『採掘場の猛る豚』前編

 アネットは変態(ハル)とのランチを重ねていく内に、段々と分かってきたことがある。

 セオは、ハルとアネットが仲良くすると、とてもいい反応を示すのだ。


 例えば……。ハルが花束をアネットにプレゼントし、アネットが喜ぶと、セオは信じられないといった表情でアネットをずっと見ている。


 他にもある。ハルの口の横についたスープをナプキンでアネットが拭いてあげると。


「それぐらい自分で拭けよ!」


 と怒るのだ。


 ハルといると、セオがたくさんアネットに話しかけてくれる。

 セオに無視されない。自分をかまってくれる。

 アネットはそれが嬉しくてたまらなかった。


 アネットは次第にハルと過ごす時間が長くなった。

 そして、ハルといると変に気を遣わなくても良いことにも気付く。


 ハルは仕事上は裏表のある人間のようだが、その歯に衣着せぬ物言いは、いつも正直で親しみを覚えた。



 アフリア家でのランチの時間。

 セオに会うことが楽しみなのか、それとも──。


「アネット。今度一緒に採掘場を見に行かないか?」

「採掘場?」


 ハルはランチの途中でアネットにそう申し出た。

 アネットはデートのお誘いだと思い、顔を赤くして俯いた。


 セオは押し黙るアネットに代わって、ハルに尋ねる。


「ハル。それってもしかして……シャルの父親がいるところか?」

「そうだ。何か、変な噂が流れてきてさ。気になっちゃって……」

「お、お父様に何かあったの?」

「まぁ、そんな感じだ。どうやらシャルの父親、まだ子豚のままらしいんだよな~」


 あれからもう二ヶ月以上が過ぎていた。

 しかし、呪いは解けていないようなのだ。


「何でだ……? あ、もしかして……」


 セオは首をかしげ、そしてあることに気付いた。

 アネットもハッとして口を開く。


「そうだわ。隣国は光の巫女の加護がない国なんだわ。だから、呪いが解けるのにも時間がかかるのよ」

「へぇ~。さすが俺のアネット、賢いなぁ~」

「べ、べつに。一般常識よ! ──そうだわ、わざわざ行くのは面倒だし、これで見てみましょう!」


 アネットはどこからともなく水晶を取り出した。

 そしてテーブルの真ん中に置くと、ブツブツと呪文を唱えた。


「すごぉい! 魔女みたい!」

 

 ルシアンが水晶を見て喜ぶと、アネットはクスッと微笑んだ。


「魔女みたいって。私はれっきとした魔女なんだけど?」


「お! 映ったぜ。いたいた~ナディアとババァと……豚。あれ? 子豚にしてはデカくないか?」


 水晶に写し出された場所は、広い洞窟の中だった。


 オレンジ色の淡い光の下には、人だかりが出来ている。

 その人だかりの中には作業服姿のナディアと義母。


 そして、その中心にいるのは丸々と肥えた立派な豚──シャルの父親、ブルーノの姿があった。






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