまずいな……後はもう……」


 夜叉は俺の方を見つめる。いや、正確には俺と俺が持っているこのおもちゃの銃を見つめている。


「おいおい、マジかよ……。無理に決まってるだろ!!銃なんて撃ったことねえんだぞ!!」

「それについては問題無い。」

「何でだよ!!」

「いいか切間君、『絶対にこのくもに弾をぶち込んでやる!!』って念じながら引き金を引くんだ。」

「ね、念じながらってなんだよ!!」

「俺を信じてくれ……頼む」


 ……やるしかないみたいだな。俺はくも型ロボに銃口を向ける。当然クモ型ロボは逃げ回る。本当にこいつに当てられるのか……いや、『当てられるのか』じゃない『当てなきゃいけない』んだ!!


 俺は精神を集中させる。ぶち込んでやる……ぶち込んでやるぶち込んでやるぶち込んでやるぶち込んでやる!!!


「食らいやがれ!!」


 そして俺は引き金を引く。銃口からエネルギー弾が発射される。弾は俺が意図しない方へと向かっていく……くそ、やっぱだめだったのかよ……そう諦めかけたその時だった。


「な、なんだあ!?」


 弾の軌道が曲がった。普通の銃弾だとあり得ないような曲がり方をしている。その弾はクモ型ロボに追尾するように向かっていく。そして……弾はクモ形ロボに直撃する!!


「ジジジジジジ!!」


 そう音を立てながらクモ型ロボの動きは止まった…………


「はあ、マジで危なかった……まさかこんなおもちゃの銃に助けられるなんてな。」

「だから、おもちゃじゃないって……」

「にしても、なんで突然弾が曲がったんだ?一体どういう仕組みなんだこの銃。」

「まあ、そうだななんと説明すればいいのやら……まあ簡単にいえばだなこの武器には特別な力が備わってるんだ。」

「特別な力……それって魔法みたいな物ってことか?」

「ああ、まあ大体そんなものだと思ってくれて構わない。」


 もう正直、訳の分からないことが多すぎて、『魔法』とか言う非現実的な単語もすっと出てきてしまうようになってきている。


「……そういえば、なんか急にどっと疲れが出てきたんだけど、これもこの武器のせいなのか?」

「ああ、この銃や朝日のトランプこれらは『悪魔武器』と呼ばれる武器。魔法の力を持った特別な武器だ。」

「あくまぶき……?」


 悪魔って……なんか物騒な名前してるなこれ……


「昨日、朝日が武器として使ってたトランプ。あれも悪魔武器の一つだ。」


 ……朝日が使ってたトランプ。あれも拳銃の弾をはじき返したり結構無茶苦茶なことやってたもんな……


「悪魔武器は手に持っているだけで身体能力を上昇させる。君がどんなに運動神経が悪くても体育の成績が5になれるぐらいにはな。」

「へえ……」

「……今のは物の例えだ。ずるして体育で使うなよ。」

「つ、使いませんよ……!!」


まあ、一瞬使おうと思ったのは言わないでおこう。


「そして、この銃のメインの能力は通常の銃ではあり得ない能力を持った弾を撃てるってことだ。さっきの曲がる弾丸もそのうちの一つ。他にも多種多様な弾を撃つことが出来る。」


 こんなおもちゃみたいな銃にそんなことが出来るのか…… 


「他にこの武器について何か聞きたいことはあるか?」

「じゃあ、最後に一つだけいいですか」

「……なんだい?」

「この銃ってさあ人間に当てたら……殺しちまったりしないよな……?」


 当然の疑問だった。だってあの頑丈そうなロボも一発で沈めるぐらいの威力だ。もし、人間にも当てよう物なら……


「それについては問題ない、この悪魔武器は人を殺せないように今は力を押さえられている。今回は相手がロボットだからそれなりの威力が出たが、人間にこの弾が当たったとしても死にはしない。気絶するだけだ。」

