学園のアイドルは可愛い

「ん、んちゅ……」


 静まった部屋にキスの音だけがする。

 海斗と愛奈が唇を重ねているから出ている音だ。

 先ほどから愛奈がくっついてきてキスを止めてくれない。

 澪と夏希は既に寝ているので部屋は暗くしている。


「海斗くん、んん……」


 もうかれこれ三十分くらいはキスをしているだろうか?

 一向に止める気配はなく、愛奈の唇の熱くて柔らかい感触がずっと自分の唇越しに伝わってくる。

 このままでは唇が痛くなってしまうかもしれない。

 でも、愛奈にとって痛くなったとしてもしていたい理由があるのだろう。

 察しはついているが黙っておく。


「何で海斗くんは実の姉に愛されてるの?」


 明らかに愛奈は嫉妬している。

 いつもより酔った夏希は海斗のことが好きだと告白し、他の男に一切興味がないとまで言った。

 女の子大好きなのは変わらなかったが、彼女からしたら気が気でないだろう。

 自分が一番だという想いでキスが止まらないのだ。

 海斗もまさか姉から告白されるなんて思ってもいなかった。


「ビックリだな。あのままでは姉ちゃん一生独身だな」


 愛奈と共に貰ってと言ってきたが、姉弟では結婚することは出来ない。

 だから夏希は独身のまま生涯を終えることになる。

 美人なんだから彼氏を作ろうと思えば作れるだろうが、出来ないのは海斗が好きだからのようだ。


「姉弟でエッチなことは私が認めないからね」

「する気はないが」


 姉に愛されるのはラノベでたまにある設定だが、特に愛されたいと思っていない。

 実の姉弟で愛し合うなんて現実ではほとんどないだろう。


「海斗くんはラブコメアニメの主人公なの?」

「いや……」


 違うだろと言いかけたが、最近の海斗は明らかにラブコメ主人公だ。

 学校一の美少女、学園のアイドルと言われている愛奈と美人の姉に愛され、今は自分以外は全員女性と旅行までしている。

 他の男子が聞いたら羨ましいと思われること間違いないだろう。


「ずっと私が海斗くんの側にいるから。だから私だけを見て?」


 藍色の瞳うっすらと涙がたまっている。

 彼女からしたら、彼氏には自分だけを見てほしいと思うのは当たり前のことだ。

 愛奈にはその想いが人一倍強く、ずっと海斗といたくて仕方ないといったような顔になっている。


「姉ちゃんは家族だから大切ではあるけど、恋愛対象ではない。大丈夫だから」

「本当に? 私とこんなにイチャイチャしてるのに襲ってこないのはお姉さんが好きだからってことはない?」

「ないよ」


 付き合い始めてそんなに時間はたっていないし、普通はイチャイチャで終わるものだろう。

 ただ、愛奈は海斗に抱かれたいという想いが強いようだ。

 沢山海斗を求めているみたいに愛奈はキスをしてくる。

 腕を背中に回して一切離れようとしないし、これから先もいっぱいイチャつくことになるだろう。

 思春期男子からしたら美少女とイチャイチャするのは嫌な気はしなく、その内海斗は愛奈を抱くことになるかもしれない。

 でも、抱くのであればもっと好きになってからのがいいと思っている。


「本当に大丈夫だからね」

「うん」


 優しく頭を撫でてあげると、愛奈は嬉しそうに目を閉じた。

 沢山撫でてほしそうな……小動物が甘えるような顔しており、まだ抱いてあげられないからいっぱい撫でてあげる。


「ラノベとかでもあるけど、女の子って頭を撫でられるの好きだな」

「アニメのことは良くわからないけど、私は好きだよ。なんか安心するの」


 「そうか」と頷き、再び頭を撫でてあげる。

 口にはしないが、嫉妬した愛奈は可愛いと思ってしまった。

 いくら可愛いと思っても嫉妬させるわけにはいかないので、今後は気を付けなければならない。

 あんまり嫉妬させすぎるのは良くないし、愛奈が嫌な気持ちになるからだ。


「いや~、ラブラブだねお二人さんは」


 いつの間にか起きていた澪がニヤニヤしながらこちらを見ている。


「そう見える? えへへ、嬉しいな」


 見られても離れない愛奈は、逆に見てほしいかのように力を入れて抱きつく。

 柔らかい感触が海斗を襲うが、これ以上イチャつくわけにはいかない。


「ノロケ……リア充爆発しろって言えばいいの?」

「爆発しろ、ガルル」

「イチャつきながらでも原田くんは威嚇はするんだね。私はリア充じゃないから爆発しないから」


 自分で言って「あはは……」と澪は苦笑い。


「明日も観光するんだから早く寝た方がいいんじゃない?」

「もう少し海斗くんとイチャついてから」

「見せつけ? 彼氏がいない私へ見せつけてるの?」

「違うよ。海斗くんが好きすぎて離れられないだけ」

「天然だった。もう好きにイチャついてなよ。私は寝るから」


 「ふわ~……」と欠伸をした澪は再び夢の中に入っていったようだ。


「海斗くん、愛してるよ」


 これからしばらく愛奈によってキスの嵐が始まるのだった。

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