第3話 その時兄は  side クリストフ

「私はソフィーを正妃にするぞ」



 ある日私が側近として仕えるこの国の第二王子ガブリエル様がそんなアホな事を言い出した。

 何を考えているんだ、目の前に貴方の婚約者の兄が居るのを解っているのか!?



「クリストフには悪いがシャルロットの様な真面目だけが取り柄の四角四面な女は好かん。ソフィーならば素直で明るくてずっと一緒に居たいと思えるのだ」



「ガブリエル様、それはお考え直し下さい! 妹を蔑ろにすればどの様な事になるか考えただけでも恐ろしい事になります!!」



「まぁ…、公爵も父上も怒るだろうな。しかし先手を打って公表してしまえば後戻りは出来なくなるだろう、幸い近々我らの卒業パーティーもある事だし…。シャルロットのエスコートは任せたぞ、クリストフ」



 確かにソフィーは明るく可愛らしいし甘え上手だ、現に側近の皆もメロメロと言って良い程籠絡されている。

 かく言う私も好意を持っているが私がガブリエル様なら決してそんな愚かな選択はしないだろう。



 真面目なだけが取り柄?

 幼い頃からされてきた仕打ちを忘れたというのか、いや、ガブリエル様の事だから裏に気付いていないのだろう。

 何というか…、王族にしてはアホ…単じゅ…間抜…素直な性質でいらっしゃるからな。



 忘れもしない、最初に妹が恐ろしいと感じた4歳のあの日。

 当時妹は3歳という幼さにもかかわらず妹の可愛さに素直になれずブスと口にしたガブリエル様に対し、ウチの庭の散策中にデコボコした石畳の上を通り掛かった時に体当たりしたのだ。



 周りの従者が慌てて助け起こそうとした時に妹は言った。



「わたくしはだいじょうぶですわ、ガブリエルさまがかばってくださったのでむきずです。ありがとうございます、ガブリエルさま」



 そう言って可愛らしくニッコリと笑ったのだ。

 周りは流石ガブリエル様、そのお歳にして既に紳士ですねなどと褒め称えた。

 痛くて泣きそうだったが普段褒められる事が少ない為、称賛の声に虚勢を張ってしまい妹を怒る事もしなかった。



 しかし私は見たのだ、従者達からは私が壁になって見えない事を確認してからガブリエル様の死角から体当たりして下敷きにした瞬間を。

 そして怒るタイミングを逃してしまったガブリエル様を見てニヤリとわらったその横顔を。



 ガブリエル様が無神経故に妹を不快にさせる度に同じ様な報復を受けているのだ、本人は周りから褒められるせいで怒る事を忘れているが、結構酷い目に遭っている。

 そのせいで妹が側に居るとガブリエル様がしっかりすると勘違いした両陛下が婚約をと言い出したのだが…。



 2人の婚約が決まった事を父上が家族に報告した時、母上と乳母の顔が引きつったのを見てしまった。

 父上は妹が大人しくて可愛い娘だと思っているが、それは妹の本性を知っている母上と乳母の淑女教育の賜物だ。



 しかし身体がこれまでの仕打ちを覚えている為かガブリエル様は中々小賢しい工作をしてソフィーの事がバレない様に頑張っている様だ。

 それにしてもソフィーを正妃にしたいだなんてとんでもない事を言い出したので頭が痛い。



 他の側近である友人達も賛成している様だが、お前達は本当にそれで良いと思っているのか?

 だってソフィーは…。



 そして卒業パーティー当日、エスコートする為に妹の元を訪れた。

 そしてガブリエル様の計画を全て暴露した、ちゃんと私は何度も説得したが聞く耳を持たなかったとしっかりアピールして。



 そして私の話を聞いた妹はあの幼い日の様にそれはそれはとても愉しそうに嗤ったのだ。

 その時私は心に決めた、今日は壁と一体化していようと。

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