第3話 クイーンとプリンスとパラディンと
エレベーターの扉が開くと目の前にあったのは、ロボットアニメに出てくるような近未来的なオペレーションルーム。いよいよ近未来バトルものみたいな感じになってきたな……
「ようこそ。私達『パラディン』の秘密基地へ。」
「……なにがパラディンだよ!何が秘密基地だよ!!何で俺がこんな場所にこなきゃいけねえんだよ!!」
「じゃあ、家に帰る?あいつらの仲間がまだいるかもしれないけど。そいつらに襲われてもいいんだったら、別にいいけど。」
「……わかったよ、で?俺は一体どこに向かわされるんだ?」
「私達の……『パラディン』のリーダーのところ。そこで、あなたの身に何が起きてるのかちゃんと説明するから。」
「ああ、本当に頼むぜ…さっきから意味分からないことばかりで本当にどうにかなりそう……」
この地下空間は俺の想像よりも遙かに広い。食堂や医療室さらに数人の人間が寝泊まりできる就寝室まで完備されている。俺と姫野が昔作ったようなちゃっちい秘密基地とは訳が違う。正真正銘、本物の秘密基地だ。
「ここよ。」
そう言って連れてこられたのはいかにもボスがいますよと言う雰囲気が漂う部屋の前。扉を開けるとそこにいたのは……これまたおれと大して年が変わらなさそうな少年。だが明らかにおれとは違うところがある。オーラだ、オーラが違う。
「連れてきたよ兄さん。」
「え、に、兄さん!?」
「君が切間怜王だな……俺は
「あんたらは一体何者なんだ?どうして俺をここにつれて来たんだ?」
「……それを説明するためにもまず君が何に狙われているかを説明するとしようか。君を狙っている奴らの正体。それは『マリン:ブラック』だ。」
「え?マリン:ブラックってあの姫野の非公式ファンクラブっていう……」
「ああ、規模はファンクラブの中でも非公式でもあるのにかかわらず世界トップレベル。会員の中には各界隈の著名人や裏社会の人間までいると噂されている、あのマリン:ブラックだ。俺達は奴らのことを『黒』と呼んでいる。」
……そういえばさっき俺のことを襲ってきた奴らのワッペン……そうか思い出した!!マリン:ブラック、もとい『黒』のサイトに載っていたあのマークと同じだ。いやにしたって何で……
「なんでその『黒』が俺なんかを襲おうとするんだよ……」
「姫野真理が明日からアイドルを一年間休業を経た後そのまま引退するっていうのは聞いているな。」
「ああ、聞いてるけど……」
「あいつらもその情報を結構前から仕入れていたんだけど……あろうことかその原因が君なんじゃないかって言う話になっているんだ。」
「は、俺が……なんで?」
「君はアイドルになった後も未練を断ち切れずしつこく姫野真理にいいよっていた。しかも彼女がそれを拒否しようとしたのに対し君は幼なじみという立場を利用して彼女の過去についてあることないことをいうと脅した……奴らの間で君はそういう扱いになっている」
…………は?
「いやいやいやなんでそんなことになってるんだよ!?だって、あいつがアイドルになってから今日まで一切会ってなかったんだぞ……」
「事実はそうなんだろうな……でも、あいつらは今、冷静になれなかった。姫野真理が引退するという事実を受け入れたくない、変えたい。その思いが段々とこのでたらめを膨れ上がらせたんだ。」
嘘だろ。そんな身も蓋もないことで俺はあんな目にあったのか。そんな……そんな馬鹿な話があってたまるかよ……
「だが、この時点では正確に誰のことかは分かっていなかったし、さすがに行動を起こそうとする物はいなかったんだ。でも今日、この写真が『黒』のサイトにあがってたんだ。」
そう言って彼がスマホを見せる。そこに写っていたのは、俺が今日裏山で姫野と一緒に写っている写真。……こんな写真が撮られてるなんて全く気がつかなかった……一体、一体誰がこんなことを!!
「まあ、そういう訳で君は多分これからも黒に狙われ続けられる。今回来たのはただの雑魚だが、今後は更にやばい奴が君を襲いに来るだろう。それこそ警察すら手が出せないような奴らがね……」
け、警察すら手出しできないってどんだけやべえ奴らが集まってるんだよ……
「だが、安心してほしい、黒から君を守るために……姫の王子を守るために俺達……
……何言ってるんだこの人。
「……つまりあんた達は俺のことをあいつらから守ってくれるって言いたいのか……あんたらは何でそこまでしてくれるんだ。」
「まあ、簡単に言ってしまえば俺もマリリン……姫野真理のファンなんだ。それこそ『黒』に入ってたぐらいにな。」
「え?」
「今は違うぞ。もう半年以上前に脱退してる。」
「脱退?」
「一年ぐらい前までは結構平和に楽しくやってたんだけどよ。だけど、色々あってな……『黒』は……S級クラスの危険集団になっちまったんだよ」
なんで、たかがアイドルのファンクラブがそんな物騒なことになってるんだよ……いや、もうそういう常識が通用するような話じゃねえよな……
「奴らの存在はマリリンにとっても純粋なファン達にとっても害だ。今までもマリリンがらみのことでいくつも事件を起こしている。しかも、奴らの中にいる権力者によってその事件をもみ消してる。警察に手が負えないのはそのためだ。」
……なんか無駄にスケールのでかい話になってきたな……無駄にだけど。
「俺達はそんな奴らの暴走を止めるため、裁くことの出来ない悪を罰するために結成した正義の騎士団……というわけだ。」
つまり、こいつらは過激派のファンクラブを取り締まるための自警団ってことか。……だめだ。話を聞いてもやっぱりついていけない。もう脳みそがこれ以上考えるなと信号を出している。疲労感もすごい。もう時刻はすでに深夜二時を回っている。さすがにもう眠りたい。
「どうやら、疲れているようだな。まあ無理もない。部屋を用意してあるから今日はそこで休むといい。」
「……ああ、そうさせてもらうよ」
「朝日、案内してやれ」
「分かったわ。」
俺はこの少女、神宮朝日に寝室に案内してもらった。案内してもらった部屋は個室になっていて広さもそれなりにある。もし当分ここに暮らすことになっても窮屈に思うことはないだろう……
俺はそのままベッドに寝転ぶと段々まぶたが重くなってくる。恐らく数分もあれば眠りに就いてしまうだろう。
……もしかしたら今日起きたことは全て夢なのかもしれない。突如その考えが脳裏をよぎる。マリン:ブラックもパラディンも姫野が……帰ってきたことも……。普通に考えればあり得ないことだ。きっと、目が覚めればいつもの平凡な生活に戻って……
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