お礼

「勉強するか」

「うん」


 テスト初日を終え、海斗は自室で愛奈と一緒に勉強をする。

 勉強をすると言っても基本は復習で確認するだけだ。

 海斗は学校の授業で理解出来ているし、愛奈は学年一桁の秀才で今さら長時間勉強をする必要はない。

 テスト問題自体習ったとこしか出ないのだから。

 ある程度の点数さえ取ってしまえば問題はなく、学校で多少イチャついても先生からは何も言ってこないだろ。

 今回のテストは愛奈とイチャイチャするために少しだけ頑張る。


「明日の科目は数学と科学と現代文か……」


 間違いないようにテスト科目を確認し、教科書やノートをテーブルの上に出して開く。

 昨日は何故か途中で寝てしまったが、今日は眠ってしまわないようにしなければならない。

 基本的にまったりのんびり勉強していき、もしわからなとこがあれば愛奈に聞けば良いだろう。

 たまに一夜漬けで勉強する人がいるが、あれは夜に眠気と戦わないといけないから絶対に効率が悪い。

 それだったら眠い時には寝て朝早くに起きて勉強した方が良いし、そもそも一夜漬けなんてしてもすぐに忘れてしまう。

 海斗は一夜漬けも朝早くに起きて勉強したいなんて絶対思わないが。


「そういえば何で俺は引きこもりにならなかったんだろうな……」


 勉強している途中にふと思ったことを口にした。

 虐められてボッチになる道を選んだ海斗であるが、学校には絶対に行っていたのだ。

 小学校の時に仲良くしていた友達は海斗が虐められると自分の身を守るために誰も近づこうとしなかった。

 目をつけられて虐めの対象となってはたまったものではないし、海斗に近づかないのは賢明な判断である。

 学校では誰も海斗の味方をする人はいなかったが、それでも引きこもることなんてなかった。

 休日は家でゲームばっかりするようになったが。


「海斗くんの根は強いんだよ。そうでなければ私を助けたりしないよ」


 愛奈が手を重ねて優しく話しかけてくる。

 手の甲は温かい感触に包まれ、まるで愛奈の気持ちが自分の身体全体を優しく覆いこんでくれるかのように思えた。


「そうなのか?」

「うん。少なくとも海斗くんのおかげて私は救われた。海斗くんがいなければ私がどうなっていたかわからないもん」


 虐められるのは辛いもので、あのまま助けなかったら愛奈は引きこもりになっていたかもしれない。

 もしかしたら精神がおかしくなっていた可能性だってあるし、愛奈にとっては本当に海斗は王子様だろう。


「私を助けてくれて本当にありがとう。昔は私が海斗くんに助けられたし、次は私が海斗くんを助ける番だよ」


 綺麗な瞳から涙を流し、愛奈は感謝の言葉を口にした。


「私が一生をかけて海斗くんを幸せにするから。いっぱいいっぱい私を頼って良いよ」

「一生?」

「うん。私の全ては海斗くんのもの。身も心もこれからの時間も全て海斗くんに捧げるよ。だから海斗くんは私に何をしても良いの」


 本当に全てを捧げてくれるかのように真剣な顔で、愛奈は海斗の言うことを絶対に聞くだろう。

 深い愛情は時に性格を歪ませてしまうが、どうやら愛奈は良い方向に歪んでいったようだ。

 自分の欲求を満たすためでなく、海斗のために生きようとしている。

 容姿のせいで虐められなくなるくらいに学校で絶対的地位を獲得し、愛奈は海斗に近づく機会を伺っていたはずだ。

 そこで海斗が体調を悪そうにしているとこに声をかけ、今や彼女になるまでに至った。

 計算高い女とも捉えることは出来るが、全ては虐められなくなるためと海斗と付き合うためだったようだ。


「ずっとずっと海斗くんのことを愛してるよ」

「愛奈……」


 この想いが本物だと伝えるためか、愛奈は海斗の胸に顔をうずめる。

 もう絶対に離れられないくらいに愛奈の愛は深く、これから先何があってもそれは変わるこちはないだろう。


「ありがとう。でも、今は勉強しないと」

「そうだね」


 少し照れてしまった海斗であるが、愛奈から離れず勉強をするのだった、

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