第2話 言ってしまいましたね

「ガブリエル様、そのお言葉が出る意味を分かってらっしゃいますか?」



「は? 何を言っている、お前が生意気だからだろう!」



「理由も正当性も無く黙れという事は『反論できないから地位や権力を笠に着て黙らせるしか出来ない』と公言しているという事ですよ?」



「な…っ」



 お顔を真っ赤に染めて口をパクパクさせてますが、反論する言葉が見つからないというところでしょうか。

 正直ソフィー嬢はどうでも良いですが貴族の義務とはいえここまで残念な方に嫁ぐのはご勘弁願いたいですわ。



「第一にガブリエル様も後ろめたいからコソコソと行動していらしたでしょう? 間違った事をしている自覚はおありだからでは?」



「何もコソコソなんてしていない!」



「ならば…、何故わたくしの予定を事細かに聞き出したのですか?」



 わたくしの言葉にピクリと反応したのは宰相の息子、どうやらこの方が指示した事のようですね。



「これまではわたくしの行動など気にもしていらっしゃらなかったのに…、そちらのご令嬢と一緒に居る時に鉢合わせしない様に居場所の確認をしたかったのでしょう?」



 わたくしの言葉で傍観者だったご令嬢の数人がキッとエスコートしている男性を睨んだ様です、きっと同じ様に予定を根掘り葉掘り聞かれたのでしょう。



「それにこちらがご予定をお聞きした時に『予定がある』としかおっしゃらなくなりましたわ、今までは『会議がある』や『誰と会う』と理由をおっしゃってましたのに」



 また数人の息を呑む音が聞こえました、殿方の行動パターンはよく似ているのでしょうか。

 これで多少王子も自分がやましい行動をしていたと自覚していただけた事でしょう。

 ですが最初につけられた言いがかりの件を放置する理由にはなりませんね、全く反省していない様ですし。



「ところで…、先程おっしゃった婚約者のいる殿方に近付く事を注意した件ですが…。わたくしはガブリエル様に近付くなとは一言も申し上げておりませんよ?」



「「は?」」



 王子とソフィー嬢が揃って間抜け…いえ、驚いた顔をして声を揃えられました。

 この国の王族は一夫多妻なのです、故に愛だの恋だのより婚姻は貴族としての義務という思いが強いのですし。

 むしろ何故わたくしが邪魔をすると思われたのでしょう。



「ガブリエル様がそちらのご令嬢を娶りたいのならば正妃となるわたくしが王子を産んだ後に娶ればよろしいかと。共にガブリエル様を支える者を虐げる必要はございません」



「ならんっ、ソフィーを正妃とするのだ!」



「まぁ、それはあまりにもそちらのご令嬢が可哀想ですわ」



 王子達が揃って怪訝なお顔をしていますが本当にわからないのでしょうか、少し考えればわかる事ですのに。



「まずそちらのご令嬢のお名前を順位発表で見た事がありません、その様な成績の方が今から王族となる為の知識、しかも正妃に求められる知識と教養を覚えて頂くのにどれ程の時間がかかるか…。常に5番位内を保っていたわたくしですら婚約してから7年掛かって何とか覚えたのですよ?」



 あらあら、ソフィー嬢のお顔が引きつっておりましてよ、王子。

 学院の順位の貼り出しは120人中30位以内、大抵同じ方の名前ですので在学中の3年間で1度もお名前を見た事は無かったはずですわ。

 王子は幼い頃から一流の家庭教師がついていて15歳になった今年まで掛かって少しずつ覚えているですのに。



「何を言う! ソフィーは私の為に頑張ってくれると約束したのだ!」



 あ、側近の皆様が床に視線を落としましたわ、きっとソフィー嬢の成績をご存知なのね。

 そろそろよろしいでしょうか、今後この様な愚かな事をしでかさない為にも女性不信になるくらいに絶望して頂こうかしら。



 いけません、思わず笑みが溢れてしまいました、普段は淑女の微笑みをお顔の筋肉を使ってキープしてますのに。

 さぁ、この先の言葉を聞いてもソフィー嬢と結婚するとおっしゃるでしょうか、それならむしろ見上げた根性だと褒めて差し上げますわ。

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