アニメショップ
「ここって本屋じゃないよね?」
「そうだな」
学校が終わり、海斗は愛奈を連れてラノベを買うためにお店に訪れていた。
ただ、海斗が訪れた場所は本屋ではなく、業界最大手のアニメショップだ。
ここには漫画やラノベ、CDやDVD、ゲーム、グッズなど、アニメに関する物なら大抵揃っている。
ラノベの特典は普通の本屋じゃなくてこういったアニメショップにつくため、本屋といったらアニメショップだ。
「ところで何でいる?」
愛奈を連れて来たはずだが、何故か澪までついて来た。
まだ愛奈以外の人と話すことに慣れていないため、彼女にくっつきながら少し震えた声で海斗は話す。
「私も漫画欲しいと思っていたから」
「そういえば漫画読むって言ってたね」
「うん。てか原田くん、愛奈の後ろに隠れなくても……」
目線を合わせないばかりか、海斗は愛奈の後ろに身体を隠してしまう。
海斗にとってリア充は天敵であり、いきなり接するのは難しい。
いくら澪に敵意はないといっても、どうしても身体が拒否反応を示してしまうのだ。
もちろん澪が虐めていたわけではないので一切悪くなく、海斗だってそれはわかっている。
でも、やっぱり人と話すことに抵抗があるのだ。
「澪ちゃん、ごめんね。海斗くんも過去に色々あったから」
すぐさま愛奈がフォローに入る。
「なるほどね。愛奈を助けたからか……」
どうやら澪は察しが良いらしく、愛奈の一言で全てを察したようだ。
過去に愛奈を助けたせいで自分が虐められたこと……それがトラウマになったことを……
リア充の澪に虐められる辛さはわからないだろうが、気持ちくらいは理解出来るだろう。
大きな琥珀色の瞳にうっすらと涙がたまっている。
「海斗くん、澪ちゃんは大丈夫だよ。凄く優しいから」
「本当に?」
「うん。私は信用してるから」
虐めにあったと聞いただけで泣きそうになっているのだし、澪の心は優しそうだ。
だから過去に虐めにあっていた愛奈も澪と一番仲良くしているということなのだろう。
最初はリア充である澪に虐められなくなるように近づき、話している内に信用出来ると判断したということだ。
もし、澪が同じ小学校だったら愛奈の虐めを止めていたかもしれない。
「ねえ、原田くん」
「ひゃい」
「ここは噛むとこではないよ」
上手く話すことが出来ない海斗に澪は「あはは」と笑う。
名前を呼ばれただけでこうなるのだし、海斗のトラウマは相当だ。
このトラウマを克服するのには、相当な時間を要するだろう。
「これは愛奈以上に重症かも」
「うん……」
愛奈が「優しいよ」と言っても、海斗は澪に目線を合わせようとしない。
引きこもりにならなかったといえど、トラウマが酷すぎて愛奈の親友相手にも怯えてしまう。
未だに愛奈の後ろに隠れているのだから。
「海斗くん、本当に澪ちゃんは大丈夫だよ。あまり仲良くされたら嫌だけど」
彼氏が自分以外の異性と仲良くしていたら嫉妬するだろう。
「ガルル……」
「何で私は警戒されてるの?」
「さあ?」
野生動物がこっちに来るなと言うかのように威嚇し、海斗は澪に近づかない。
その姿を見た澪は明らかにドン引きしている。
威嚇されたら誰だってそうなるだろう。
「愛奈が言うなら他の人と仲良くしない」
「海斗くん……」
独占されてると思って嬉しくなったのか、愛奈が「えへへ」と笑みを浮かべる。
お互いにおでこをくっつけるように見つめ合い、アニメショップでイチャイチャしてるバカップル見て「何これ……」と呟く。
イチャイチャしまくれば誰も何も言ってこなくなるので、保身のためであれば海斗はどこでだってこうする。
今回は敵はいないし、愛奈があまり仲良くしてほしくないと言ったからしただけだが。
おでこをつっくけながらも二人だけにさせろという視線を向け、澪を遠ざけようとする。
海斗にとっては愛奈を自身から離してはならない。
虐められなくなる最後の生命線だと思っているのだから。
「二人がバカップルなのはわかったから早く買い物を済ませるよ。おかげでこっちに視線が凄いし」
場所もわきまえずイチャイチャしていためか、周りの人たちは海斗と愛奈に視線が釘付けだ。
アニメショップには海斗と同じようにボッチの人も来るので、「堂々とイチャつきやがって」という嫉妬の視線も向けられる。
リア充である澪からしても、この視線は耐え難いものだったのだろう。
早く帰りたそうな顔をしている。
「ラノベ早く買っていっぱいイチャイチャしよ」
「そうだな」
海斗は愛奈と手を繋ぎ、欲しいラノベを買うのだった。
アニメショップいる時に澪が「私が空気になってる気がする……」と呟いていた。
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