学園のアイドルの告白
「眠い……」
愛奈を抱き締めて寝てしまった次の日の朝、海斗は全然眠れなかった。
教室に着くと、昨日と同じように机突っ伏す。
寝たい……そんなことを思って目を瞑るが、眠れる気がしない。
犬のぬいぐるみが届くのは早くても明日なため、今日も眠れない可能性がある。
眠気で身体が怠く、海斗は「はあ~……」と深いため息をつく。
睡眠欲は人間の三大欲求の一つのため、充分に眠れないと生活に支障をきたす。
なので今日の授業は集中することが出来ないだろう。
早くぬいぐるみが届くのを祈るのみである。
「海斗くん、おはよう」
近くで自分を呼ぶ声が聞こえた。
反応するのが面倒で、海斗は突っ伏したままだ。
声をかけてきたには愛奈だろう。
昨日友達になりたいと言っていたし、愛奈以外に声をかけて来る人がいるとは考えにくい。
愛奈が男子を名前で呼んだことで、海斗に視線が一気に集中する。
学校一の美少女、学園のアイドルである愛奈が男子のことを名前で呼んだのだからそうなるだろう。
過去に虐められていたことがあるせいで海斗は人の視線敏感であり、物凄い不快感に襲われる。
このまま寝たフリでもしておけば愛奈は側から離れると思い、海斗はそのまま机突っ伏す。
もう少ししたら予鈴が鳴るので愛奈は諦めて自分の席に着くはずのなで、しばらくこのまま寝たフリをしていれば良い。
「起きてるのはわかってるんだからね」
昨日何で寝不足か説明したせいで、愛奈に寝たフリだということバレてしまっている。
それでも海斗は寝たフリを止めることをしない。
相手が学校一の美少女だろうが、海斗は仲良くしたいと思えないのだから。
「もう、起きてよ。昨日あんなに情熱的に抱いてくれたのに」
「…………は?」
数秒の沈黙の後思いもよらない言葉に海斗は反応をした。
クラスメイトたちも同じような感じになっており、聞いていた全員が愛奈のことを見る。
「海斗くんに抱かれてからあの時の快感が忘れられないの」
頬を赤らめ、愛奈はうっとりとした表情でそんなことを言う。
全く持って意味不明であり、海斗は反応することが出来ない。
確かに昨日は保健室のベッドで抱き締めて寝てしまったが、それ以上のことは一切していないはずだ。
寝ぼけて身体を触ってしまったり服を脱がそうとはしたみたいだが。
「だから海斗くんが抱いてくれないと私は眠れない身体になっちゃったみたいなの」
「……俺には何を言っているかわからないんだが」
流石にずっと反応しないわけにもいかず、海斗は何とかして思っていることを口にした。
抱いてくれないと眠れないというのは、抱き締めてもらわないと寝ることが出来ないということだろうか?
抱き締められた時の感触が良すぎたということだ。
ただ、大分話を盛っているように思えてならない。
抱き締められてじゃなくて抱かれてと言っているのが証拠で、愛奈には海斗のように目にクマなんて出来ていないのだから。
普通は教室でそんなことを言わないので、何か愛奈には考えがあるのだろう。
「言葉通りの意味だよ。もう私たちは相思相愛だよね」
「ちょっと意味不明」
「私は海斗くんに抱かれないと眠れなくなっちゃったし、責任取って結婚して?」
まさかの海斗の言葉を無視し、愛奈はプロポーズをしてきた。
学校一の美少女、学園のアイドである愛奈に告白されたら嬉しいことがろうが、ボッチの海斗は嬉しいとは思わない。
誰かと付き合いたいとか考えたことがないからだ。
ただ、こんな告白をする愛奈に、海斗は絶句してしまう。
「教室でこんなこと言ってごめんね。でも、皆に私は海斗くんのものって知ってもらわないといけないから」
確かに愛奈ほど人気がれば、彼氏がいても告白してくる人もいるかもしれない。
でも、皆の前で公開告白してしまえば、愛奈に告白する人なんていなくなるだろう。
「本当に……何言ってるの?」
思考が追い付かないため、何とか出た言葉がこれだった。
いくら抱き締めないと寝れなくなったとしても、好きでなかったら結婚しようなんて言ってこない。
ということは愛奈は海斗のことが好きということになるのだが、交流関係ゼロなので本当に好意があるのかもわからない。
長時間ベッドで抱き締められただけで惚れてしまっては、愛奈はとっくに誰かと付き合っているだろう。
でも、誰かと付き合っていると一切聞いたことなんてないし、そもそも愛奈は優しくてもガードが固いという噂だ。
抱き締められたのは事故であるが、それだけで本当に好きになるのだろうか?
海斗には他に何かあるんじゃないかと考えてしまう。
もちろん海斗が勝手に思っているだけなので、本当のことは愛奈本人にしかわからない。
ただ、抱き締められて友達にならなかったから嫌がらせをしているようには思えなかった。
「私は海斗くんのことが好きなんだよ。小学五年生の時からずっと……」
「それってどういう──」
詳しい話を聞きたかったが、予鈴が鳴って先生が来たためにこれ以上の話は出来ない。
愛奈は耳元で「詳しくは後でね」と言い、自分の席に着いた。
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