第4話 後悔

 朝、目が覚めるとそこはいつも通り自分の部屋……というわけにはいかなかった。目の前にあったのは見慣れない天井、起き上がるとそこは見慣れない部屋……やっぱり夢なんかじゃなかったんだ。ブラック:マリンもパラディンもそして、姫野が帰ってきたことも……!!俺は姫野のことが夢じゃなかったことへの喜びと『黒』とかいう訳の分からない奴らに追われていることへの不安が入り交じった複雑な気持ちになった。


 俺は、とりあえず部屋から外に出てみるとそこには神宮朝日がいた。


「お、おはよう」

「おはよう。どう、よく眠れた?」

「ああ、結構疲れてたしぐっすり眠れたよ……ははは」

「そう、それはよかった。」

「……」

「……」

「なあ、俺はいつまでここにいなきゃならねえんだ?」

「一生」

「へ?」


 え、今、こいつ一生って言ったか?一生ってなに死ぬまでここで暮らせってこと?え、嘘だろ。え、え……


「ふふふ、冗談よ、焦った?」

「あ、焦るに決まってんだろ!!心臓止まるかと思ったわ!!」


 正直、こいつらだったらそういうことをしてきてもても全くおかしくはない。


「全く、男のくせに肝が据わってないわね。こんな冗談にびびっちゃって……そんなんじゃ姫野真理を口説こうなんて夢のまた夢よ……」

「う、うるせえな!!そんなのやってみなきゃわかんねえだろうが!!」


 ……そんなこと、自分が一番分かっているし思っていることだが、人に面と向かってそう言われるとむしょうにむかつく。


「あ、そろそろご飯の時間じゃん。あんた食堂の場所分からないでしょ?案内してあげるわ」


 俺は彼女に案内されて食堂についた。周りを見てみるとすでに何人かの職員?らしき人達が食事をとっている。メニューも和食から洋食まで朝飯にも関わらずかなりバラエティー豊かだ。俺はとりあえずいつも食べている和食のメニューを注文した。


「なあ、お金とかは払わなくて良いのか?」

「うん、払わなくても大丈夫だよ。ここの食堂は、全品無料だから。」

「……この施設といい一体どっからそんな金がでてくるんだよ」

「ほとんど、兄さんの金でまかなってるよ。なんせ兄さんは神宮財閥の御曹司で自分も会社をいくつも立ち上げて成功してるからね。金は腐るほど持ってるよ。」


 神宮財閥ってあの有名な……あいつ、やけにオーラがあるなと思ってたけど、財閥の御曹司だったのか……てことはこいつは財閥の娘ってことかよ……!!


「なに、私の顔じろじろ見てんの?」

「い、いや何でもねえよ……」

「……変態」

「なんでそうなるんだよ!!別にそんな目で見てたわけじゃねえよ!!」

「嘘つきはよくない」

「嘘じゃないって!!」


 ああ、なんかこいつとしゃべってると調子が狂う。初めはクール系の美少女かと思ったら、こんなうっとうし奴だったとは……


「お?切間君もう妹と仲良くなったのかい?」

「べ、別に仲良くなってないわよ」

「そ、そうですよ!!誰がこんな奴と……」

「ははは、まあそんなことより君に話したいことがある。朝ご飯食べ終わったらまた、俺の部屋に来てもらえるかい?」

「……わかった。」


 俺は朝食を食べ終えるとそのまま彼のいる部屋へと足を急いだ。……改めてこの施設内を見てみるとその広さや施設の充実っぷりに圧倒される。こいつらは本当に過激派のファンクラブを取り締まるための自警団なのか……?







「……入るぞ」

「ちゃんと来てくれたね、じゃあ今日は今後のことを含めて色々話をしていこうと思う。」

「ああ、頼むぜ本当に……」

「まず、これから君がどうするかだが……これについては選択肢が二つある。」

「二つ……?」

「一つ目は、ここから遠くにある場所で身を隠す。」

「身を隠すって……いつまで?」

「正確には分からないが、下手すれば十年、二十年……いやそれ以上かもしれないな……それだけ奴らは執念深い。」

「それじゃあ、姫野ともう二度と会えないかもしれないってことかよ!!そんなの……やっとやっとあいつと一緒に過ごせるようになったってのに……」

「……まあ、君ならそういうだろうと思っていたよ。そして、もう一つの選択肢だけど……君は今まで通りの生活をしてもらうことになる。」

「今まで通り?」

「ああ、いつものように学校に行き、いつも通り友人と過ごしたり、たまには何処かへ遊びに行くのもいい。そんな当たり前の生活……ただし、当然奴らに狙われるリスクも高くなる。その度に君や俺達は奴らと戦うことになるだろうな。」

