チョコ
「愛奈ちゃん、これ食べましょう」
日曜日の朝、テンションが高い夏希が何か持っていた。
大人のチョコレートとパッケージに書かれており、夏希は何やら考えていそうな顔をしている。
「朝からチョコって……」
ご飯を食べたばっかなのにチョコを食べようと誘ってくるあたり、間違いなく夏希は何か狙っているだろう。
しかも大人のチョコという響きは危険な香りがする。
ただ、何故か愛奈に食べてほしいと思う自分もいて、海斗は食べるなと言うことが出来ない。
大人のチョコと書いてあるからにはある物が入っている可能性がある。
高校生が主人公のラノベやアニメで出てくるシーンを夏希は再現したいということだ。
チョコを食べても普通はアニメのようにならないだろうが。
愛奈は良くわかっていないような「甘くないチョコなのかな?」と呟いている。
「食べてみるか?」
「うん」
箱を開けてから愛奈はチョコを取り出す。
軽く一口サイズのチョコを見てパクっと食べると、愛奈は笑みを浮かべた。
「そんなに甘くないけど美味しい」
愛奈の口にあったらしく、もう一個チョコを食べる。
味が気になってしまい、海斗もパクっと一口。
「上手いな」
もう少し苦味があると思ったがそんなことなく、上品な大人の味わいだった。
一度食べ出すと止まらず、海斗はもう一個食べる。
「海斗はあまり食べないでね。愛奈ちゃんに食べてほしいのだから」
「わかってるよ」と言いつつも、海斗の食べる手は止まらない。
愛奈も食べてはいるが、それ以上に海斗の食べる量が多いのだ。
「愛奈、むぎゅー」
「ちょ……海斗くん?」
チョコを食べていた海斗は、いきなり愛奈のことを抱き締めた。
いつもは愛奈が海斗の胸板に顔をうずめるが、今は逆の状態だ。
今度は海斗が愛奈に自分の匂いをつけるためにスリスリと頬を擦りつける。
「何で海斗が酔ってるのよ? ここはお約束として愛奈ちゃんが酔うことろではないの?」
海斗の顔は赤くなっており、お酒でも飲んだかのように酔っている状態だ。
それもそのはずで、パッケージには小さくブランデー入りと書かれており、いわゆるアルコールが入っているチョコ。
夏希は愛奈を酔わせて甘えてほしいと思って食べさせたのだろう。
でも、予想外に海斗が酔ってしまい、夏希は「はあ~……」とため息をつく。
酔わせたいと思っていた愛奈は平然としているのだから。
ちなみにアルコール入りのチョコは未成年が食べても法律違反になることがないため、ラブコメラノベで良くヒロインを酔わすために使われる。
ただ、アルコールが入っているため、未成年に故意に食べさせる物ではないだろう。
「あいにゃ~、俺のきょと好きって言ってくれぇてありがとう」
最早、呂律が回っておらず、海斗は愛奈に甘えまくっている。
「海斗くんが可愛すぎるんですけど」
昨日のぬいぐるみを抱き締めている時に似ていると思ったようで、愛奈はキュンとしている様子。
海斗の頭を手で抑え、もっと甘えてほしいと言った表情をして自身の胸元に顔をうずめさせる。
キュンキュンしまくりなのだろう。
一方の夏希は不満らしく、「こんなはずじゃなかったのに……」と頬を膨らます。
愛奈に甘えてほしいからブランデー入りのチョコを食べさせたはずなのに、弟の海斗が酔ってしまっては意味がない。
「あいにゃ……むにゃ~……」
「海斗くん寝ちゃった」
酔ったせいで眠気が来てしまい、海斗は愛奈の身体に身を預けて寝息をたてている。
「海斗がこんなにお酒が弱いとは思わなかったわ」
ブランデー入りとはいえ一般的に販売されているお酒よりアルコール度数は少ないし、夏希も愛奈が酔ってくれればラッキーという程度にしか思っていなかっただろう。
「海斗くん可愛いよ。たまに食べてもらおうかな」
甘えてくる海斗なんて中々見れないからか、愛奈は今後もアルコール入りチョコを食べさせたいようだ。
「愛奈ちゃんも酔ってよ。私に甘えてよ」
「無理です。私が甘えるのは海斗くんだけなんで」
夏希は「残念だわ」と言い、残っているチョコを食べるのだった。
愛奈は海斗が起きるまでずっと抱き締めていたのは言うまでもない。
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