学園のアイドル猫カフェ

「猫カフェに行こう」


 学校が終わり、海斗はそう言って愛奈を連れて駅前に来ていた。

 これから二人で猫カフェデートを楽しむためだ。

 本当はドッグカフェが良かったが、近場なかったのと、ジョンのことを思い出して泣きそうだから止めた。

 猫も凄い可愛いので、犬好きの海斗にも楽しめるだろう。


「ここだな」


 スマホで検索した猫カフェを見つけ、海斗と愛奈は中に入っていく。

 アルコール消毒を済ませた後、店内にいる時間を伝えると、店員によって猫たちがいる所まで案内される。

 中には何人か客がおり、可愛らしい猫たちとの戯れを楽しんでいるようだ。


「猫可愛いよ」


 目をキラキラと輝かせている愛奈は、早速猫に近づく。

 猫でも愛奈の魅力はわかるようで、「にゃー」と鳴きながら彼女に寄ってくる。

 とても甘え上手な猫は、愛奈の足に身体を擦りつけていく。

 猫の甘え方は愛奈がしているのと同じように思え、海斗は少しだけ微笑む。


「飲み物何にする?」


 この猫カフェはワンドリンクオーダー制なので、飲み物を注文しなければならない。

 テーブルの上に置いてあるメニューを取り、海斗は愛奈に見せる。

 ドリンク代と基本料金がかかるが、猫と戯れることが出来るのだから安いものだろう。


「ウーロン茶で」

「俺も」


 海斗は店員と話すと威嚇してしまうため、愛奈が二人分の注文をしてくれる。

 数分で飲み物が届き、猫と本格的に触れ合う前に海斗はウーロン茶を一口飲む。


「何故愛奈ばっかに近づいて俺には来ないんだろうか?」


 数匹の猫は床に座っている愛奈に甘えまくっているが、海斗には一匹も寄ってこない。

 犬派といえど、少しだけショックを受ける。

 追いかけ回したり無理矢理抱き上げたりは出来ないため、先ほどから海斗は猫に触れていない。

 せっかく来たのだから触りたいが、近くにいる猫は全て愛奈に取られてしまった。


「海斗くんにも寄ってくるよ。手を猫に差し出してみて」


 見本を見せるかのように、愛奈は猫の目の前に手を出す。

 すると猫は身体を愛奈に預けており、完全に心を開いている。


「俺もやる」


 愛奈と同じように猫に手をやってみるも、猫はプイっとそっぽを向いて離れてしまった。

 ジョンには凄く好かれていたのに何でだろうか?

 ふと愛奈の方へ視線をやると、「あはは……」と苦笑いしていた。

 人に馴れているはずの猫が近づかないなんて思ってもいなかったのだろう。


「猫……」


 あまりにも近づいてくれないために泣きそうだ。

 海斗は犬には好かれるが、猫には嫌われるタイプなのだろう。

 猫が大好きというわけではない……でも、ここまであからさまに嫌われたら流石にショックだ。


「猫さん、海斗くんにも近づいてよ。可哀想だよ」


 最愛の彼氏である海斗の悲しんでる姿を見て、愛奈が猫たちに話しかける。

 だけど一匹も海斗に近寄ろうとしない。

 他の客には猫から近寄ってくるのに、海斗だけはボッチである。

 少し前と同じで、どうやら愛奈と夏希、犬以外の生物には好かれないらしい。


「海斗くんの魅力わからないのはダメだよ。私のことを身体を張って守ってくれたんだから」


 何故か過去のことを話し始める。

 あまり話そうとしないから珍しいが、愛奈は猫たちに海斗の魅力を知ってほしいのだろう。

 大声禁止されているから小さい声で真面目に話している。


「海斗くんはカッコいいし、私をいっぱい抱き締めてくれるから幸せなの。猫さんも海斗くんに抱き締めてもらえば良さがわかるよ」


 ただ、話していることは完全にノロけだ。

 うっとりとした表情で、ひたすら海斗の良さを語っている。


「愛奈、ちょっとハズい」


 猫にノロけている愛奈を見て、少しだけだが恥ずかしいと思う。

 友達にノロけている人はいるが、猫に対しては中々いないかもしれない。

 いや、ペットに好きな人の話をする人は間違いなくいる。

 だけど猫カフェでは滅多にいないだろう。

 周りに他の人がいるのだから。


「だって猫が海斗くんに見ぬ気もしないから……」


 どうやら海斗に近づかない猫が愛奈は気に入らないらしい。

 猫と戯れることを海斗が望んだから何とかしてあげたかったのだろう。

 いっぱい触れ合ってもらいたい……そんなことを考えていそうだ。


「大丈夫だから。愛奈は猫と楽しんでおいで」

「でも、私は海斗くんと一緒に楽しみたいよ」


 何をしてても愛奈にとって海斗が第一なのだろう。

 海斗が楽しめないのであれば、自分も楽しまない。そう思っているように感じられる。

 でも、せっかく猫カフェ来たのだし、愛奈には楽しんでもらいたいというのが本音だ。

 第一に想ってくれているのは嬉しいことだが、お金を払うことになるのだからその分は猫と触れ合ってほしい。

 高校生のお小遣いは有限なのだから。

 同棲するということで、天野家から生活費やデート代として使ってほしいとお金が振り込まれたが、今のところ使っていない。

 生活費などは両親からの援助で賄えるし、愛奈のお金がピンチになったら使用させてもらう。


「じゃあこうしよう」


 猫と触れ合えなくて暇なので、海斗は愛奈の太ももに頭を乗せた。

 膝枕していれば自分のとこにも来てくれるんじゃないかと考えたからだ。


「おいで」


 優しい声で呼んで手招きするが、海斗が来たから猫たちは愛奈からも離れていった。


「何でこんなに猫に好かれないんだ?」


 猫の嫌いな匂いでも発しているのだろうか?

 でも、そうであれば海斗に抱きつかれまくっている愛奈にも近づいてこなはずだ。

 愛奈にはたっぷりと海斗の匂のいがついているのだから。


「帰ろうか」

「そうだね……」


 まだ時間は残っているが、猫が寄ってこないから店から出ることにした。

 あまりにも可哀想だと思ったのか、店員は申し訳なさそうな顔をしたのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る