英雄
「海斗くんお待たせ。どうかな?」
一度着替えのために自宅に帰った愛奈は、少しして私服で出てきた。
白のブラウスにハイウエストのプリッツスカートはとてもお洒落で、思わず海斗は見惚れてしまう。
全身を見てほしいようで、愛奈はスカート裾を指で掴んでくるりと一回転。
見えそうで見えないのはもどかしい。
「似合ってるぞ」
ボッチだった海斗に異性の褒め方なんてわかるわけもなく、ラノベで書かれていたセリフそのまま言った。
愛奈には効果抜群のようで、可愛らしく「えへへ」と笑みを浮かべる。
彼氏に褒められるというのは嬉しいことなのだろう。
「じゃあデートに行くか」
「うん」
夏希から離れるためにデートに行くと言ってしまったため、これから愛奈と初デートだ。
デートに行こうと言ったら、笑顔で即答で了承してくれた。
断れないように告白してきた愛奈からしたら嬉しすぎて仕方ないようで、さっきから口元がニヤけている。
指を絡めるように手を繋ぐと、愛奈は「早く行こうよ」と急かす。
楽しみすぎて仕方ないようだ。
「どこ行こうか?」
「行きたいとこがあるの」
☆ ☆ ☆
愛奈が行きたい場所とは漫画喫茶だった。
漫画喫茶は多数の漫画が読み放題、ドリンクバー、パソコンを使ってアニメやどドラマなども見放題で高校生や漫画、アニメ好きな人たちからしたら楽園だ。
残念なことにラノベは置かれていないため、海斗が行くことはほとんどない。
この漫画喫茶には完全個室が何部屋かあるため、そこを希望させてもらった。
店員にエロいことするなよ的な視線を向けられたが、気にせず飲み物を持って部屋へと向かう。
中は二人が横になっても充分な広さがあるフラットシートにデスクトップパソコン、テレビが置かれていた。
「まさか学園のアイドルが漫画喫茶に行きたいと言うなんて思わなかった」
「だってここだと沢山イチャイチャできるもん」
中に入って愛奈は早速くっついてくる。
漫画であったりパソコンで色々と出来るにも関わらず、愛奈はひたすら海斗とイチャイチャしていたいようだ。
しかも八時間パックで入店したので、その間は愛奈が離れることはないだろう。
「家でもイチャイチャ出来るけどな」
「家だと海斗くんのお姉さんがいるから」
「そうだな」
優しい愛奈が嫌がっているのだし、よっぽど夏希が苦手ということだ。
あの変態さを目の前で見たのだから仕方ない。
海斗だって夏希の変態さにはドン引きだ。
くっつきながらフラットシートに座り、海斗は優しく愛奈の頭を撫でる。
撫でられるのが好きなようで、愛奈は目を閉じて楽しんでいるようだ。
「こっち見て」
「え? うん」
愛しの彼氏である海斗に言われ、愛奈は目を開けて見る。
ジーと見つめ合っていると、みるみると愛奈の頬が赤くなっていき、海斗から視線をそらそうとしてくる。
海斗は「ダメ」と言い、愛奈の頬を手で抑えて見つめさす。
結婚してほしいと言った割には、見つめられることに慣れていないようだ。
いや、整いすぎている容姿だから見られることはいっぱいあるだろうが、海斗に見られることに慣れていないと言った方が正しいのかもしれない。
その証拠に「うう~……」と耳まで真っ赤にしているのだから。
今にも海斗の胸板に顔をうずめたい気分だろう。
でも、海斗に言われたので、愛奈はジーと見ているしかない。
「あう……海斗くんカッコいい……」
惚れた補正がかかっているようで、今の愛奈には海斗が一番カッコよく見えるのだろう。
「愛奈も可愛いと思うよ」
そう言った瞬間に愛奈の頭から煙が出そうなくらいに真っ赤に染まった。
告白をかなりされているので言われ慣れているはずだが、海斗に言われると恥ずかしいのだろう。
彼氏に言われるのは破壊力抜群のようで、愛奈は「あうあうあう……」と意味不明は言葉を発している。
「海斗くんは私を喜ばす天才なの?」
「そんなことはないが」
「そうだよ。だって海斗くんは私の英雄なんだから」
英雄という言葉を聞いて海斗は目をそらす。
確かに愛奈のことを虐めから救ったのは事実なのだろう。
でも、海斗は虐められたことがトラウマで一部の記憶を失ってしまった。
英雄と言われるのには抵抗しかない。
「お母さんが今度紹介してって言ってたよ。娘を虐めから助けてくれて凄い感謝してるよ」
「そうか」
親からしてみたら娘を救ってくれてたのだし、嬉しいと思うだろう。
これで何も思わなかったら親として失格だ。
「それでね。お母さんが同棲して海斗くんのことを虜にしてきなさいって」
「……はい?」
決して聞き取れなかったわけではなく、予想外のことを言われたから聞き返しただけ。
まさか同棲と言われるなんて誰が思うだろう。
少なくとも海斗は予想していなかった。
「だから同棲して英雄である海斗くんをメロメロにさせてきなさいって」
「高校生で同棲なんていいのだろうか?」
「いいと思うよ。だって海斗くんといっぱいいることが出来るし」
両親が認めたんだし、愛奈が同棲を反対する理由はないだろう。
「俺の家には姉ちゃんがいるぞ。多分明日には帰るだろうけど」
夏希は平日に働いているため、実家にいれるのは土日だけしか出来ない。
実家から通勤すると二時間以上かかるし、仕事場から近い一人暮らしをしているマンションに戻るだろう。
「じゃあ何も問題ないよ」
「愛奈が住んだら姉ちゃんが毎週来る可能性もあるがな」
流石に実家から仕事に通うなんて言わないだろうけど、土日は実家に来る可能性は否定出来ない。
夏希は間違いなく愛奈のことを溺愛しているのだから。
「海斗くんが守ってくれるから大丈夫」
「愛奈が良いなら別に同棲は構わないよ」
同棲が決まった瞬間であった。
嬉しさからか、愛奈がずっとニヤニヤしていたのは言うまでもない。
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