第4話

 駅前の商店街。


 昼なので、そこそこ賑わっていた。


「どこから見ようかな」


「え?」


「あ、ごめん。嫁から夜ごはん頼まれててさ。昨日この国に帰ってきてたんだ。今は時差ぼけで寝てる」


「結婚してたんすね。奥さんの好みとかは」


「好みは特にないけど、とりあえず他の国で食えてなかったご飯とみそ汁、あとは、焼き魚かなあ」


「じゃ、魚なら俺が選びますよ。山の大将は野菜を」


「助かるね」


「運だけはあるんですよ」


 魚のよしあしの具体的なところとかは、知らない。ただ単に、生き物の活きの良さとか、そういうのだけが分かる。


「これだな」


 謎の深海魚。目が飛び出ている。こいつがいちばん、美味そう。


「兄ちゃん、良い筋肉してるね」


 魚屋の店主。


「お、触ってみるかい?」


「いいかね」


 店主が腕に触れる。

 このおじさんは特にひとごろしとかではないな。気の良いだけの雑魚だ。


「そういえば、郊外の土地にどでかいスーパーができるんだって。ここの商売上がったりじゃねぇのか?」


「そう。そうなんだよ。聞いてくれよ。大手のモール会社が出張ってきて、なんか強引に土地を買い叩いたらしい。権利者は襲われて病院にいるんだと」


「ひでえ話だな」


「ほんとだよ。歴史ある商店街を、なめくさってやがる」


 たいした情報は得られなさそうだった。すぐに、魚屋を離れる。隣の八百屋も、もうひとつとなりの魚屋も、似たようなものだった。大根と、そしてやはり、深海魚。


「おっ」


「どうだった。いったん車に戻ろう」


 車に戻って、大根と深海魚を渡した。山さんが、それを眺める。


「おお。いい魚だ。知ってて買ったのか?」


「え、いやなにも。美味そうだなと思って」


「代替魚って言ってな。回転寿司のネタ偽装とかに使われる魚だ。そしてこれはたぶん、今日の市場で上から数えて何番目ってぐらいのいい魚だ。ありがとう」


「いえいえ」


「大根は普通だな。単純にでかいやつ選んだだろ」


「ええ。筋肉と同じ」


「そうか。まあ、辛くなさそうだからこれはこれでいいよ。ありがとう」


「え、買い物しに来ただけすか?」


「いや。目を見ればだいたい分かる。長屋の2階。上から商店街を見ているやつ。あそこだ」


「ええと」


 いた。2階から商店街を見ている、初老の女性。


「あれがわるいやつだ」


「へえ」


 全然、分からない。


「ただ、店長の言うおじいさんを襲った側なのかは、わからない」


「いっちょ、とっちめますか?」


「わるいやつなんだけど、残念なぐらい小物だ。締め上げる時間すらもむだなレベル」


「へえ」


 そこまでわかるのか。まるでレーダーだな。


「あれに時間使うより、モール会社のほう行って、それっぽいほうを探そう。あれが本丸じゃローリスクハイリターンすぎる」


「あ、もしかして」


「ハイリスクローリターンが好きなんだろ?」


「好きっす」


「行こうか」


 車のエンジンがかかる。やさしいスタート。

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