第67話 婚約者……?
ヴィリアムは冷たい視線を皆に向け、小声で呟いた。
「人の価値を計れるほど、こいつらが価値のある存在には見えないな……」
まさかの王子の登場に皆が騒然とする中、ソルボン伯爵がヴィリアムに尋ねた。
「ヴィリアム王子様。何故このような場所にいらっしゃるのですか?」
「爵位の引き継ぎに関して疑惑があって訪ねた。アフリア家は女系の一族だ。よって、シャルが爵位を引き継がなければならない。そうだな? アフリア子爵」
「そ、それは……」
口ごもるシャルの父に、義母とナディアが詰め寄った。
「女系って、どういうこと!?」
「そうよ。貴方!?」
シャルの父は返答に困り、見かねてヴィリアムが事の次第を説明する。
「アフリア家は特殊な家系だ。現在のアフリア子爵は、シャルが成人するまでのただの繋ぎの爵位なのだよ。しかし、もしシャルに継がせる気がないのなら、剥奪することも可能なのだが──」
「いえいえ。シャルに爵位を継がせます。もちろんですよ。ですから、妹のナディアをソルボン家に嫁がせたかったのです」
「そうか。それを聞いて安心した。爵位を手放したくなくて、シャルを追い出したかったのかと思っていたよ」
必死で首を横に振るシャルの父にヴィリアムは冷たく言い放った。
「そんなに動揺しなくてもよい。しかしこれで問題はなくなったな」
「問題ですか?」
「ああ。シャルは子爵家に戻る気はないそうでな。家族という名の御主人様方に使用人のように扱われていたそうなのだ。しかし、シャルが爵位を引き継げば、そんな家族共はこの家に住めなくなるだろ?」
「な、何が言いたいのかしら!? 私達はシャルの家族で、使用人の様に扱ってなんて──」
「だまれ。誰に物を言っているのだ? 戯れ言は聞き飽きた。それにお前達のような自らの欲にまみれた薄汚い輩に、シャルの名を口にして欲しくはない」
ヴィリアムは義母の言葉を一蹴し、黙らせると、それを聞いていたアシルが胸を押さえながら涙を溜め、シャルに向かって叫んだ。
「シャル! 君はとても苦労をしてきたのだね。でも安心したまえ。僕が君を幸せにするよ。君のためなら僕が婿になってもいい。──さぁ。僕の元へおいで!!」
両手を広げてシャルに歩み寄るアシルに、シャルもヴィリアムも顔を引きつらせた。ヴィリアムは、空気の読めない男が大嫌いだ。
アシルが来る前に、ヴィリアムはシャルの肩に手を添えると、グッと抱き寄せた。
「それから、シャルは私の婚約者になる」
「ええっ!?」
驚くシャルをヴィリアムは見つめ、その頬に口づけをするフリをして耳元で囁いた。
『話を合わせてくれ……』
シャルは小さく頷くことしか出来なかった。
理想の顔面が近すぎて心臓が飛び出してしまいそうだったのだ。
アシルは両手を広げたままショックで硬直している。
「女性なのに爵位を持つシャルなら、私とも釣り合うだろう? そうは思わぬか?」
ヴィリアムにそう問われ、シャルの父はチャンスだと思った。
「は、はい。でしたらこの屋敷は私が──」
「そんな気遣いはいらない。シャルを虐げてきた者共など、この世界から消えてしまえばいいと思っているのだ」
「そ、そんな……」
「いずれこの屋敷は、二人の間に産まれた女児に引き継ぐつもりだ。お前達はさっさと出ていく支度をしろ。──それから、ソルボン伯爵。そう言うことなのだが、何か言いたいことはあるか?」
ヴィリアムに睨まれると、アシルもソルボン伯爵も押し黙ってしまった。
「セオドリック。君の店でもシャルは働かせられない。契約は書類通りに解約してくれ」
「ああ。契約不履行により、アフリア子爵に支払いの義務が生じた。違約金は一週間以内に払ってください」
セオの容赦ない言葉に、シャルの父も義母も真っ青になった。
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