第7話 ナディアの本心
「ごちそうさま。あー。生き返ったぁ。──そうだ。お礼がしたいな。シャル、何かして欲しいことはあるか?」
「お礼はもう、にゃん子サマにいただいたわ。それに、とても美味しそうに食べてくれたから、それで十分よ」
そして、こんなイケメンを拝めただけでも幸せです。
と心の中で呟いた。
「セオ。シャルの義理の母親がな、セオから巻き上げられるだけ金を巻き上げろと申していたぞ?」
「にゃん子サマ。それは……」
「へぇ~。随分といい性格したお義母様だな」
「そうね。本当に……」
シャルが視線を落とすと、セオはシャルの顔を覗き込んできた。
「大丈夫か?」
「ええ。平気よ。私はこの家から出て行くって決めたのだから」
シャルは立ち上がり、食器を片付けた。
すると、厨房の扉に人影がみえた。
妹のナディアがひょっこりと顔を出していた。
「まぁ。本当に人なんか拾ってきたのね。さすが、お義姉様だわ。……あの……ちょっといいかしら?」
「ナディア……」
◇◇
厨房前の廊下に出ると、ナディアはシャルロットに頭を下げた。
「お義姉様。ごめんなさい。私……婚約の事、何も知らなかったの……」
ナディアはポロポロと涙を流してシャルロットに謝罪した。
この子はいつも義母の言いなりなだけで、根は悪い子ではないのだ。決していい子だと思ったこともないが、謝られることは初めてだった。
「いいのよ。ナディアが謝ることではないわ」
「本当に……許してくれるの?」
「ええ。私の事は気にしないで」
シャルロットは笑顔でナディアを励ました。
しかし、ナディアはシャルロットの笑顔を見ると、急に表情をなくした。そして眉間に深くシワを刻み、舌打ちした。
「あーぁ。やっとあんたの泣き顔でも見られると思ったのに。本当に馬鹿みたいにお人好しなのね」
「えっ……?」
ナディアの可愛らしい唇から、想像もしなかった言葉が飛び出した。義母とそっくりの人を見下した笑顔で、ナディアは更に言葉を続けた。
「ねぇ。状況、分かってる? あんたの婚約者、取られちゃったんだよ? これからも、今までと変わらずに、ずぅーっとこの家で奴隷みたいに働かされるんだよ?」
「な、ナディア?」
「私のこと。お義父様みたいに何も考えられないお嬢様だと思ってたでしょ? そんな事ないのよ。私は三年前、この家に来た時から、ずっと今日という日を楽しみにしていたの。お人好しのお義姉様の婚約者を奪って、私が伯爵夫人になる日をね!」
ナディアはただ、義母の言いなりになっているだけだと思っていた。
しかし違った。
義母と同じ、もしくはそれ以上の策略家だったのだ。
シャルロットは頭では分かっていても、ナディアの本性をすぐに受け入れることは出来なかった。
「う、嘘よ……」
「嘘じゃないわよ。あんたが邪魔しないように、今日まで良い娘を演じてきたんだから。可愛い妹が幸せになれるなら、お義姉様は喜んで婚約者を譲ってくれるでしょう?」
「どうして……。今、そんな事を打ち明けたの? 可愛い義妹のままだったら、私……」
「フフフッ。可愛い義妹のままだったら、祝福してくれた? 私、そういうの嬉しくないのよね。それよりもさ。あんたの泣いて悔しがる顔が見たかったの。ねぇ。辛い? 悔しい?」
ナディアの意地の悪い笑顔を前に、シャルロットは奥歯をグッと噛み締めた。
こんな子の前で泣いちゃ駄目だ。
溢れ出しそうな涙をシャルロットはじっと堪えた。
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