あれから三年
宇宙船から脱出できたのは十一人で、浦島夫妻とエラン人が九人でした。ECO管理施設で地球順応教育を受けていたのですが、悲劇が襲います。三十五年前の宇宙船騒動の時のエラン人もそうだったのですが、地球の病原菌に弱いところがあるのです。
エランでは感染症管理が極度に進み、殆どの感染症の撲滅に成功しているのです。そんなエランに較べたら、地球は感染症の巣窟みたいなところでしょうか。地球にあるだけのワクチン接種を行い、考えるだけの予防措置も施しましたが、一人また一人と亡くなって行ったのです。
仲間を見送るディスカルの悲痛な顔を見るのが辛すぎました。そして三年のうちにディスカルを残し、すべて亡くなってしまったのです。ディスカルが生き残れたのは、前回に地球に来た時に施された地球の病原菌対策のためです。最後の仲間を見送った後のディスカルは悄然としながら、
「ついに一人か・・・」
ユッキー社長の表情も曇りがちでした。総理を脅し上げてまで地球人にする計画が殆ど実を結ばなかったからです。本来の予定でもエラン人は病死になる予定でした、これは表向きで、その時点で某国の難民に偽装させ、日本人にしてしまおうです。さすがにエラン人の風貌で日本人は無理でしたから。ところが本当に病死してしまい
「思い通りにならないものね」
仲間を失い一人になったディスカルを収容施設に置いておくのは拙いとユッキー社長は判断され、ディスカルだけは計画の病死にする予定です。そうやって日本人にはなれるのですが、どこに匿うかが問題でした。
「とりあえず三十階に引き取ろう」
孤独のディスカルを勇気づけ励ませるのは、エラン人がいないとなると、エレギオンの女神が適切なのは間違いありません。その意見には異論はなかったのですが
「でもここは男子禁制では」
「そんなこと、誰が決めたのよ。男子大歓迎に決まってるじゃない。ミツルだって、マルコだって来たことあるし」
これはまた古いお話を。それでも三十階に男が住むのは初めての事になります。そうしたらユッキー社長とコトリ副社長はイソイソと、
「男が住むのなら・・・」
「ユッキー、とりあえず買ってきた」
「必需品よね」
どうしてコンドームを真っ先に買い込んで来るのよ。
「あれっ、使わないの。そっか、子作りか、それともピル」
そりゃ、欲しいけど。やっぱり、ちゃんと式挙げて籍入れてから・・・まだ、早いでしょ。ミサキだってディスカルが地球に戻って来てからまだなんです。シノブ専務まで、
「ネグリジェ買って来た」
「シノブ専務はパジャマ派だったんじゃ」
「そりゃ、負けてられないし。ほらこっちの下着も見て見て」
誰に負けてられないのですか。それにTバックまで買い込んで。寝室は四つですから部屋割りが問題になったのですが、
「そうね。ディスカルの部屋は固定として、女は部屋を変わらないと」
「コトリ先輩、スケジュール表がいるんじゃないですか」
「そやな。でも、それやったら四日に一回しか出来へんやんか」
「そっか、それは困りますね。二人ずつってのは、どうですか」
「それやったら、バトルロワイヤルしたらどうやろ」
なにがスケジュール表とか、二人一緒とか、バトルロワイヤルですか。
「親しき仲にも礼儀ありだよ。風紀はちゃんとしないと女神のプライドに関わるわ」
だ か ら、イボイボ付のコンドームを手にしながら言っても説得力ないでしょうが。
「こっちの趣味はあるんかな」
「ありません」
ロープを持ちだすな!
「まだ知らんだけかもしれへんで」
「そうね、地球の性文化も教えなくちゃ」
ローソク持ってムチを振るのはやめて下さい。そんなもの教える必要はありません。まったく、誰の男だと思ってるのですか。そしたら三人は口々に、
「まだ籍入ってないし」
「フリーでしょ」
「チャンスはまだありますものね」
「そやそや」
何が『そやそや』ですか。何があっても渡すものですか。
「せっかく地球に馴染んでもらうのだから、ミサキちゃんだけでなく、他も味見してから選ぶべきだと思うよ」
「そうやで」
「そうですよね」
シノブ専務も尻馬に乗るな、
「それならミサキが一緒に寝ます!」
そしたら三人が口をそろえて、
「反対」
それに加えてシノブ専務が、
「嫁入り前の娘が男と一つのベッドで寝るなんて、みだらですよ」
スケスケのネグリジェにTバック買い込んでるシノブ専務に『みだら』は言われたないわ。当番表とか、3Pはみだらやないんか。バトルロワイヤルって乱交やんか。女神がやれば乱交なんて生やさしいものじゃなくて、集団レイプみたいなものじゃない。そしたらユッキー社長が、
「ミサキちゃんが一緒に寝るとお肌に良くないの」
「どういう意味ですか」
「ここの寝室だけど、完全防音じゃないのよ」
「そうやで、残りの三人が寝不足になって、次の日の仕事にも応えるんや」
「耳栓じゃ追いつかないし」
そんなに激しくありません。
「いや激しいよ。ベッドだって普通のベッドだから持たないだろうし」
「そんなことで壊れません」
「あの凄い声で仮眠室も壊れるかもしれないし」
「そんな声は出してません」
「そりゃ、一階の保安室までは聞こえへんやろけど」
ここは三十階です。上や下の階にも響きません。とにかく猛烈な不安感に襲われますが、ここが今のディスカルにとって一番・・・良いのかなぁ。なにか腹を空かせた猛獣の檻に小ウサギを放り込むような不安が。
「いろいろ楽しみだけど、とりあえずディスカルを説得してね」
なにが楽しみなものですか。ただディスカルは相当ためらってました、
「そんな女性ばかりのところに・・・」
「そうなのよね、ディスカルが襲われないか心配で、心配で」
「地球ではそうなのか」
「ちがいます。あそこが特殊すぎるのです」
ああ、ディスカルに貞操帯を履かせたい。それも鋼鉄製の頑丈なやつ。カギじゃ、アイツら開けかねないから、エランのロック技術を応用して・・・それでもコトリ副社長なら開けかねないか。シノブ専務なら調査部の総力を傾けても探り出しそうだし。
なんとかディスカルを説得し、病死計画にも納得してもらいました。三十階に戻って報告したのですが、
「それが今のディスカルに取って最良の選択だよ」
「一人のままはエエことあらへん。ディスカルに生きる目的を与えんとな」
「ミサキちゃん、私も協力を惜しまないよ」
ああ、説得力がない。なによ三人ともスケスケ・ネグリジェにTバックって、いったい何考えてるのよ。ここは売春宿じゃないんだから、
「ミサキちゃんも似合ってるよ」
負けてなるものですか。ディスカルはミサキの男です。
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