「戦うって……」

「ああ、下手すれば命を落とすかもしれないな。」


 命を落とすか……確かに昨日の銃といい本気で殺しにかかっていると言っても過言ではない。奴らの言っている事は大げさでもなんでもない。


「まあ、すぐに決めろとは言わない。時間をかけてゆっくりと考えて……」

「いや、もう決めた。」

「え?」

「戦うよ。俺」


 ……俺は自然とそう言葉が出た。自分でも不自然に思うぐらい自然と……


「おっ、意外だね、さっきまで状況を飲み込むのに精一杯だったみたいなのに」

「正直、今も飲み込めてねえよ。だけど、これだけははっきり分かる。もし、あいつに思いを伝えられずに逃げるようなことをしたら、きっと、後悔するって……」


 ……俺は三年前の姫野が遠くへ行ってしまったときからずっと後悔していた。なぜ、彼女のことを避けてしまったのだろうと……なぜ彼女がいなくなる可能性を考えなかったかを……俺は、ずっとそのことを後悔しながら生きていくもんだと思っていた。


 だけど、奇跡は起きた。彼女はまた、俺の目の前に現れてくれた。もちろん俺のためなんかではないのは分かってる。でも、それでも俺はうれしかったんだ……


 それなのに……ブラックマリンとかいう奴らは、ありもしない言いがかりをつけて俺から姫野を引き離そうとしている。そんなこと許せるはずがない……


「それに、そもそも、俺は無実なんだ。逃げまわる必要なんてこれっぽっちもねえんだ。こんな横暴あってたまるかっての!!」

「そうだ、そのいきだ。それでこそマリリンが認めた男だな!!」

「ああ!!……って、違う違う!!別におれと姫野は恋人って訳では無いというか……」

「ん?そうなのか?てっきり俺はそういう関係なのかと……」

「いや、別に嫌いとかそういうわけじゃないんだけど、でもほら!!その、タイミングがなかったというかその……」

「まあ、でもマリリンにとって君が大切な存在だってことは昨日のやりとりを見て分かっている。」

「み、見てたんですか!!俺達のやりとり!!」

「ああ、もちろん。いやあ、あれは仲睦まじい恋人そのものだったよ……」

「いやいや、もちろんって……なにさも当然のように盗み聞きしてるんだよ!?は、犯罪だぞ!!」

「すまない。念のために黒で流れてたうわさの真偽を確かめなくちゃいけなかったからな。」

「え、えええ……」


 俺の彼らに対する不信感が一気に高まった。


「おほん!!まあ、それはひとまずおいといてだ。君に一つ渡しておきたい物があるんだ。」

 

 そう言うと夜叉はなにか禍々しい物が封印されていそうなジュラルミンケースぐらいの大きさの箱を取り出した。


「開けてみてくれ。そこに君を守るための武器が入ってる」


 恐る恐る箱を開けてみる。開けた瞬間箱の中からすさましいオーラが溢れ出す。そして中から出てきた物それは、銃だった……だが、手に取ってみるとこの銃が少しおかしいことに気がつく。

軽い……銃を手にとったことがない俺ですらこの銃が異様に軽いことが分かる。そしてこの材質……これはプラスチックじゃないかぁ……。


「ふざけてるのか?」

「ん、何がだい?」

「何がだい?じゃねえよ!!これ鉄砲のおもちゃじゃねえか!!こんなんでどうやって自分の身を守れっていうんだよ!!」

「おもちゃ……か、まあ、初めて見た人にはそう見えるだろうな」

「は?それってどういう意味だよ?」


 俺が夜叉にそう聞き返した。その時だった。夜叉の顔つきが変わる。


「まずい!!伏せろ!!」


 反射的に俺は体を伏せる。……何か閃光のような物が頭の上を通り過ぎ、パン!!と音が鳴る。その瞬間背筋が凍り付く感覚を覚える。……何かが焦げ付いたような匂いがする。その匂いがする方を横目で見てみる。……カーペットが焦げ付いている。レーザー銃で撃たれたってことか……。


 振り返ってみるとそこにいたのは全長10cm前後の小さい機械。その動きや見た目はどことなく虫のクモに似ている。


「な、なんだよこいつ!!」


 俺は突然現れた未知の敵に動揺を隠しきれなかった……





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