後日談 ハルとアネット

『豚伯爵の噂』前編

 アネットは週に一度、アフリア家のランチに招かれている。


 シャルを苦しめた男共への呪いの報酬として、シャルの手料理をお願いしたら、最低でも週に一度は来て欲しい、と逆にシャルからお願いされたのだ。


 シャルは、これを期にセオとアネットの関係がもっと良くなったら、と考えてくれている。


 もちろん、アネットもそうしたい。

 しかし、セオは意地を張ったままだった。


 シャルの計らいでランチはセオと向かいの席に座ったのだが、最初のランチで、セオは目も合わせてくれなかった。


 それは二度目のランチでも同じ。

 セオはシャルとは話しても、アネットの言葉には返してくれない。


 ちゃんと謝ったのに、まだ何か怒っているみたいなのだ。




 しかし、三度目のランチから変態が参加するようになった。


 しかも、そいつはアネットの隣に陣取っているし、始終話しかけてくる。

 アネットは変態のせいでセオとの会話が全く出来なくなってしまった。


「──アネット。なぁ、アネットってば!?」

「へっ? 呼び捨てにしないでよ。馴れ馴れしい……」

「今、聞いてなかっただろ? 豚伯爵の話!」

「興味ないわよ……」

「ひっでぇ! アネットがかけた呪いだろ?」


 落胆するハルに、シャルが助け船を出した。

 シャルはハルとアネットの会話を盛り上げようと、陰ながら必死だった。


「ハル、もしかしてアシルの話なの?」

「そうだぜ~。ルシアンも店で聞いたよな!?」

「うん……。ちょっと可哀想だよね」

「へぇ。どんな話だ?」


 セオが興味深そうにハルに視線を向けた。


 アネットはそれを見ると態度をひっくり返した。

 セオと同じ物に興味を持ちたかったのだ。


「私も聞きたいわ!」

「そうか? 実は、ソルボン家の二人はな……」


 ハルはニヤニヤと口元を緩め、語りだした。



 ◇◆◇◆



 ソルボン家の二人は、あの日の帰りにロドリーゴ商会に寄り、不吉な婚約指輪と結婚指輪を即行で売りに来たらしい。


 その時、悲劇が起こった。


 代金を受け取り一番街の大通りを歩いている時に……。


「二人揃って子豚になっちまったんだぜ~」


 机をバンバンと叩きながらハルはお腹を押さえて笑っている。


「ちょっと、スープが溢れるでしょ?」

「ああ。ごめんごめん。でもさ、何で子豚なんだ?」

「大きいと洋服を着たままになってしまうの。下手したら首がしまって死んでしまうかもしれないでしょ?」

「アネット。君は何て慈悲深いんだ」


 感動したついでにアネットの手を握るハルだが、すぐに払われてしまった。


「ハル。それで、あいつらはどうなったんだ?」

「えっ? ああ、それから──」



 まず、一番街の名料理店のシェフが店から駆り出されて、子豚二匹を追いかけた。

 どこから逃げ出した子豚か分からなかったため、食材の扱いに慣れていそうなシェフ達に声がかかったのだ。

 コックの姿を見ると、子豚達は勢い良く逃げ出し、一番街を物凄いスピードで駆けずり回った。


 それから子豚の話は一番街以外にも広まって、今度は二番街の精肉店の店主も参戦して、次に三番街の肉屋まで参戦。


 そして二匹の子豚は、最終的にとある路地に追い込まれたのだ。

 しかし、どこの店の豚でもないし、誰が捌くかで店主達は揉め始めた。


 そこに現れたのが──ハルだ。


 店の前に落ちていた服や所持品から、ハルは子豚騒動はソルボン伯爵だとすぐに察していた。ついでに、なんとなく自分も豚になった時の記憶を思いだし、肉屋の店主達から子豚を引き取ってやったのだ。


 皆の前で、ちゃんと子豚が何者なのか、演説をしてから──。


「俺は興奮した店主達に言ってやったんだ。この子豚はソルボン伯爵と、そのご子息だって。アシル様は大変勇敢で可哀想な方なんだ! ってな~」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る