旅館

「おお、アニメと同じだ」


 旅館に着き、夏希がチェックインしている間に海斗は辺りを見回している。

 厳密には違う所はあるが、アニメに出てくる旅館と内装がそっくりだ。

 少しばかり感動を覚えてしまい、思わず涙を流しそうになる。

 内装はかなり綺麗で、部屋も期待出来そうだ。


「海斗くん、旅館に来たがっていたもんね」

「そうだな」


 イチャつきながら夫婦会話をする海斗と愛奈。


「二人って学校の授業中以外はずっとくっついてるの?」


 呆れた様子で澪が二人を見ている。

 ここまで離れないカップルは珍しいだろう。


「ん? トイレの時は流石に離れるよ。二十四時間くっついてるカップルなんていないよ」

「それは当たり前のことだと思うな。トイレも一緒のカップルを見たらドン引き……」


 一緒にトイレにいるカップルを想像したらしく、澪が悪寒を感じたように身体震わせた。


「チェックイン終わったから行くわよ」


 受付でチェックインを済ませた済ませた夏希が皆のとこ来る。

 鍵を二つ持っているので、二部屋取ったのだろう。

 男女で旅行なのだし当たり前のことだ。


「部屋割りは私と愛奈ちゃん、海斗と澪ちゃんでいいかしら?」

「ダメ決まってるだろ。俺が姉ちゃんを監視しないとダメか?」


 旅館で虐めなどないし、必ずしも愛奈とつっくいている必要はない。

 それに夏希を愛奈と澪のどちらかと一緒の部屋にさせてしまうと、何か危ないことが起きてしまう可能性がある。

 だったら姉弟一緒の部屋になった方がいいかもしれない。

 本当だったら付き合っている海斗と愛奈、友達同士の夏希と澪の組み合わせがいいのだが。

 でも夏希が、弟の彼女である愛奈と一緒の部屋になろうとしたあたり、相当彼女のことを気に入っているのだろう。

 気に入りすぎて本人にドン引きされているが。


「海斗の鬼。姉弟で一緒の部屋なんてつまらないでしょ? それに海斗は愛奈ちゃんと沢山イチャイチャしたんだから私にもさせなさい」

「ダメに決まってるだろ。愛奈は俺の彼女なんだから」


 実際に愛奈は夏希とイチャイチャすることを望んでないだろうし、一番は海斗と……次に澪と一緒の部屋がいいと思っているだろう。

 夏希と一緒の部屋では何をされるかわかったものではない。

 何度も抱きつかれそうになっているのだし、一緒の部屋になりたくないと思うのは仕方ないことだ。

 愛する海斗に愛奈は俺のものって言われたからか、彼女は「えへへ」と嬉しそうに笑みを浮かべている。


「うう~……じゃあせめて澪ちゃんと同じ部屋で」

「え? 嫌です……」


 澪は夏希から距離を取ばかりか、愛奈の後ろに隠れてしまう。

 まるで天敵から身を隠しているかのようだ。


「何で姉ちゃんに誘われてついてきたんだか……」

「だって宿泊費出してくれるって言うから」


 確かにタダ同然で箱根旅行を楽しめるのだし、二人きりでないとわかっていたら行くだろう。

 でも、夏希と一緒の部屋だけは勘弁願いたいようだ。

 過去に抱きつかれたりしたのだろう。


「姉ちゃんは俺と同じ部屋。寝るまで皆と話せばいいだろ」

「寝る時に二人きりがいいのよ」

「はい。姉ちゃんは俺と同じ部屋に決定」


 夏希から鍵を奪い取り、愛奈に渡す。

 一緒の部屋に二人きりにさせなければ何か起きることはないだろう。

 「鬼ー、鬼畜ー」など言っている夏希腕を掴み、海斗は泊まる部屋に向かった。


☆ ☆ ☆


「海斗の着替えなんて見てもつまらないわ」


 旅館の部屋に入った夏希は、未だに愚痴を言っている。


「姉ちゃんに見せないから安心しろ」

「愛奈ちゃんには見せたいと?」

「見せる気はない」


 男の着替えシーンなんて需要はないだろう。

 いや、愛奈は「海斗くん着替えなら見たい」と言いそうだ。

 実際に家では同じ部屋で着替えているし、その度に凄い見られている。

 海斗も愛奈の着替えを見るので、見るなと言うことが出来ない。


「姉ちゃんがボケるから愛奈に姉弟漫才なんて言われるんだぞ」


 以前言われた時は驚いてしまった。


「ボケてないわ。本気で愛奈ちゃんとイチャイチャしたいもの」


 もう夏希の歪んだ性格は修正不可能なようだ。

 昔から女の子大好きだったし、これからも変わらないだろう。


「その内捕まるんじゃないか?」

「心配ご無用。そんなヘマはしないわ」


 ヘマしたから高校時代に着替えを一人だけ別の部屋にされたのでは? とツッコミたくなったが、言ってしまうと姉弟漫才になってしまう。

 だから白い目で夏希を見ることにした。

 本当に信じていいのか? という視線を送り、夏希にプレッシャーを与えていく。


「あう……視姦されるのは慣れてないわ」

「視姦してねーよ」


 本当に慣れていないのか、夏希の頬が赤くなる。

 近くで見れることになれていないだけで、遠目からは慣れているだろう。

 どんなに変態でも見た目は美少女だし、見ている男は非常に多い。

 今回の箱根旅行は愛奈の容姿が目立ち過ぎたため、夏希を見ている人は少なかったが。


「ちょっと旅館の散策してくる。愛奈たちもつれてくから俺がいない間狙っても無駄だぞ」

「鬼ー」


 せっかくアニメに出てくる旅館に泊まるのだし、色々見ておきたい。

 海斗は今にも泣きそうな夏希を置いて部屋から出ていった。

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