第7話

「おきろ」


 その言葉ひとつで、すぐに全身に力が戻った。跳び退って、状態を確認する。山さん。手を掴まれている。


「あ、ああ。もういい。もう終わった」


 違う。山さん。手を掴まれてるんじゃなくて、掴みに行ってる。そして、掴まれた側がなぜかしあわせそうにしている。


「どうなってんだ」


「自己紹介と行こうか。俺たちはころしやだ」


「わたしも殺し屋です。私が物理担当で、精神担当はこいつ」


「依頼があってな。依頼者をころしてきたところだ」


「ころした?」


「ああ。こいつ依頼者と対象者を天秤に掛けるんですよ。で、どっちか気に入らないほうをころすんですけど、今回は依頼者がしんだってわけです」


「ちなみに二人とも依頼は別」


「あ、俺への依頼者への詮索は無しでおねがいします。俺のほうは秘密保持がモットーなんで」


「俺には聞いてもらって構わん。依頼者もうしんだし」


「ありがとう。こちらの依頼のことも喋るべきかな」


「さしあたって、何をしに来たのかだけ教えてくれればこちらは充分だ」


「ええと、ここの病院におじいちゃんがいまして。そのおじいちゃんに毒を盛った相手を倒すために、話を聞きに」


「あ、そういうことか」


「じゃあ全部おっけいですね」


「は?」


 さっきから、会話の意味がわからない。


「モール会社の役員。さっき俺がころしてきた相手だ。そいつが、土地絡みで爺に毒を盛ってる。通販で爺がモール会社から買った野菜に毒を入れやがった」


「そういうことか」


「で、もうしんだが。どうする?」


「商店街のほうは、どう、なる?」


「商店街。知らんね。俺の依頼にはない」


「俺の依頼にもないですね。なんか大物いました?」


「いや、まったく」


「そっか。じゃ、依頼を奪っちゃった感じになってごめんね。とりあえず、ここは手打ちということで。仲直りを」


「ふざけるな」


「あれ?」


「殴られた俺の気が収まらないぞ」


 ローリスクローリターン過ぎる。


「あ、彼、ハイリスクローリターンが好きらしくて」


「あ、そういうことでしたか」


「俺がやる。どうやらこいつ、俺の声に耐性がまったくないらしい」


「九乃重さん」


「山、でいいですよ」


「山さん。次は何を書かれるんですか。どこを登るんですか?」


「あ、今度は小さい山なので、一緒に行きますか?」


「ほれ。殴りかかってこい。遊んでやる。まずは声無しで、次は声ありだ。お前の鍛えかたでは足らんというのを教えてやる」

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