学園のアイドルは撮りまくる
「あ、い、な、ちゃーん、おかえりー」
家に帰ってきた瞬間に、夏希が玄関の方にやってきて愛奈に抱きつこうとする。
もちろん海斗が間に入って阻止し、絶対に抱きつかせない。
「てか酒飲んでるだろ。臭いぞ」
良く見ると夏希の顔は赤くなっており、相当量飲んでいるということがわかる。
「だって愛奈ちゃんがいなくて寂しかったんだもん。これからは愛奈ちゃんを肴にして飲みたいわ」
「本当に中身は変態オヤジだな」
本当にこの姉は……と思い、海斗は「はあ~……」と深いため息。
美少女さえ近くにいなければ良い姉であるが、愛奈が側にいると夏希は変態へと成り下がる。
高校生の時に同級生の美少女を家に連れてきた夏希を海斗は見たことがあり、その時より明らかに酷い。
今は酒を飲んでいるからというのもあるが、昨日は飲んでいなくても酷かった。
「愛奈、今日は帰る?」
同棲が決まったとはいえ、夏希がいては愛奈に迷惑をかけてしまう。
だったら一度帰ってもらい、後日夏希がいなくなってから来る方が良いかもしれない。
「大丈夫だよ。海斗くんがいてくれるから」
頬を赤らめている愛奈のことを見て、海斗は「そうか」と頷く。
「私がいるのに二人だけの空気を作らないで。私も愛奈ちゃんと甘い空気を作りたいわ」
「却下だ」
「何で海斗が言うのかしら?」
「代弁したまでだ」
夏希を一蹴し、海斗は愛奈をつれて自室へと向かう。
「ん? これは……」
部屋に入るとなかには大きな段ボールが置かれていた。
伝票には原田海斗様と書かれており、以前頼んでおいた荷物が届いたようだ。
届いたのを夏希が部屋の中に運んでくれたのだろう。
早速段ボールを開け、海斗は中の物を確認する。
ビニールに覆われた大きな犬のぬいぐるみは薄い茶色で、ゴールデンレトリバーがモデルだ。
数日前に亡くなったジョンも同じ犬種で、海斗は似ていたからこのぬいぐるみを注文した。
「この犬のぬいぐるみは?」
「寂しさが紛れるかと思って買った。じょんに似てるし」
「可愛い。海斗くん可愛いよ」
キュンってしたかのように、愛奈の頬が赤くなる。
ぬいぐるみを買うなんて乙女みたいだが、そんな海斗を見て愛奈の胸は高鳴ったようだ。
どう思われようが海斗に気にしいていなく、ビニールから取り出したぬいぐるみを抱き締める。
本物の犬のようなモフモフ感はあまりないが、これでも多少なりともないよりかはマシだ。
「ぬいぐるみを抱き締めている海斗くんを撮っても良いかな?」
既にスマホを取り出してスタンバイしている。
「問題ないぞ」
撮られることに慣れているわけではないが、愛奈のことだから他の人に見せることはないだろう。
個人的に楽しむのであれば反対する理由はない。
了承を得たということで、愛奈はパシャパシャとスマホで写真を撮っている。
シャッター音が一回だけではないので、何枚も撮っていいるのだろう。
チラチラと愛奈のことを見てみると、口元を緩ませながら「可愛い」と言っている。
ぬいぐるみを抱き締めている男のどこが良いのだろう? と思いつつも、海斗は絶対に離さない。
モフモフ感は物足りないが、ぬいぐるみも思っていたより抱き心地が良かった。
このままベッドに行けば寝れそうなくらいに。
ただ、愛奈は抱いてくれないと眠れないと言ったため、ぬいぐるみを抱き締めて寝ることは出来ないだろう。
ぬいぐるみを抱くなら自分を抱いてほしいと言ってきそうだ。
これからはたまに感触を楽しむことにすれば良い。
「まだ撮るの?」
「スマホの容量を全て海斗くんの写真や動画でいっぱいにしたい」
シャッター音がしなくなったと思ったら、次は動画を撮りだしたようだ。
少しだけ息が荒いのは気になったが、海斗は何も言わないことにした。
今はぬいぐるみを抱き締めることを楽しんでいるのだから。
「ぬいぐるみを抱き締めている海斗くん可愛いよ」
キュンキュンが止まらないようで、さっきから愛奈が変態と化してしるかもしれない。
学校では絶対に見ることが出来ないくらいに顔が緩みまくっているのだから。
本気でスマホを写真でいっぱいにするんじゃないかと思えるほどだ。
この写真撮影は夏希が部屋に乱入するまで一時間にも及んで続いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。