VOL.4

 新幹線”のぞみ”で2時間、俺はその都市まちに着いた。

 ここには前にも何度か来たことがあるが、そのたびに外観が変わっている。

 JRの中央駅は、以前はもっとあか抜けない雑然としたところだったのだが、

今では立派なタワー型のホテル、それにデパートと、複合施設の中に組み込まれて、おしゃれな佇まいになっていた。


 駅前からタクシーに乗り、まず俺は彼が勤めている筈のテレビ局に向かった。


 その都市(N市)には、地方局だが2局ほどある。

 割と大きな局だ。

  正面玄関前には制服姿の警備員が立っていたので、俺は認可証ライセンスとバッジを提示し、訪問の理由を告げる。

 しばらく待つように言われ、受付近くのソファに座っていると、ワイシャツにネクタイ姿の、胸にパスカードを下げた中年男がやってきた。

『本倉良一君をお訪ねとのことですが・・・・あ、私は本倉君の上司だった杉田と申します・・・・』彼俺の顔を見ながら名刺を出し、

『折角やって来て下さって申し訳ないのですが、本倉君はもう三年前に退職しまして・・・・』と、頭を下げて答えた。

『病気ですか?』俺の問いに、

『はい、そうです』と、意外とあっさり答えを返した。

『仕方なかったんですよ。何しろ感染症ですからね。幾ら性的接触でなければうつることはないとはいっても、外聞の問題もありますし』

『で、彼は今どこに?』俺は杉田氏の顔をまっすぐ見つめて聞いた。

『彼はこちらの出身ですから、実家に帰ったと聞いています。』


 何でも彼の家はこのまちではかなり有名な医療機器メーカーの経営者だという。


 住所を教えてくれと重ねていうと、初めのうちは”個人情報がどうの”と渋っていたものの、俺が”絶対に迷惑はかけない”と約束すると、ようやく教えてくれた。


 家の場所はすぐに分かった。

 市内でも高級住宅地として知られるS区の一角だった。

 電話をかけてみる。

 こっちもあまり歓迎はされていないようだったが、それでも母親だと名乗る人物が”分かりました。どうぞいらしてください”という答えを返してくれた。


 すぐにタクシーを拾い、家まで駆け付ける。


 本倉家は、高級住宅が立ち並ぶその一角にあっても、とりわけ大きかった。

 

 俺が呼び鈴を押すと、さっき電話に出た、母親と称する、六十代後半と見える痩せた婦人が姿を現した。


『私立探偵の乾宗十郎と申します。本倉良一君にお会いしたいのですが』


『どうぞ・・・・』彼女は細い声でそう言い、俺を家に上げてくれた。


 広い座敷を幾つも通り、一番奥の、十二畳ほどの座敷に通された。

 仏間だった。


 絢爛豪華な仏壇のすぐ隣に、真新しい位牌と、そして遺影が置いてあり、まだ年若いスーツ姿の青年がこっちを向いて笑っていた。


『良一です』

 母親の声が小さく、そしてかすれた声で告げる。

『病気・・・・ですか?』

『いえ、自殺です・・・・』彼女の声がまた小さくなり、その声に涙が混じった。

『昨年のことです。自室で睡眠薬を大量に服用しまして・・・・』

 ハンカチを握りしめ、全身を震わせた。


『あの子は罪障意識が人一倍強い子でして・・・・自分の愛する女性ひとに病気をうつしてしまったのが自分だったというのを、ひどく気に病んでいましたから・・・・・』

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