髪について

「ん……」


 アルコール入りチョコを食べて数時間後、海斗は起きてから凄い違和感を覚えた。

 頭いつもより重く、少しクラクラするような感覚に陥ったからだ。

 それに何故か目を開けているのに暗く、顔だけは温かくて柔らかな感触に襲われている。


「起きたんだね。海斗くん、おはよう」


 愛奈の言葉で全てを理解した。

 視界が暗かったのは愛奈の大きめの柔らかな膨らみに顔をうずめているからだったようだ。


「おはよう。俺は何で寝てたんだ?」


 身体を起こして寝る前のことを思い出そうとする海斗であるが、全く思い出せない。

 それどころか本当に頭が重く、風邪でもひいたかのように体調が悪いのだ。

 何か食べたせいでこうなった気がするが、その原因がわからない。


「体調良くないみたいだね。私の身体を枕にして良いよ?」

「そうさせてもらう」


 何か考える余裕がほとんどないので、海斗は素直に愛奈の太ももを枕にして横になる。

 眠気はほとんどないが頭がボーッとし、まるで身体が自分のものじゃないみたいだ。

 このダルさは過去に風邪をひいた時でも感じられなかった。


「姉ちゃんはどうしてる?」

「アニメ観て夕方には帰るって言ってたよ。私が相手しないから寂しそうにしてた」

「変態に好かれて大変だな」


 愛奈は「あはは……」と苦笑い。

 あんな行動をしていたら誰もが変態だと思うだろう。

 見た目はかなり良いので、大人しくしていたら相当モテていたかもしれない。

 今となってはあの性格は直せないだろうし、他人に迷惑さえかけなければ海斗にはどうでも良いことだ。

 もう手遅れであり、将来結婚出来るかどうかはわからないが。

 あの変態を貰ってくれる男がいたら見てみたいと思いつつ、海斗は愛奈の膝枕を堪能する。

 こんな細い足なのに何で柔らかいのだろう? と疑問があるが、女性特有ものだろう。

 男の膝枕では絶対に感じることが出来ない柔らかさを海斗の頭を包み込む。


「愛奈の髪ってお母さんからの遺伝だよな?」

「そうだね」

「外国の血が混ざってる?」

「うん。私はノルウェーと日本のクォーターだから。ストロベリーブロンドって言って向こうでも珍しいんだって」


 海斗は少し気になったので、スマホを使って『ストロベリーブロンド 地毛』で検索をする。

 するとすぐに出てきて、金と赤が混じったような髪色のことだ。

 全人口の一パーセント未満と言われ、年を取るにつれて赤が強くなったり抜けたりするそう。

 愛奈やルカみたい綺麗な桃色はかなりは現地でも相当珍しいかもしれない。

 行ったことないのでわからないが。


「髪についてはトラウマなのかもしれないのに色々聞いて悪いな」

「ううん。海斗くんが綺麗って言ってくれた髪だから。今ではきちんとケアをしてるし」


 今となっては気にしていないようだ。

 むしろ褒められたことで嬉しかったのだろう。

 海斗には記憶ないが、言っていた可能性も否定出来ない。

 異世界物のラノベやアニメを見ると、ピンクの髪のキャラを好きになることが多いのだから。

 記憶がなくなるくらい虐めについてトラウマではあるが、愛奈を助けたのは何か理由があるにかもしれない。

 当時好きだったとかあるし、虐めが嫌いとか色々考えられる。

 思い出そうとしても今は頭が重くてしんどいので、これ以上は止めておく。

 考えるのが面倒気持ちもある。


「海斗くんが甘えてくるのも良いね。昨日は私が甘えてたから」

「そうか?」

「うん。甘えている海斗くんは可愛い」


 そういえば昨日ぬいぐるみに抱きついている時にも可愛い言われたなと思い、海斗は「あはは……」と苦笑いして頬をポリポリとかく。

 可愛いなんて言われたことないので少し恥ずかしく、どう反応して良いかわからない。


「思ったがんだけど、来週からテストじゃないか?」

「そうだね」


 ゴールデンウィークはとっくに明けているし、来週の水曜から三日間は二年生になって最初の中間テストだ。

 愛奈のことがあってすっかりと忘れており、海斗は面倒くさいといった顔をする。


「体調戻ったら勉強しなきゃな」

「うん。私が教えてあげるね。これでもテスト順位は学年で一桁だから」

「お願い」


 海斗も悪い方ではないが、勉強はしといた方が良い。


「今は悪いけど寝かせてもらう」

「おやすみなさい」


 頭が重くて働かないので、海斗はゆっくり目を閉じる。

 するとすぐ夢中へと入っていったのだった。

 愛奈にその間、ずっと海斗を寝顔を見ていたり、スマホで写真を撮っていたのは言うまでもない。

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