女の子大好きな姉
「……めちゃ眠い」
日が完全に沈もうとする時間、海斗は盛大な欠伸をした。
朝も眠かったが色々あったため眠く感じなかったから、流石にそろそろ限界に近づいている。
昨日のように愛奈に抱きつけば寝ることが出来るだろうか?
あの時は数日まともに寝ていなかったから寝れただけかもしれない。
ちゃんと寝れるかなんてわからないだろう。
「私も少し眠いかも」
「ふあぁ……」と愛奈も小さな欠伸をした。
同じ欠伸をしただけなのに、愛奈のは何でこんなに可愛いのだろうか?
男と女が同じ仕草をしてもこうも違いが出てしまうものだ。
「ただいまー」
玄関のドアが開けられる音がした。
基本的に海斗一人のみしか住んでいないが、たまにある人が帰ってくることがある。
「愛奈、俺から離れるなよ」
「え? うん……」
頬を赤らめながら愛奈はしがみつく。
「ジョンが亡くなって寂しいだろうと思ってお姉ちゃんが来たわ……よ……?」
スーツ姿の女性はリビングに入って来た瞬間にフリーズした。
正確には海斗たちを見るまではテンション高めであったが、くっつき合ってる二人を見て驚いたように固まったと表現した方が正しいだろう。
「姉ちゃん、何か用?」
「お姉さん?」
「そう。
目の前で固まっている彼女──原田夏希は海斗の姉であり、今年から社会人になった二十二歳。
今は一人暮らしをしているのだが、両親からジョンが亡くなった聞いて実家まで来たのだろう。
二人を見つめるライトブラウンの瞳は瞬きすらしていない。
「ボッチの海斗が……家に女の子を連れて来てる、だと……?」
「ほっとけ」
目を見開いている夏希を見て、海斗は「チッ」と舌打ちをする。
仕事帰りに来たようで長い栗色の髪はポニーテール調に纏めており、大きな瞳に綺麗な肌と美人なのだが、海斗は夏希ことがあまり好きでない。
その理由はすぐにわかるだろう。
「何々? 海斗にこんな可愛い彼女が出来たの?」
フリーズしていた時とは違い、いきなり夏希のテンションが上がる。
海斗は夏希このテンションの高さが好きではないのだ。
ボッチである海斗はテンション低いが、夏希は基本的にテンションが高すぎる。
しかもウザ絡みしてくるため、非常に面倒くさい。
「三次元にもこんなに可愛い子がいるの? まるで二次元から来たみたい」
そう言って夏希は愛奈に近づいてくる。
夏希は重度のアニメ、声優オタクであり、男性向けアニメ、女性声優が大好きだ。
だからなのか男性にはほとんど興味を示さず、可愛い女の子に目がない。
少しばかり目が血走っており、流石の愛奈もドン引きしているように見える。
だから海斗は愛奈に離れないように言ったのだ。
こうして海斗しがみついていなければ、今頃愛奈は夏希によって抱き締められていたことだろう。
「ジョンが亡くなった寂しさなら大丈夫だからもう帰れ」
正直、まだ大丈夫ではないが、夏希がいるよりマシだ。
いるだけでいウザいし、出きることなら一人暮らしを満喫していてほしい。
「連れないわね。せっかくお姉ちゃんが来てあげたのに。私がいたら彼女にアンアン言わすことが出来なくなるから邪魔だと?」
「物凄く邪魔」
いなくなってほしい理由は全く違うが。
このウザ絡みなければ海斗がラノベを好きになったきっかけは夏希にあるし、基本的に家族想いで良い人だ。
虐めで無愛想になっていた海斗にラノベを勧め、しばらくは友達と遊ぶのを止めて一緒にいてくれたほど。
だから感謝しているのだが、ウザ絡みのせいでお礼を言う気が起きない。
無愛想になった海斗にはジョンがいてくれればある程度は大丈夫と夏希は判断したようで、大学に通っている途中で一人暮らしを始めた。
「本当につれない弟ね。今日は泊まる気で来たのだけれど」
「弟が彼女連れて来てるんだから空気読め」
「やっぱり彼女なのね。なら絶対に泊まらないといけないわね」
目を輝かせている夏希は愛奈のことを見る。
今までこんなに可愛い女の子は見たことがないみたいだし、夏希からしたら仲良くなりたいのだろう。
弟の彼女であるから遠慮はしないといった感じだ。
「名前何て言うの? 私のことはお姉ちゃんって呼んでくれていいからね」
「は、はあ……天野愛奈です」
「愛奈ちゃん、可愛い名前ね」
まるで恋する乙女のようにうっとりとした表情で愛奈のことを見つめ、本当はレズなんじゃないかと海斗は思ってしまう。
一方の愛奈は明らかにドン引きしている。
「愛奈は晩御飯食べたら帰るぞ」
「何で? 愛奈ちゃんとガールズトークしたいわ」
「着替えとかないし」
学校から直接来たから着替えなんてあるわけもないし、今の愛奈は制服姿だ。
遅くても晩御飯を食べたら帰ってもらった方が良い。
「私は泊まっても良いよ? 下着は近くのコンビニで買えるし、着替えは海斗くんの服貸してもらうから」
「いいのか?」
「うん。海斗くんと一緒にいたいから。それに明日は土曜日で学校が休みだしずっと一緒にいたいの」
離さないように愛奈はしっかりと海斗のことを抱き締める。
「愛されてるわね。愛奈ちゃん、私にも抱きついていいのよ?」
抱きついてくるのを待つかのように夏希は両手を広げる。
「その……私は海斗くん一筋なので」
丁重に惚けを入れてお断りする愛奈であった。
ちなみに夏希が来たことにより、二人の眠気が吹っ飛んだのは言うまでもない。
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