ヤンデレの片鱗

「さて、読むか」


 ラノベを買って家に帰った海斗は、早速読み始める。

 もちろん愛奈も隣にいるため、くっつきながら読むことに。

 左手にラノベを持ち、右手は愛奈の頭に置いて軽く撫でてあげる。

 何をしててもきちんと相手をしてくれることが嬉しいのか、愛奈は「えへへ」と先ほどから笑みが止まらないらしい。


「どんなラノベなの?」


 興味本意なのか、愛奈は本を覗き見る。


「妹がヒロインのラブコメだな」


 海斗は姉である夏希が変態なため、ラブコメだと妹物を読むことが多い。

 他にも幼馴染みや学園のアイドルと言われるヒロインのラブコメも読むが、今日買ったのは妹がメインヒロインのラノベだ。


「妹? それって大丈夫なの?」

「妹物のラノベは比較的人気が出やすい。それに大体が義理だから問題はない」


 何故かラブコメ作品には義理の妹……しかもブラコンのキャラが出ることが多い。

 姉も出たりするが、圧倒的に人気なのは妹だろう。

 妹だと名前でなくて「お兄ちゃん」と呼ぶから感情移入がしやすいのかもしれない。

 基本的に最近流行っている異世界ファンタジーのラノベを読むことが多いのだが、今回のはメインヒロインの妹が桃花の髪だったから購入した。

 ピンクの髪のキャラを好きになる傾向がある海斗にとってはどうしても気になってしまうのだ。

 お小遣いの範囲でやりくりしないといけないので全て買うことが出来るわけではないが、今日のは全巻が面白かったし、特典で妹キャラのタペストリーがついてくるので購入するしかなかった。


「そうなんだ。出てくる女の子可愛いね」

「出てくる女の子が不細工だったら誰も買わないだろ」


 ラノベは表紙を見て選ぶ人もいるので魅力的でなければならない。

 もし、ヒロインがとても不細工であれば、買う人なんてほとんどいないだろう。


「そうだね。でも、私のことも見てほしいな?」

「愛奈?」


 いつもとは違い、若干の違和感を感じる。

 少しだけ目から光が失われているような……そんな感じだ。


「私は海斗くんの彼女なんだよ? 見ていてほしいもん。それに二次元だとこうやって海斗くんの欲求を満たしてあげることは出来ないよ?」


 そう言って愛奈は海斗に抱きつく。

 華奢な体躯ながらも女性らしい身体つきのため、ほとんどの人は愛奈のことを選ぶだろう。


「私は海斗くんの全てを満たしてあげたいと思ってるの。お腹が空いたら料理を作ってあげるし、眠くなったら私を抱き枕として使っていい。欲求不満になったら私でいくらでも性欲を満たして良いよ」


 ラノベのキャラなんかに負けたくないといった視線を向けた愛奈は海斗のことを誘惑し始める。

 明らかに平均より大きく育った柔らかな物が当たり、オタクの海斗であろうと意識してしまう。

 誰であろうと三大欲求には敵わない。

 今、海斗が望めば愛奈は喜んで抱かれるだろう。

 告白された時から感づいていたが、愛奈はかなり愛が重い。

 愛する彼氏である海斗に絶対至上主義で、もう今までのように他の男子に愛想を振り撒くことはしないだろう。

 何年も一途に想い続けていたのだし、愛情が深くなったとしてもおかしくない。

 少し前までは見ているだけしかしなかったが、今は彼氏彼女の関係になって想いが爆発しているようだ。


「私は海斗くんのために何でもしてあげるから言ってね?」

「そうか。ありがとう」

「うん……」


 優しく頭を撫で、海斗はこんなに愛されてるんだなと実感する。

 ここまで愛情深い人は中々いないだろうし、愛奈は間違いなく海斗のためだけに生きようとするだろう。


「そこで相談なんだがいいか?」

「うん。何でも言って」


 頼られることが嬉しいのか、愛奈は早速笑顔になる。


「テストのために勉強を教えてほしい」

「勉強を?」

「赤点を取ることはないけど、テストの結果が良い方がイチャイチャしててもあまり強く言ってこなそうだし」


 限度はあるだろうが、多少であれば見逃してくれるだろう。

 でも、勉強が出来ない問題児だったら少しのことでも先生は何かにつけて言ってくる。

 学校では愛奈とイチャついていないと少し落ち着かない感じになってしまい、先生に目をつけられてはたまったものじゃない。

 先日に二人でサボったから目をつけられてる可能性はあるが、テストの結果さえ良ければ何とかなるだろう。

 赤点を取ると補習になってしまうので、万に一つの可能性もなくしたいというのもある。


「うん。勉強は大事だしね。学年一桁の勉強法を教えてあげる」

「おう。まずはラノベを読むけどな」

「うん。ん……」


 軽くキスをした後、海斗はラノベを読むのだった。

 かまってほしいオーラを出してきた愛奈に何度もキスされ、読むのに集中出来なかったのは言うまでもない。

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