「本当だろうなそれ?」

「ああ、本当だとも試しにちょっとそれを貸してみてくれ」


 俺はそう言われて夜叉に悪魔武器を渡した。すると夜叉は突然自分に銃口を向けて……


「おい、何やって……!!」


 バン!!と銃声が鳴り響く。音がなった後、時間差で夜叉は倒れ込む。


「え?え、え、ええええ!?」


 俺は慌てて夜叉の方へと駆け寄った。……息はしている。本当に気絶しているだけだ。つまり夜叉は自分の身をていしてこの銃で人を殺すことが無いことを証明したわけだ……いやいやもっと他に方法があるだろ!!


 そして、間が悪いことにさっきまで開かなかったはずのドアが開く。


「兄さんなんかあったの?突然大きな音がしたと思って様子を見に行こうとしたら、ドアは開かなくなってたけど……って、え?」


 朝日は夜叉が倒れているのを見て一瞬動揺したが、すぐさまトランプを取り出し俺の方へと向けた。


「……いや、違うって!!誤解だから!!こうなったのはその、かくかくしかじかで……」


 俺は朝日に今さっきまで何があったかを事細かに説明した。


「はあ、全く……兄さんらしいと言うか何というか……」

「ほんと、びっくりだよ……いくら死なないって分かってても自分に向けて撃たないだろ普通……」


 彼女のという発言からして、こういうこと訳の分からないようなことをしてもおかしくない人ってことなんだろうな……


 朝日は夜叉を部屋にあったソファに運んでそのまま寝かした。夜叉は気持ちよさそうな顔で眠りについている。


「兄さんはソファーに寝かしておくとして……私が兄さんの代わりにこの後のことを説明しとくね。」

「よろしく頼む。」

「さっき話してたようにあなたには今まで通りの生活を送ってもらうことになるわ……護衛付きだけどね。」

「やっぱりそうなるよな……」

「あなたのプライバシーはなるべく侵害しないように遵守する。ただ、多少生活が不自由に感じるかもしれないけどそれは我慢してね。後、できれば定期的にここのアジトに来て。黒に対抗するためにある程度は鍛えてもらいたいし、悪魔武器の使い方とか色々教えたいからね。」

「まあ……しょうがねえよな。」

「ハイ、じゃあ話は終わり!!今日はもう家に戻って明日に備えなさい。学校が始まるんでしょ。」


 そうだった。明日は高校の始業式があるんだ。昨日今日といろいろなことがありすぎてすっかり忘れていた。


「ていうか春休みの宿題一切やってねえ!!」

「え?春休みって普通宿題無いもんじゃないの?」

「やっぱ普通はそうだよな……でも俺の学校にはあるんだよ。こうしちゃいられねえ、じゃあ!!」






 切間怜央が帰ってしばらくして夜叉兄さんは目を覚ました。


「ううん……あれ、切間君は?」

「兄さんが寝ている間に帰っちゃたわよ。」

「はは、そうか。」

「『はは』じゃないわよ全く……でも本当によかったの悪魔武器渡しちゃっても?」

「彼の身を守るのにあれは最もふさわしい武器だと思うけどね」

「にしたって、馬鹿げた銃フールガンを渡すことはないでしょ。あれは使える人が使えば私達の大きな戦力になるのに……」

「ところが、彼はその使かもしれないぞ。」

「えっ、まさか……あんなのに悪魔武器を使いこなせるとはとても……」

「切間君がどうやってあのクモ型ロボを倒したと思う?」

「え、普通に撃って倒したんじゃないの?」

「ホーミングショット。」

「……ほんとに?」

「ああ。」

「たまたまじゃないの?」

「そうかもしれない。でも、もしかしたら彼には悪魔武器を扱う才能がある可能性もあるよね。」

「どうだかね……」

「……」

「そういえば、話変わるけどって春休みの宿題があるってほんと?」

「おいおい、知らなかったのか……」

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