バカップル

「憂鬱だ」


 月曜日の朝、海斗は学校に向かいながらため息をついた。

 間違いなくクラスメイトに愛奈との関係を聞かれるからだ。

 今までボッチだった海斗に複数の人からの質問攻めに慣れているわけもなく、サボりたい気持ちでいっぱいである。

 でも、これ以上サボったら先生から何か言われる可能性が高いため、仕方なく登校しているのだ。

 ちなみに学校までは徒歩で二十分ほど。


「大丈夫だよ。私が一緒にいれば何か言われることはないから」


 確かに愛奈が側いれば面と向かって何か言われることはないだろうが、少なくとも陰口は言われるだろう。

 本当に面倒だし憂鬱で、今日は起きてからため息が止まらない。


「直接何か言われたら心が折れそうだから離れないでくれ」

「あ……うん」


 手を握っていた海斗であるが、愛奈のことを引き寄せた。

 いっぱいイチャイチャして甘い雰囲気をだし、周りの人から引くくらいにバカップルと思われれば面と向かって何か言われることはないだろう。

 だから恥ずかしい気持ちはあるが、海斗は愛奈と外でイチャイチャすると決めた。

 愛奈にとっては嬉しいことのようで、「えへへ」とニヤけている。

 実際に効果はあるようで、同じ制服を着た男子から嫉妬の視線を向けられながらも何か言われることはない。

 学校着けば付き合ってるの? くらいは聞かれるだろうが、それくらいなら海斗も答えることが出来る。

 ラブラブだと言ってやれば良いだけだ。


「愛奈、俺から離れちゃダメだから」

「うん。絶対に離れないよ」


 離れる何を言われるかわからないので、海斗は絶対に愛奈のことを離さない。

 ひたすら甘い雰囲気を撒き散らし、周りに近づきたいと思わせないようにする。


「海斗くんといっぱいイチャつけて嬉しいな」


 愛奈も多少は恥ずかしい気持ちはあるようで、頬は少し赤い。

 でも、嬉しさのが勝っているからか、愛奈は海斗から離れるようなことは絶対しないようだ。


「俺もだ」


 お互いのおでこをつっくけ、今すぐにでもキス出来る距離まで近づく。

 まだジッと見つめられるのには慣れていないためか、愛奈は頬真っ赤にして視線をそらしてしまう。

 もちろん海斗が「ちゃんと見て」と言うときちんと見てくれる。

 ここまでしたら誰だってバカップルだと思ってくれるだろう。

 嫉妬の視線は避けられないが、ここまで見せつければ誰も近づこうとしない。


「じゃあ学校に行こうか」

「うん」


 指を絡め合うように手を繋いで学校へと向かって行った。


☆ ☆ ☆


「まさか担任に呼び出されるとは……」

「あはは。でも、しょうがないね」


 学校に着いた海斗と愛奈は担任の先生に生徒指導室呼び出されてしまった。

 理由しては二日連続で二人して授業をサボったのと、保健室で不純異性交遊をしたんじゃないかと疑いをかけられたからだ。

 保健室に行ったのは体調が悪いから休ませてもらっただけで、不純異性交遊は一切していないと説明した。

 昨日サボったのはまだ体調が良くないからで、愛奈は一人暮らしの海斗のサポートのために付き添ってくれたと追加で説明。

 ちなみに恋愛は節度を持てばしても良いと校則で書かれてあったため、担任に付き合っているとだけ言っておいた。

 早退する時は届けを出すように注意はされたが、それ以上は特に何もなかった。

 実際に一昨日は体調が悪そうしていたのをクラスメイトが見ていたし、先生も聞いていたのだろう。

 疑いであれば罰することなんて出来はしないのだから。

 サボったのは確かだが、不純異性交遊は一切していない。


 先生に説明を終えて教室に着くと、一斉に海斗と愛奈に視線が向けられる。

 クラスメイトは二人の関係が気になっているようだ。

 何か言われないように、海斗は愛奈にくっつく。

 彼氏が彼女に助けを求めているようにしか見えないが、ボッチだった海斗にはこうするしか思い付かなかった。


「二人は付き合ってるの?」


 今まで見ているだけだったクラスメイトであるが、痺れを切らしたかのように一人の女子が海斗たち元にやってくる。

 肩ほどまである栗色の髪の女子で、愛奈と良く話したりしていた。

 今まで全然話したことないから海斗は必死で彼女名前を思い出す。


みおちゃん……」


 愛奈が名前言ったことで思い出した。

 彼女──青井澪あおいみおは愛奈と一番仲が良い女子だ。


「そうだよ。私は海斗くんことがずっと好きだったの。今まで隠しててごめんね」

「え? 隠してたの? 私と話してる時も良く原田くんのこと見てたからバレバレだったよ」


 抑えきれなくなったかのように澪が笑い出す。

 たまにではなく、愛奈はかなりの頻度で見ていたようだ。

 それでは気づいてしまうだろう。


「え? 本当に?」


 以前たまにと言っていたが、愛奈はほとんど無意識の内に海斗のことを見てしまっていたのだろう。

 澪に言われて愛奈は顔を真っ赤にさせる。


「うん。昔から好きであれば好きになった理由は想像つくけどね」


 確か澪は小学生が違っていたため、海斗が虐めにあっていたことは知らないはずだ。

 でも、仲が良いから愛奈が虐められていたことは聞いていたかもしれない。

 それで予想したのだろう。


「何か考えている男子、私の親友とその彼氏に何かしたら許さないから」


 冷たい声で澪は言い放つ。

 澪はいわゆるリア充というやつで、彼女に逆らって海斗に何かしようとする人はいなくなるだろう。

 このクラスの二大美少女を敵に回すということになるのだから。

 まさか彼女の親友に助けられるなんて海斗は思ってもいなかった。

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