最終話 家族
それから数ヶ月後。
シャルは爵位を引き継ぎアフリア家で暮らしている。
しかし、使用人を雇うことなどはしていない。ここに暮らしているのは、シャルと魔法使いの少年と最近七歳の誕生日を迎えた弟の三人だけだからである。
赤髪の魔法使いは今日も若々しく……むしろ若すぎる少年の姿をしている。
しかし目の下には子どもらしからぬ大きなクマが出来ていた。
「セオ。また徹夜したの? 無理してない?」
「ちょっと仕事が溜まってて……」
セオは眠そうに目を擦りながら朝食のパンを頬張った。
最近セオは忙しい。ヴィリアム王子と組んで、国外にも転移陣を設置することになったらしく、毎日城に呼ばれている。
そのせいでお店の商品を作る時間が確保できず、徹夜することもしばしばあるのだ。
「セオ兄様。僕からハルさんに伝えておくよ。納品を待って欲しいって」
「大丈夫だよ。ルシアン。ハルの店の分は出来てるから、持っていってくれるか?」
「うん。あ、僕もう行かなきゃ!」
ルシアンはパンを口に押し込むと、セオから巾着を受け取り赤いベルのついた扉へと急いだ。
この扉は王都のセオの店に繋がっている。
「いってきまーす」
「気を付けてね」
ルシアンはハルの店で働いている。
ハルは勝手に、義理の弟としてルシアンを客に紹介しているらしい。
店の掃除やセオからの商品の仕入れをルシアンは任せられている。
まだ七歳の小さな少年が働く姿は、一番街を訪れる淑女達のハートを射止め、ハルの店は益々繁盛しているらしい。
「セオ。目を瞑って?」
「うん……?」
「疲れてるみたいだから……。魔力を分けてあげるわ」
シャルは椅子にちょこんと腰かけるセオの額にキスをした。
セオは徐々に元の大きさに戻っていく。
しかし、その顔は少し不満そうである。
「おでこじゃなくて、こっちが良かった──」
「えっ……」
セオはシャルの顔を引き寄せ、唇を重ねた。
シャルはそっと瞳を閉じ、セオを受け入れる。
「朝からおアツいのぅ~」
にゃん子サマの声が耳元で聞こえ、シャルはセオから離れようとするが、離してもらえなかった。
その時赤い扉が勢い良く開いた。
「忘れ物しちゃった~。──あれ? セオ兄様。元に戻ってる」
「ああ。今シャルと──」
「そ、そんな事より、ルシアン。何を忘れたのかしら?」
「あ、そうそう。鞄持ってなかったんだ!」
ルシアンは鞄を取るとまた赤い扉へ手をかけた。
「あ、そうだ。セオ兄様、僕がいないからって、シャルお姉様とくっついちゃ駄目だからね!」
「…………いってらっしゃい。ルシアン」
目の下のクマも消え、にっこりと健康的な笑顔でセオはルシアンに言った。
ルシアンの忠告を無視する気満々である。
「うぅ。駄目だからね!」
ルシアンは頬を膨らませ怒ったまま仕事へと出かけていった。
「セオ。ルシアンに意地悪しないでね」
「してないよ。ルシアンがいる時は我慢してる」
「が、我慢って……。そ、そうだわ。今日はアネットさんとランチの日よ」
「また来るのか……」
「いいじゃない。家族なんだし」
「家族?」
「だ、だって、セオのお姉さんだもの」
「シャル……」
「シャル!? にゃん子サマは家族かのぅ~」
「もちろんよ」
二人の間に割って入ってきたにゃん子サマの頭を、シャルは優しく撫でた。
シャルは、やっと家族と呼べる存在が出来た。
血の繋がりはないけれど、みんな互いを思い合い、大切にしている。
そんな家族とこれからもずっと一緒に過ごせたらいいな、と思っている。
「家族が増えたら、もっと楽しいと思うのぅ~」
「にゃん子サマ!? 朝っぱらから変なこと言うなよ!?」
「家族が増えたら……そっか!」
「シャ、シャル?」
真っ赤な顔のセオの横を通りすぎて、シャルは赤い扉へと向かう。
「あれ?」
「私、アネットさんとハルってお似合いだと思うのよね。だから、今日のランチにハルを誘ってくるわ!」
「えっ、シャルっ──」
シャルはセオの言葉など聞かずに飛び出していった。
一人取り残されたセオは朝食の続きを口に運んだ。
「残念だったのぅ」
「うるさい」
二人の新しい生活は、まだまだ始まったばかりである。
おわり
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