学園のアイドルは絶対付き合いたい

「朝のはどういうことだ?」


 一時間目の授業が終わり、海斗は愛奈を人気のいない場所に連れてきた。

 教室で告白されては話を聞かないわけにはいかない。

 休み時間は十分しかないが、人が来ない屋上前の階段なら話しやすいだろう。


「それはこっちのセリフだよ。人気のない場所に連れ出して何をするの?」

「ふざけなくていいから」


 そんな話をするために二人きりになったわけではない。

 物凄く面倒だと思い、海斗はため息をつく。

 ただでさえボッチと学園のアイドルでは住む世界が違うので、とっとと話して終わらせたい。


「あの告白は何?」


 教室で大胆に告白し、さらには責任を取って結婚してとまで言ってきた。

 まさかの告白に誰もが驚いたことだろう。

 今頃は教室で噂になっているかもしれない。

 教室に戻ったらクラスメイトから色々聞かれることは間違いなしだ。

 ただ、ボッチの海斗には色々聞かれるのは好きではない。

 出来ることなら放っておいてほしいというのが本音だ。

 そして愛奈とも関わりたくないと思っている。

 学園アイドルと仲良くしていたらそれだけ注目の的で、何かと絡んでくる人が多くなってしまう。

 そんなことは嫌だし、話を聞いて教室で訂正させて終わりにする。


「何って、私は海斗くんが好きだから告白したんだよ」

「そうか。人が大勢いる教室で告白するものではないと思うがな」


 普学で学校であれば誰もいない校舎裏や屋上で告白するのが一般的だ。

 実際に告白されたのは今回が初めてであり、ラノベやアニメから得た知識になってしまうが。

 本当に先ほどからため息が止まらず、授業中でも出てしまって憂鬱な気分だ。

 ずっと視線が向けられていたのだから。

 出来ることならこれからも自分の身を守るためにボッチでいたい。


「じゃあ海斗くんはドラマなんかで定番な告白で付き合うの?」

「付き合わないよ」


 付き合ってしまったらボッチでなくなってしまう。


「そもそもボッチについて教えてほしいとか言ってたのは?」

「そんなの海斗くんと仲良くなりたいからだよ。体調を悪そうにしていた海斗くんに声をかけたのもお近づきになりたいから」


 まさかの言葉に海斗は唖然をしてしまう。

 基本的に優しい愛奈が誰かに贔屓するなんて思えなかったからだ。


「私は海斗くんが本気で好きだよ。絶対に付き合いたいと思ってるの」


 真剣な眼差しはとても嘘を言っているようには思えない。

 そのことからわかるのは、愛奈は本気で海斗のことを好きということだ。

 でも、ボッチである海斗を好きになる要素がわからず、頭に中にはてはマークが浮かぶ。

 どう反応していいかもわからないし、海斗は何も言わずにいる。


「海斗くんは小学校の時に女の子を虐めから助けてたよね? そこでカッコいいなって思ってたら好きになってたの」

「小学校一緒だっけ?」

「そうだよ」


 桃色の髪の女の子がいれば記憶に残っていそうだが、海斗は愛奈のことを思い出せない。

 本当にいくら考えても愛奈ことだけは思い出すことが出来ず、もう考えるのを止めた。

 このままでは虐められた光景がフラッシュバックしてしまいそうになったからだ。


「思い出せん」


 少し寂しそうにし、愛奈は「そっか……」と呟く。

 好きな人に忘れられているのだししょうがないかもしれない。


「小学校の時はトラウマだから、一部記憶がない」

「そ、そうなの?」

「ああ。中学の時は一緒のクラスになったことはなかったし、俺が知っている天野愛奈は高校生になってから」


 小学生が一緒なら私立を受験しなきゃ必然的に一緒の中学になる。

 でも、中学では一切関わりがなかったし、海斗は愛奈のことをほとんど知らないのだ。

 一部の記憶がないと聞いた愛奈は「そっか……だからなんだね」と、ブツブツと言っている。

 少し考えたような表情になったと思ったら、いきなり「うん」と言って自己解決したかのように愛奈は海斗のことを見つめた。


「さっきも言ったけど私は本気で海斗くんのことが好き」

「そうか。できることなら教室に戻って皆の前で訂正してほしいんだが」

「何をかな?」

「好きってことと抱いたってこと」


 これが愛奈の冗談だってなれば、クラスメイトも何か聞いてくることもないだろう。

 そうなればこれからもボッチでいれる。


「それだけは絶対に嫌だよ」


 そう言って愛奈は海斗に抱きつく。

 絶対に離れないという想いが込められたように強く抱きついてきて、好きだという気持ちが伝わってくる。

 何がなんでも付き合いたい……だからクラスメイトがいる教室で告白したのだろう。

 もし、断られてしまっても天野愛奈は原田海斗が好きと皆に思うから、堂々とアタックすることが出来る。

 そして愛奈に好きな人がいるとわかれば告白する人は激減するだろう。


「付き合ってくれれば私が海斗くんを幸せにしてあげる。海斗くんの思いのままに私は動いてあげる。別れてっていうのと他の男の人と仲良くしてって以外になるけど」

「本気で好きなんだな」

「うん。海斗くんのためなら何でもするよ。こんなこともね……」


 愛奈は海斗の頬に手を置くと顔を近づけてくる。

 何をされるかわかって離れようとするが、壁際でしっかりと抑えられているから離れることが出来ない。


「んん……」


 柔らかい愛奈の唇が自分の唇に触れた。

 産まれて初めてのキス……まさか了承を取る前にされるなんて思ってもいなかったことだが、された瞬間に抵抗するのを止めてしまう。

 ボッチでいたいと思ってみても、海斗も思春期男子なのだし本能に逆らうことは難しいのかもしれない。


「私のファーストキスを捧げちゃった」


 嬉しさからか、愛奈は「えへへ」と笑みを浮かべる。

 ボッチであれど美少女の笑みは可愛いと思ってしまう。

 可愛い人は他にもいるが、愛奈の可愛さは別格だ。

 小学五年生の時から好きだと言っていたし、今まで経験がなくても不思議ではない。


「本当に何でもしてあげるからね」

「わかった。愛奈と付き合うことにする」


 ここで断ったとしても愛奈が諦めることはないだろう。

 だったら付き合ってしまい、まったりのんびりしている方が良い。

 付き合ってしまえば愛奈が強く何か言ってくることはないだろう。

 それに教室でのことを訂正しないのであれば、学校中の人から愛奈を抱いて捨てた男と認識されることになる。

 付き合わないより色々言われてしまうだろう。


「本当?」

「ああ。ただ、俺は愛奈のことが好きではないから、多少素っ気なくても文句言わないように」

「うん。いっぱいイチャついて好きって言わせるからね」


 ここで予鈴が鳴ったため、二人は教室に戻ることにした。

 戻っている途中、愛奈が「虐めから助けてくれたし、絶対に私が海斗くんを幸せにするからね」と小声で言うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る