旅行の約束と甘噛み

「聖地巡礼」

「いきなりどうしたの?」


 買い物を終えた後、海斗がそう言うと、突然だったからか愛奈が驚いたような顔になった。


「アニメでは日本を舞台にした作品があるだろ?」

「うん」

「そこに行くことを聖地巡礼と言うんだ」


 ラノベなどにハマった時にはボッチだったので、今まで聖地巡礼をしたことない。

 だけど好きなラノベがアニメ化されたということもあり、少し行ってみたい気持ちがあるのだ。


「ということで、土日を使って行こう」

「行こうってお金とかどうするの? それに私たちは未成年だから泊まらせてくれないんじゃ……」


 愛奈の意見は最もだ。

 高校生だけでは旅館やホテル宿泊は断られるだろうし、泊まりではお金がかかる。

 バイトしていないので、泊まりで出かけるのはかなりの痛手だ。

 今からバイトを始めたとしても、バイト代が入るのは早くても来月になるだろう。

 そもそもボッチの海斗にバイトなんて出来はしない。


「足と財布役ならいるじゃないか」


 そう言ってスマホを取り出し、海斗はある人に電話をかける。


『もしもし? どうしたの?』

「姉ちゃん、聖地巡礼に行きたい」


 電話をかけた相手は姉の夏希で、上手く丸め込んでお金を出してもらおうという算段だ。

 それに夏希には保護者役になってもらう必要があるため、どうしても来てもらわないといけない。


『聖地巡礼? どこに?』

「箱根」


 箱根なら夏希が車を出してくれれば二時間もかからず行けるし、土日を使えば満喫出来る。

 アニメ化されたラノベの舞台が箱根で、夏希も観ているなら行きたいと思っているだろう。

 社会人ならある程度お金があるだろうし、財布役にはもってこいだ。


『ええ~、お金はどうするの?』

「お財布に期待しているぞ」

『私が出すの?』


 不満そうな声を出しているが、魔法の言葉を使って夏希を行く気にさせる。


「俺が行くってことは、もちろん愛奈も行くぞ」

『行く。聖地巡礼行く。お金は全て私が出すから』


 美少女大好きな夏希には、美少女で釣るのが一番だ。

 これで次の土日は箱根に行くことが決定した。

 ゴールデンウィークは過ぎているし、今からでも宿の予約は出来るだろう。

 箱根は日本有数の温泉街なので、最近視線を向けられてたまったストレスを発散させることも出来る。


「宿の予約はどうする?」

『全て私がやっとくから』


 変態なところはあるが、基本的にはしっかりした人だし任せておけば大丈夫だろう。


『あ、私の友達も連れて行ってもいい?』

「友達?」

『うん。可愛い女の子なんだけど』


 正直、来てほしくないが、お金を出してもらう以上はあまり断りたくない。

 それに女の子なら愛奈に手を出すということもないだろうし、海斗は渋々了承した。

 あまり愛奈とイチャイチャ出来ないのがわかっているようで、夏希はその女の子と一緒に箱根を満喫するようだ。

 それでもお金全て出してまで行くって言ったのは、愛奈とお泊まり出来るからだろう。

 イチャイチャは出来なくても、一緒に話したりは可能なのだから。


「次の土日は箱根な」


 電話を切り、愛奈に話しかける。


「うん。なんか友達って聞こえたけど?」

「姉ちゃんの友達連れて来るって。可愛い女の子って言ってたから姉ちゃんから構われることは少ないと思う」

「可愛い、女の子?」


 何故か愛奈の瞳から光が失わていく。


「海斗くん……その女の子目移りしないよね?」


 少しでも女の影が出来そうなものなら、愛奈は嫉妬してしまうようだ。

 だけどボッチなのに女の影なんて出来るわけがない。


「俺が他の人に向ける態度知っているだろ」

「そうだけど……」


 嫉妬は理屈ではないようで、愛奈は「むう……」と頬を膨らます。

 海斗が他の女の子になびかないのは、澪の一件でわかりきっているはずだ。

 ガルル……と威嚇するような声を出したし、それは他の人が来ても一緒のこと。

 だから愛奈が嫉妬する必要は一切ない。

 それに一度了承してしまったのだし、今さら友達は無理なんて言うことは不可能だ。


「大丈夫だから」

「うん」


 優しく頭を撫でてあげると、愛奈の瞳(に)光が戻っていく。


「一応、目移りしないって証拠を見せておこうか」

「え? きゃ……」


 リビングのソファーに押し倒し、愛奈の上に覆い被さる。

 これで何をされようと、愛奈は逃れることが出来ない。

 逃げようとすることはないだろうが。


「あむ……」

「ひゃ……」


 愛奈の首筋に軽く噛みつき、ほんの少しだけ柔肌に牙を食い込ませる。

 甘噛みというやつで、噛みつかれると愛奈の口からは甘い吐息漏れ出す。

 しばらく甘噛みを味わった後、海斗は唇をしっかりと肌にくっつけて息を思い切り吸う。

 三十秒以上吸い付いてから離れると、愛奈の首筋には赤い痕が出来た。


「キスマークつけてあげた」

「あ……嬉しいよ」


 若干涙ぐんだ瞳で見つめてくる。

 キスマークは愛情表現の一種なので、愛奈からしたら嬉しさしかないだろう。


「消えないように毎日つけるから」

「うん」


 この日の愛奈は嬉しさからか、ずっとニヤけていたのだった。

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