二日目の朝

「姉ちゃん、起きろー」


 旅館に泊まった次の日の朝、海斗は姉の夏希の肩を揺らして起こす。

 まだ眠気がとれないようで、夏希は「うーん……」と反応が薄くて起きる気配がない。

 昨日飲み過ぎた影響だろう。

 起きて二日酔いになってなければいいのだが。

 夏希以外の人はもう起きて着替えも済ませている。


「起きたら青井澪とキス出来るぞ」

「おはよう」


 一瞬で起きた。

 ブラコンだというのを告白してもなお、夏希は女の子が大好きなようだ。

 今いる面子とキス出来るのであれば、夏希はすぐに起きるだろう。


「もうすぐご飯だから早く着替えろ」

「澪ちゃんとキスは?」


 夏希は辺りを見回すが、澪の姿はない。


「澪ちゃんなら凄い勢いで部屋から出ていったよ」


 どうしても澪は夏希とキスしたくないようだ。

 愛奈が「あはは……」と苦笑いして答えてくれた。


「澪ちゃんとのキス……」


 キス出来ないのはわかりきっているが、夏希は本気で落ち込んでいる。

 レズ……いや、夏希はバイなのだろう。


「酒は残ってない?」

「残ってないけど、嘘をついて謝る気は?」

「ない」

「酷い……」


 起こすためにはキス出来ると言うしかなかったので仕方ない。

 夏希が着替えるということで、海斗たちは部屋から出ていく。


「原田くんは私に対して厳しくない?」


 部屋の前には澪がおり、少し震えていた。

 何かトラウマでもあったのだろうか?


「そうか? ガルル」

「そういうとこだよ。威嚇はするし夏希さんを私に押し付けるし」


 威嚇は反射的にしてしまうのでしょうがないし、愛奈を夏希の餌食にするわけにはいかない。

 自動的に澪を夏希の生け贄にしてしまうのだ。


「澪ちゃんってお姉さんに何かされたの?」


 愛奈が直球の質問をした。

 確かに澪の夏希に対する反応は少しおかしい。

 過去に何かあったと思うのが普通だろう。

 旅行に来るくらいだから本気で嫌っているわけではないというのはわかる。

 いくら豪華箱根旅行であっても、本気で嫌っている相手と行きたくはない。


「何かあったというか……前に二人でカラオケに行ったらやたら抱きついてくるし、あちこち触ってくるし……私はノーマルだから女の子同士はノーサンキューなの」


 夏希に犯されたということはないようだ。

 会う度に抱きつかれたりしていては鬱陶しいと思うだろう。


「ドンマイ。フシュー」

「蛇の威嚇? 何かテニスアニメで見たことあるよ」


 威嚇されまくっているからか、澪は呆れたように「はあー……」とため息をつく。

 会話の度に威嚇されているのだし仕方ないだろう。

 海斗は威嚇するものだと割り切ってもらえればいいのだが、人間に威嚇されることに慣れてる人などいない。


「愛奈は俺に触られるのはどう思う?」

「嬉しすぎて毎日触ってほしいよ」

「そうか」


 愛奈の肩手を置き、自身に引き寄せる。


「朝からイチャつくバカップル……」

「やん、澪ちゃんってば褒めないで」

「褒めてないんだけど……」


 今の台詞のどこに褒めてる要素があったの? という視線を向けられる。

 最早誰もが認めるほどのバカップルと思われているだろう。

 一度イチャつくと離れようとしないのだから。

 イチャイチャする二人を見て、再びため息をつく澪であった。

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