第二章 魔法使いのお手伝いをすることにしました

第13話 雇って欲しい

「雇う? 何で?」


 セオは意味が分からず首をかしげた。


「だって、セオは金貨三千枚も払ったでしょう。大損害じゃない。だから……本当に私の事を雇ってくれないかしら? お給金はいらないわ。金貨三千枚分働くなんて、一生かかっても出来ないかもしれないけれど……」

「シャル。それ本気で言ってるのか?」

「もちろんよ!」


 セオは腕組みをして悩んだ。シャルをまじまじと見つめ、にゃん子サマと顔を見合わせる。


 あまり乗り気ではないようだ。


「うーん。雇うっていうか……食事の支度とか掃除とかしてもらえると、すごく助かるな」

「それなら得意よ。任せて!」


 普通の令嬢なら出来ないことだが、生憎シャルは普通の令嬢ではない。にゃん子サマも嬉しそうにシャルの足にすり寄ってきた。


「シャルがいれば、セオは飢え死にしないのじゃ~」

「でも、それだけじゃ金貨三千枚なんて返すことにはならないわよね。どうしよう……」


 貧乏子爵の稼ぎですら、返しきれる気がしない。

 困り果てるシャルに、セオは笑いかけて言う。


「金貨三千枚分ってさ、俺の一ヶ月の稼ぎに相当するんだ。だから、取り敢えず一ヶ月はよろしくな! その先は、俺へのお礼とか、そういうの全部抜きにして、自由に生きろよ」


 そう言ってシャルの肩にポンっと手を乗せて微笑むセオ。


 爽やかな笑顔が眩しい。

 婚約者をナディアに取られて良かったかもしれない。

 セオに会えたのだから……。


 セオに恩返ししよう。

 セオの一ヶ月分の稼ぎの……一ヶ月分の稼ぎ?


「……あ、ありがとうセオ。……でも。えっと……一ヶ月の稼ぎが金貨三千枚なの?」


 どうやったらそんなに稼げるのか。

 シャルには見当もつかない。


 もしかしたら、とんでもない魔法使いを拾ってしまったのかもしれない。


「ああ。ごめんな。子爵家のご令嬢にしたら少ないのかな?」

「いいえ。そんな大金見たことないわ。すごいのね、セオって……」

「そうなのか? お金のことはよく知らないんだ」


 涼しい顔でそう答えるセオ。

 本当にお金については無関心のようだ。


「気にすることないのじゃ。早く家に帰ろうぞ?」

「そうだな。家まではすぐなんだ。……これを使えばな!」


 セオドリックは数歩進むと立ち止まった。

 それは、街にひとつは設置されている転移陣の前だった。






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