第8話 シャルロットの涙
シャルロットは震える声を絞り出した。
「ナディア。貴女がそんな事を考えていたなんて知らなかったわ。ごめんね」
「謝って欲しいんじゃないわ。泣いて喚いて惨めな姿を晒しなさいよ!」
何も言わず、静かに首を横に振ったシャルロットを見て、ナディアは激昂した。
「そういうところが大っ嫌いなのよ! そうだ。いいことを教えてあげるわ。貴女のお母様の遺品、ドレスや指輪やネックレス沢山あったけれど、もうこの家には無いのよ?」
「え? どういうこと?」
「私のお母様は、流行りものに敏感なの。あんたの母親の古臭いドレスや指輪は肌に合わないのよ。全部、売ってしまったわ」
「そ、そんな……」
ナディアの話が本当ならば、シャルロットが所持する母の形見は、いつも身に付けているペンダントひとつだけになってしまった。他の物も、嫁ぎ先に持っていこうと思っていたのに。
シャルロットは胸を押さえ、廊下に崩れ落ちた。
「ふん。いい気味だわ。やっといい顔になったじゃない。貴族に生まれたってだけで、苦労も知らずに育って……。これからは私がその立場にいくの。伯爵夫人、いい響きだわ。こんな良縁を繋いでくれてありがとう。お義姉様……いいえ。シャルロット?」
ナディアは言い切ると満足そうに踵を返し廊下を歩きだした。しかし、すぐに立ち止まり振り返る。
「大切なことをいい忘れていたわ。魔法使い、追い出す前にお母様に会わせるのよ? 忘れないでね、シャルロット。フフフッ」
ナディアは足取り軽やかに去っていった。
シャルロットはその場で泣き崩れた。
「酷い……」
ナディアの本性を知り、シャルロットは悲しくて涙が止まらなかった。婚約者を奪われたことも、母の形見を失ったことも、ナディアの憎らしい笑顔と重なり、胸が苦しくて震えが止まらなかった。
廊下で涙するシャルロットの背中を見て、セオはにゃん子サマに尋ねた。
「女の人が泣いている時はどうしたらいいんだ?」
「優しく抱きしめて、背中を擦るのじゃ」
セオは言われた通りシャルロットを抱き寄せ背中を擦った。
シャルロットは肩を竦めて身を強張らせ、震えて泣き続けていた。
今度は心の中で、セオは尋ねた。
『にゃん子サマ。泣き止まない時はどうしたらいい?』
『俺がそばにいるぜ。泣きたいだけ泣けよ。ってキザっぽく言うのじゃ』
『え。それ真面目に言ってる?』
『真面目じゃ』
セオは少し考えた後、言われた通りシャルロットの耳元で囁いた。
「シャル。俺がそばにいるから、泣きたいだけ泣けよ」
「ぅ……ぅ……ぅわぁぁぁぁん……」
シャルはセオの胸で子供のように泣きじゃくった。
まさかこんなに盛大に泣き始めるとは思っていなかったセオは、驚いてにゃん子サマに目を向けた。
「それでいいのじゃ」
にゃん子サマはこくりと頷くと、二人の周りをひと歩きし、シャルの足元へ慰めるようにすり寄るのだった。
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