ボッチになった理由

「はあ……疲れた」


 学校から帰ってきた海斗は、リビングのベッド座ってお茶を一気に飲む。

 両親は海外なので家でも一人だ。

 特にやりたいこともなく、海斗は連絡先が家族しか入っていないスマホを取り出して電子書籍を読み始める。

 中学になった頃からライトノベルにハマってしまい、今では毎月何かしら購入しているのだ。

 お小遣いは一般的な高校生より少し多いくらいなのだが、海斗はボッチのために友達遊びに行くことはない。

 だから欲しいラノベにつぎ込むことが出来る。

 流石にお小遣いの全額を使うということはないが。


「俺はラノベの主人公みたいにはなれなかったな」


 ふと思ったことを口にした。

 ラノベの主人公はヒロインを何かしらから助けて惚れられる。

 しつこいナンパや虐め、過去の呪縛からだったりと色々あるが、必ずヒロインは主人公に惚れるようになっているのだ。

 他の人を好きになってはヒロインではないから当たり前ではある。

 登場初期は他の人を好きな作品もあるが、最終的には主人公を好きになってしまう。

 惚れられていることに気づかずヒロインが苦労していたりするのが多いが。

 海斗は小学五年生の時から虐められていた過去を持つ。

 理由は虐められていた女の子を助けたことが、その子を虐めていた人の気に触ったからだ。

 暴力を振るわれたし、上履きや教科書を隠されたりもした。

 それが小学校卒業まで続き、中学からは目立たないようにボッチになることを選んだ。

 そうしたら虐められることはなくなった。

 高校生になった今は虐めていた人は別の学校にいったから大丈夫ではあるが、トラウマでボッチのままだ。

 人を助けたところで二次元のようにヒーローになれるわけではない。

 ヒーローになれるのなんて極一部で、自分はそうでないと思っている。

 それに海斗は虐められたことがトラウマで、助けた女の子のことのほとんどを忘れてしまった。

 過去の自分が女の子のことは忘れた方がマシと強く願ったからかもしれない。

 唯一覚えていることといえばピンク。

 その色が何故か強く残っていた。

 ピンクといえば愛奈の髪がそうだが、今のところ見ても特に何か思うことはない。

 海斗を虐めていた人の中にピンクを思わせる人はいなかったので当たり前だ。

 ただ、女の子を助けたことで虐められたのだし、その子のことを思い出したらどうなるのだろうか?

 小学校が一緒だったし、まだ近くに住んでいるかもしれない。

 再会したらお礼くらいは言ってほしいと思うのだろうか?


「まあどうでもいいか」


 どこにいるかもわからない、そもそも記憶もほとんどないのでどうしようもない。

 思い出して出会ったところでボッチのままでいるだろう。

 前みたいになるのはごめんだ。

 一人でいれば虐められることなんてないのだから。

 小学生の時の自分は愚かで、女の子を助けてヒーローになりたかったのだろう。

 今となっては笑えてくる。


「明日から話しかけてくるのかな?」


 ボッチでいたいのに、愛奈は友達になりたいと言っていた。

 そのことから明日以降も話しかけてくることが簡単に予想でき、ボッチでいたいと思っている海斗にとっては天敵だ。

 他の人からしたら優しい愛奈がボッチの海斗に話しかけてあげていると思われるだろうから虐められることはないだろうが、長く続くと話は変わってくる。

 間違いなく陰口を言われるだろうから、なるべく愛奈と絡みたくない。

 このまま放っておいてほしいが、あの様子じゃ無理だろう。

 ラノベを読みながら対策を考えなければならない。

 学校に行かないで引きこもればいいが、流石に学費を払ってくれる両親に申し訳ないので却下だ。

 学校に行きながらボッチになることを考えなければならない。


「てか、まず寝る方法を考えないといけないな」


 今日も眠れなかったら愛奈のことを考えている余裕はない。

 話しかけてきたら話しかけてきたで数日は大丈夫だろうし、眠れる方法を考えるのが第一だ。


「通販サイト見てみるか」


 流石にまた犬を飼うわけにもいかず、海斗はネットを使ってモフモフしていそうな物を探す。

 大型犬のように大きくてモフモフした物を買えば何とか寝れるかもしれない。


「モフモフが……」


 大きいぬいぐるみは数千円程度で手に入るものの、一番大事なモフモフ感がなさそうだ。

 ぬいぐるみだし、本物の毛並と同じように作るのは難しいのかもしれない。

 こればっかりはどうしようもないだろう。

 ただ、保健室では眠気がピークだったものの愛奈を抱き締めて寝れたし、ぬいぐるみでも大丈夫なのかもしれない。

 海斗は一番毛並が良さそうなぬいぐるみを購入したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る