第7話 わたしが言いたいのはそういうことじゃない!

「玲香に、吉川さん…?」

そう呟いた宇城くんはカタカタと震えていた。だが、それも一瞬で作り物の笑顔をその場にいる2人に向けた。

「どうしたの?2人だけなんて珍しいね…」

「これ、高坂さんのお弁当よね」

宇城くんの言葉を無視して、赤城玲香は続けた。

「これは、皮肉にも今日あなたが貰ったお弁当じゃなくて?」

「どうしてそれが、高坂さんのだって分かるのかな?」

「これは2日前高坂さんがここから1番近い雑貨店で1100円(税抜き)で購入したものだからよ」

いや、なんで知ってるんだよ。私あの時1人だったはず…。いや、背後に誰かいるような気は…え、怖。こっわ。

ここ1週間で1番の恐怖を感じた私はさっきまでの落ち込みようが嘘のように宇城くんがいる教室をガン見した。

すると宇城くんは今までの表情から一転、自嘲気味の笑みを浮かべた。

「あーあ、バレちゃった。せっかく玲香も攻略できそうだったのに」

「…」

「僕の本性を知られちゃった以上、玲香もただじゃすまな…」

「この間から玲香玲香言っているけれど、不快だからやめてくれないかしら?」

「フッ、僕のことが嫌いになったのかい?でも先に名前呼びを許したのはき…」

「何か勘違いしているみたいね。私はあなたに名前呼びを許した覚えはないわ」

「でもあの時!入学式の日に…」

「あれはあなたに言ったんじゃない。高坂さんに言ったのよ」

「そ、そんな…」

ああ、あれ私に言ってたのか。私と同様真実を知った宇城くんはといえば、驚愕の表情を浮かべていた。恥ずかしいだろうなー今。だって自分のこと好きだってずっと勘違いしてたんだよ?馬鹿みたいじゃん。

と赤城さんと宇城くんが2人で話していると…あれ?2人?花梨と宇城くんの友達らしき人は?

疑問がわいた、その瞬間。

「ぐはぁっ!?」

突如現れた花梨が宇城くんの頭を後ろからガッと踏みつけた。ええ、何してんの!?

「ねぇ、あんたのお友達はもう壊れちゃったよ?早いねー。あんたはどのくらいもつかなー?」

虚ろな目でそう問う花梨に、宇城くんの態度が急変した。さっきまでの余裕は欠片も感じられず、ガタガタと震えている。

「高坂さんのお弁当にどのくらいの価値があるか…私だってまだ!くっ…」

なんか赤城さんが悔しがってる。でもこれはさすがにやりすぎなんじゃ…半分暴力だし。

さすがに止めようと扉に手をかけるが、次の花梨の一言で、その手は止まってしまった。

「舞がどんだけあんたの為に一生懸命になってたか知ってんの!?あんたなんかに舞は勿体ねぇんだよ!おい!なんとか言えよクズ!!」

「吉川さんに同意ね。高坂さんに行った対価、どうしてくれようかしら?」

「やめっ…!顔を踏むのは、僕の顔がああああああああぁぁぁ!!」

中学の頃言われた言葉を思い出す。

『高坂さんってさーめっちゃ男に媚びてるよねー』

『なんか女子と男子でめっちゃ態度変わる』

『ぶりっ子だよね』

それの何が悪いの?私はちゃんと努力してる。流行ものは必ずチェックしてるし、髪だって気をつかってる。あんた達は何もしてないくせに…。何も知らないくせに。


教室を見ると、赤城さんと花梨が宇城くんを羽交い締めにしていた。この2人は違う。私のことを、分かってくれている。好きだと、そう言ってくれる。

私はある決意をすると、教室の扉を開いた。

「もういいよ」

瞬間、静まりかえる教室。赤城さんと花梨が、軽く目を見開いている。

「高坂…さん?」

「もう、十分だよ。離してあげて。大丈夫。全部、知ってるから」

「舞がそう言うなら…」

と言って花梨は足を宇城くんから退けた。すると宇城くんは何事もなかったかのように私の下へ近ずいてきた。

「高坂さん、聞いてよ。あの2人が…」

「邪魔。さっさと消えて」

「え…?」

男子に向かってこんな低い声を出したのは初めてだった。だが、決意はできている。嫌われる決意は、もうとっくにきまっていた。

「こ、高坂さ…」

「これ以上関わらないで。マジ不快。キモイ」

キツく睨んでそう言うと、宇城くんは

「っ…!いくぞ…!!」

と仲間と共に退散していった。女子に負けるとかだっさ。

「ごめん舞。恋の邪魔して」

「別に。てか私、あいつのこと本気で好きだったわけじゃないしね」

「そうなの?」

「うん。私、モテたいばっかりで、よく考えたら宇城くんのこと知りたいとかそういう感情なかったもん」

思えば宇城くんも同じだったのかもしれない。人から良いように見られたくて好かれたかっただけなのかもしれない。そう思うと彼に少し同情した。ま、絶対に許さないけど。顔も見たくないけど。

「玲香、花梨。ありがと。あと…」

私は2人の手をとると、ニッコリ笑ってこう言った。

「好き!大好き!!」

私はこの2人が、好きだ。女子から嫌われていた私を唯一見てくれた人達。初め好きと言われた時は戸惑いはしたが、それでも嫌とは思わなかった。

私は、この子達を、友達として、凄く…

「ぎゃーお!」

「ん?うわああああ!?玲香!?ちょっどうし…鼻血鼻血!!」

「す、好きって…好き…ガハァッ!」

「ち、違うよ赤城さん…今のは私に言ったのであって…」

「??って、違うよ!?今のは友達としてって意味で…」

「何を言っているの吉川さん…今、高坂さんは私のことをれれれ…玲香って…」

「え、だってあの時の名前呼びは私に向けて言ったものだって…って、玲香、花梨!?なんで倒れるの!?」

限界が達したらしい2人は、そのまま地面に勢いよく倒れ込んだ。

「高坂さん…!もう一度、もう一度好きと…!」

「舞ぃー?今のはどっちに向けて言ったのか詳しく…」

「ち、ちゃんと話を聞けー!」

いやいや、私がモテたいのは男子であって、おまえらじゃないから!そりゃ嫌な気はしなかっ…いや、やっぱり嫌だー!

放課後、どくどくと鼻血を流す玲香と、身悶えている花梨に必死に弁明している私というなんともカオスな構図が、約小一時間続いていた。

「あーもう!」

息を吸い、ありったけの声で叫ぶ。



「わたしがモテたいのは、おまえらじゃないー!!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

わたしがモテたいのはおまえらじゃない! 白咲実空 @mikumiku5

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