昔の友達
海斗が最も苦手としている授業は体育である。
いや、一番苦手に最近なったと言った方が正しいだろ。
何故なら男女別で行われるために、愛奈が近くにいないからだ。
数学とか英語など普通の授業もくっついているわけではないが、皆座っているから落ち着ける。
でも、体育はグラウンドや体育館を走り回ったりするので、どうしても周りを気にしてしまう。
これから行われるサッカーで先生の目を盗み、嫉妬にかられた男子が何かしてくるんじゃじゃいか……頭の中はそんな考えでいっぱいだ。
女子は体育館で授業のため、目の見える範囲に愛奈いない。
「海斗、大丈夫?」
一人の少女──いや、少年が心配そう声をかけてくれる。
高めの声、中性的な顔立ちから女の子に見えてしまう風貌だが、今は体育の授業中なので男子だ。
男性にしては長めの黒髪でさらに女の子っぽい容姿に見える。
もちろん男子用の体操服を着ているため、ラノベなんかでたまにある実は女の子でしたというオチもないだろう。
「……誰?」
クラスメイトの名前なんていちいち覚えていない。
「忘れたの? 小学校も同じだったよね?」
「ガルル……」
「何で僕は威嚇されてるの?」
小学生時代はトラウマだったため、同じ小学校と聞いただけで威嚇の対象なってしまう。
記憶がないのは愛奈のことだけなので彼の名前は思い出したが、だからっていきなり話せるようになるわけじゃない。
女の子のような見た目の彼──
だけど海斗が虐められるようになってから自然と距離が遠くなってしまった。
自分の身を守るためだし、海斗に近寄らなくなるのはしょうがない。
小学校が一緒だったってことは、愛奈が何で海斗のことを好きか知っている可能性がある。
だからって何かあるわけでもないし、渚は海斗のことを虐めていたわけでもない。
海斗がただ威嚇しているだけである。
「……助けなかったことを恨んでる?」
渚が聞いてきても答えることが出来ない。
もちろん渚が悪くないのはわかっているし、昔のように仲良く出来たら良いと思うの当たり前のことだろう。
「天野さんと付き合いだしたからもう大丈夫だと思ったんだけど、まだ難しいみたいだね」
残念そうな顔している渚に対し、一応ボソッと小声で「ありがとう……」と口にする。
小さくても聞こえたようで、渚は満面の笑みで「うん」と答えた。
その笑顔は女子より可愛く、産まれてきた性別を間違えたんじゃないかと思うほどである。
渚の性別が女なら、愛奈や澪と共にクラスの三大美少女と言われていただろう。
☆ ☆ ☆
「海斗くん、ご飯を食べよう」
昼休みになると、愛奈が直ぐ様やってきた。
学園のアイドルと一緒にお弁当を食べれることを羨ましがっているクラスメイトが未だに嫉妬の視線を向けてくる。
何かされるということはないが、やっぱり嫉妬されているようだ。
「あの……僕もいいかな?」
「私も一緒に食べたい」
渚と澪もお弁当を持ってやってきた。
クラスの美少女? を海斗が独占しているため、男子からの嫉妬の視線が鋭くなる。
美少女と間違うほどの風貌の渚に、男子の制服は似合っていない。
女子の制服を着れば、渚を男と思う人はいないだろ。
「ガルル……」
二人が来たことで、海斗は反射で威嚇してしまう。
「何で威嚇されるんだろ……」
「うん。原田くんは少し人に慣れないといけない気がするよ……」
渚と澪は同時に「はあ~……」とため息をつく。
昔のトラウマせいでどうしても威嚇してしまい、特に澪に対して威嚇が凄い。
澪に対して威嚇が強いと感じるのは勘違いの可能性だってある。
隣にいる渚は過去に仲良くしていたため若干威嚇が弱く、そのせいで澪には強くしているように感じているだけかもしれない。
「海斗くん、私がいるから。ずっとくっついているから心配ないよ」
「うん……」
愛奈に言われて少し落ち着きを取り戻す。
それでも多少は威嚇しており、海斗は愛奈から離れない。
「シャアァァ……」
「猫の威嚇? 猛獣から猫にグレードダウンしたとはいえ、もう少し仲良くしほしいよ」
人から威嚇されるなんて経験するものでもないためか、澪は少しショックを受けているようだ。
誰が見ても美少女と言える容姿の澪に威嚇するのは海斗くらいなものだろう。
「海斗の人嫌いは相当だね。昔はこんなんじゃなかったのに」
「そうなの?」
「うん。海斗は誰に対しても優しかったよ。小学校の時は海斗を好きな女子がいたんじゃないかな」
渚の言う通り、昔の海斗は優しくて友達も多かった。
だけど虐めが原因で性格が変わってしまい、今では人と関わりを持とうとしない。
昔は仲が良かった渚に対しても威嚇してしまうのだし、海斗の人嫌いは一夕一朝では直らないだろう。
本人も直したいと思っていないというのが一番の原因だが。
「今は天野さんにベタ惚れみたいだけど」
「そうだねえ。学校では休み時間の度にイチャついてるし、近寄るなオーラが凄いよね」
二人して「どうしたものかな……」と呟いている。
「海斗くん、私特製の愛妻弁当食べて」
「うん」
ため息をついている二人とは裏腹に、海斗と愛奈はお弁当を食べるのだった。
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